56 薬を飲む前の甘い儀式(大学芋)
寒い。
寒いのに暑い。
家から外に出て寒く、駅までの歩きでちょうどよくなり、電車の中で汗ばむ。
駅から出て汗が冷え、会社までで汗ばむ。そして、外勤で冷える……。
そんなことを繰り返す内に、喉が痛くなった。
必要以上に目が潤む。
こらあかん。
早いとこ衣替えをして、部屋着を長袖にしたい。
残りの体力的に選択肢は2つの内1つ。
「薬を飲んで寝る」「1着でいいから衣替えする」
どっち? どっちがよりマシ?
そう考えている時点で、もうマシじゃない。
薬を飲んで寝るはずが、ベッドに座ったとたんに眠気に襲われる。掛け布団にくるまる余裕もない。
あぁ――。甘いもんが食いたい。
身体に染みて、滋養があるもんを作る余裕が欲しい――。
というわけで、大学芋を作るよー!!
俺の大学芋レシピは、難しくない。
洗ったサツマイモを乱切りにして、水にさらし、レンジでチンして、揚げ焼き。タレにからめる。以上!
本当の大学芋は、油で揚げるのだけど、実は俺は自宅で揚げ物をしない縛りで生きている。理由は掃除が面倒になるから。
そんなわけで、揚げ焼きはギリセーフ。
これがなくちゃ、大学芋が食べられないわけだ。
あんまりこだわりはないけど、唯一あるのは、サツマイモを乱切りするときに、どこかしらに皮が残るように切ること。
皮が崩れ防止になるし、香ばしい風味が楽しめる。甘さの中に、ほろ苦さを忍ばせる。これが、飽きないコツである。
乱切りしたサツマイモは、水にさらしておく。別にしなくていいんじゃね? としなかったら、切ったそばから変色していく。その速さはジャガイモの比ではない。
ちょっと食欲を減退させる色になる前に、速やかに水でさらすことをお勧めします。
水にさらす時間は15分~30分。
いそいそと、夏服を片付け始める。
切れたら、レンジでチン。
こいつも10分かかる。
その間に、冬服を出す。
レンジが終われば、焼くには多め、揚げるには少なすぎる量の油で揚げ焼きにする。
既にレンジで中までほくほくになっているから、この油の役目は表面をカリッとさせるためだ。ちょっと焦げ目がつくのもよろしい。
見た目が好みになったら、タレ作り。
砂糖、みりん、醤油、ゴマを入れて混ぜ、とろ~んとなったら、揚げ焼きしたサツマイモを入れる。
タレが芋に絡んで、照りが出たら完成。
あっつあつをつまむと、舌をやけどする。
わかってるのにつまんでしまう。
眼鏡が曇る。
甘い。熱い。痛い。うまい。
これが、人間に戻る瞬間だ。
冷めたら固くなる。
俺はそういうとこも好きだ。
温め直すもヨシ、飴と思って舐めるもヨシ。
薬を飲んで寝よう。




