表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/55

34 欲望ブーストコーナー(鶏つくね)

 休みの日、近所のスーパーに買い出しに出る。

 幸せだなぁ。


 恋人との買い出しではない。

 いいコートとかいい服、家電の買い出しではない。


 一人で、卵とか、掃除機の紙パックだとか、そういうただの日常の買い出しだ。

 だってさ、普通の買い出しがままならないときってあるよね。


 貴重な休みを脅かす、他所の子のインフルエンザ。

 社会のしくみとして、子どもを守るのは当然だって俺は思うのね。

 俺みたいなお一人様は、社会の発展に根本的な数として貢献することはできないわけで、それなら、今、子育てをしてる世代の代わりをするのは必然。

 そういう使命感で俺は動いているんだけど。


 だけど、さー。

 それが毎回重なると、文句になってしまう。

 つがいも見つけられずに、子孫を残せないので、身を粉にする覚悟はあるのに、ツライときにはつらいと思うわけだ。


 だ・か・ら。

 だから、普通に休みが休みになるってのが嬉しい。


 なじみのスーパーに入るだけで、テンションがあがる。

 欲しいもんは全部買っちゃる!!

 そのくらい許されていいはずだ。


 このスーパー、なかなかのスーパーである。

 何しろ、角煮がどーん!と一本とか、直径三十cmあろうかというハンバーガーが売ってたりする。

 一人でたらふく食べられたら夢みたいじゃね?

 それを叶えてくれるのだ。


 自炊が好きなもんで、あまり惣菜を買うことはないのだが、欲望センサーの感度を上げるために、惣菜コーナーを見るのはかかせない。

 そう、惣菜コーナーは、会社で殺してきた欲望を思い出させる場所!


 竜田揚げ1kgに、牛乳寒天1パック、穴子一本寿司ね。ふむふむ。

 みんな、本当にこれ一人だ食べるつもり?

 ちょっとネジがふっとんでるね!?

 脳内で、まだ知らぬ仲間と固い握手を交わしてしまう。


 でも、俺が食べたいものはコレじゃない。

 おずおず、食欲センサーを開放する。

 つくねのチーズ焼き。

 でかいタコ焼きほどのつくねに、チーズとマヨがトロりとかかっている。


 これだ!!

 これを作ろう!


 鶏挽肉に、ニラ、砂肝を買い込む。ビールを忘れてはいけない。


 俺には、鶏つくねの秘伝のレシピがある。

 一つは、鍋にぴったりのふわふわ系で、残る一つは砂肝入りのふわっとコリコリおかず系だ。今回はおかず系のを作る。


 作るもんが決まったら、早歩きで帰宅。

 鶏ひき肉に細かく刻んだ砂肝、ニラ、片栗粉少々に、醤油、日本酒を入れてこねる。

 こだわりというか、日本酒は料理酒ではなく、どこかしらの名のついた日本酒を入れるのが好きだ。

 出張が多い関係で、出先では地酒を買うことにしている。そんで、好みでなかったら、料理に入れてしまう。好みでなくとも、味が引き立つこと請け合いなのでお試しあれ。


 できたタネを、ハンバーグのように焼くだけ。

 正直、手はべたべたするし、ハンバーグのように手離れはよくないし、めんどうだ。

 惣菜コーナーで買う方が安いし、圧倒的に楽。


 でも、自炊してしまう。

 好きなもんだけ入れられる楽しみがある。

 マヨ入りのと無しのと、チーズ入りのと無しのと。人によったら、大葉を乗せたりしてもいいし、バジルとチーズを乗せて、トマトソースにしたらイタリアンになる。

 もっと簡単な差なら、砂肝じゃなくてゴボウにしてもいいし、鶏軟骨ってのもいいよね。

 自炊には、無限の可能性があるってわけ。


 俺は、食いもんの好みが強いんで、誰かが作ったもんより、自分で好きに作った方がうまく感じる。逆の人もいるだろう。


 鶏つくねを作ると決まったら、それに向けての準備もぬかりない。

 好みのビールは冷やしてあるし、居室は温めてある。飯も炊いたし、野菜が食べたくなったとき用の味噌汁だってばっちりだ。


 フライパンの蓋を開ける。

 眼鏡が曇る。


 ふふふふふ。

 曇った眼鏡の男の頬がだらしなくゆがむ。


 炊き立てご飯をどんぶりによそい、鶏つくねを乗せる。さらに、焼いたフライパンで作ったタレをとろりとかける。

 肉汁でつくったタレは、ただのタレではないポテンシャルを秘めている。


 仕上げに白髪ねぎと七味をパラリ。


「いただきます!」


 木のスプーンでかきこむ。

 どんぶりからは白い湯気、荒い息がそれを掻き立てる。


 一口大のつくねにかじりつく。たんぱくな味わいながら、ニンニクのコクと砂肝のコリコリとした食感に食い出がある。

 タレのかかった飯が後を追い、喉が鳴る。


「あぁ、幸せ」


 牛や豚のような脂のうまさはない。だが、堅実な味わいがある。

 それに飽きたら、チーズを乗せればいい。


 こんな気ままな食事、お一人様でなくてはありえない。

 小さい子どもがいたら砂肝は固いだろうし、大きな子がいたらつくねよりハンバーグがいいだろう。

 七味唐辛子も、チーズの量も、好きなときに好きなだけ。

 これぞ自炊のよさである。


「願わくば、来週末もスーパーに行かしてくれよ」


 どうだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


〇 あなたも中谷のつぶやきをみてみないか!?

 中谷のSNS
▶https://x.com/_MediumValley_

 小説になってない食べ物のつぶやきもあります



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ