5 双つの塔(焼き豚)
デデーン!
目の前にそびえたつ二本の豚肩ロース!
これから、こいつを焼くわけだ。
一本だけで700g。
独り暮らしの身の上で、総重量1kg400gもの豚肩ロースを買った。
計画的?
いいえ、衝動買いですわ。
なぜ、あの先輩は俺を目の敵にするのだろう。
「なんでこうなっちゃうかな? わかる? わかんないかぁ」
よりによって取引先で言われ、これ見よがしに自分の提案を出す。そのやり方に取引先も苦笑い。
上役の前では、後輩をいびっているとは臆面にも出さない徹底ぶり。
せめてもの救いは、多くの社員が先輩を苦手にしているところ。しかし、くらったダメージは忘れようとしても、じわりじわりと俺を苦しめる。
そんな時、俺は、料理に集中することにしている。
手の込んだ料理、量があったりしてもいい。
そこで、デデーン!なのだ。
今宵のメニューは焼き豚、1kg400g!!
焼き豚って難しそう?
案ずることなかれ。
漬けておくだけで、時間がおいしくしてくれる。
そのタイプ。
仕事が忙しいあなたも、きっとできる。今すぐじゃなくても、明日は幸せになれることをお約束しよう。
すでに、ジップロックで豚肩ロースは漬け込んである。
ニンニク、ショウガ、ネギ、醤油、酒の混合液から、取り出して、フライパンで焼く。
じゅ~、ブシュブシュブシュ!
これこれ! この音と香ばしい香りがたまらん。
涎がたまる。
眼鏡が光る。
一本700gの塊肉、熱を通すのは大変だと思うでしょ?
それが、今は表面に焼き色をつけるだけでいいんですよ。奥さん。
ローストビーフと同じってわけ。
ところで、焼き豚って聞くと漢っぽいのに、ローストビーフはハイソな雰囲気ないですか?
なぜだろう。
カタカナだから?
まぁ、いいや。後は、我が家の優秀なオーブンレンジへ入れて、番号を押すだけでいい。
ね、簡単でしょ?
炊飯器でできるとも聞くけれど、現在、我が家の炊飯器は米を炊くという大変重要な任務中です。
炊飯器が暇してるとかあんの? ってタイプなので、我が家はオーブンが主流です。
待っている間に、調味液をフライパンで煮詰めれば、タレのできあがり。
タレはたくさんできるから、半熟卵をつけておけば、翌日には煮卵に!
焼き豚はたんまりできるのでね、何せ1400gなのでね!
付け合わせの味噌汁を、毎度なじみのキャベツやらで作りながら、SNSに豚肉タワーの写真を投稿する。
『これが』 豚肉タワーの写真
『こうなって』 半熟卵が調味液に浸かっている写真
オーブンレンジが鳴った。
取り出して、焼き豚を包丁でカットする。
『こうじゃ!』 あふれ出る肉汁の動画で追い打ちだ。
丼に炊き立てご飯をよそって、その上から薄く切った焼き豚をこれでもかと乗せる。
タレをたっぷりかけた後、炙った海苔を揉んで散らす。
鼻歌が出る。
丼を持ち上げれば、眼鏡が曇る。
まずは焼き豚から!
一枚まるっと大きな口で頬張る。
柔らかい!
豚肉の甘さ、タレの甘じょっぱさ、それに海苔の香ばしい香り。
白米で追撃するが、こちらも肉汁とタレがしみこんで何ともウマい!
猛然とかきこんで、人心地ついたところで思いつく。
台所で、焼き豚をさらに追加し、まだ漬かっていない半熟卵をのせた。
明日まで待てなかった~!
箸で割ってやると、トロリと黄身が白身をつたう。
オレンジ色の黄身めがけて、タレをほんの少しかける。
黄身とタレを箸でかき混ぜる。
箸の先に付いたやつを思わずねぶるが、これがたまらない。
焼き豚でご飯を巻く。
卵を頬張る。
焼き豚を食べる。
はぁ~、幸せだ。
残った焼き豚は、明日以降、ラーメンに載せたり、チャーハンに入れたり、中華おこわって手も捨てがたい。
何なら焼き豚丼をもう一度食べてもいい。今度は白髪ねぎを添えて……。




