25 俺のオクトーバー(ジャーマンポテト)
台所の作業台の上には、じゃがいもの箱、巨峰に里芋、紅玉、みかんにサンマ、鮭の切り身。
The 秋! なラインナップにニヤニヤしてしまう。
少し涼しくなって、スーパーに行くのが楽しくて仕方ない。
生き帰りの歩きも快適だし、スーパーの中も楽しすぎる。
入ってすぐの果物コーナーで、みかんとブドウを買うかどうか悩む。
まだ緑がちなみかんの酸っぱくてさわやかなのも好きだし、巨峰も好きだ。男の一人暮らし、果物なんてっていう気持ちがよぎらないでもないが、見栄より食欲が勝つ。
誰が見ているわけでもなし、食べたいもん食べよう。
男の一人暮らし。
どうにか正社員でやってきている。
贅沢ではあるが、600円台の巨峰を買えないわけではない。
むしろ、誰に迷惑をかけるわけでもない巨峰は、自分の機嫌を取るにふさわしい。
そんなこんなの、結果が、現在の作業台を生み出している。
幸せに浸らせてくれ。
先週の連休が出張で、実質十二勤だった。
秋の味覚を楽しむくらいの幸せあってもいいはずだ。
この休み、誰にも邪魔されたくない。
そっとスマホの電源を落とす。
俺の休みは俺のためにだけある!!
鼻息荒く、じゃがいもの皮を剥く。
本日のメニューは、ジャーマンポテト with ビール。
だって10月よ? オクトーバーよ?
オクトーバーといえば、オクトバーフェストだよね。
ビール飲まなくてどうする?(吞兵衛はいつだって呑む言い訳を持っている)
ちなみに、本場ドイツにジャーマンポテトという名の料理はないそうで、よく似た料理にブラートカルトフェルンというのがあるらしい。
舌噛むわ。
贅沢な食べ物たちを見ながら、皮を剥いたジャガイモをくし型に切る。
切ったそばから水にさらしておく。
水にさらすのは、余分なデンプンを水に溶かして焦げ付きを減らす効果があるらしい。
おふくろがやってたので、見様見真似でやっているだけで、検証したことはない。
で、そのジャガイモをレンジで600Wで三分加熱。
まだ芯が残っているが、そのくらいでいい。
鉄パンに多めのオリーブオイルを入れ、ジャガイモを炒める。
ウィンナーを入れて、さらにローズマリーも投入。
ビール缶を傾ける。
先にウィンナーを入れて、焦げ目がついたら取り出すっていうレシピもある。
だが、俺は納得できない。
ウィンナーを取り出したら、皿が汚れてしまう。
その皿一枚を洗うのが面倒だ。
おいしさの為に妥協はできないが、面倒くささは人並みにある。
ウィンナーを取り出さねばならぬ理由は何か?
ジャガイモを水にさらすのくらいの理由がなければ、皿一枚を犠牲にする気にはなれぬ。
というわけで、今日もウィンナーを炒めすぎるくらい炒めることにする。
カリカリのウィンナーってうまいでしょ?
ビール缶を傾ける。
で、残りは、ホリニシとローズマリーを入れて終わり。
大変簡単。
なのに、ビールに合う。
最高!
乾杯!
さらに腹持ちもいい。
Yeahh!!
何なら、作りながら一本目は空けてますYO☆
本日は眼鏡もかけていないので、曇りません!
今、俺は、会社からも、眼鏡からも解き放たれている!!
フリーーダァァム!!
鉄パンごとこたつ机に移動する。
片手にはビールのロング缶。
かじりつけば、じゅわっと油と塩コショウのうま味が広がる。
ホクホクのジャガイモ、カリカリのウィンナーの皮が弾ける。
肉汁が口中に広がれば、脳汁が垂れる。
喉を鳴らして、ビールを飲む。
誰に気兼ねするでもない。
こう見られたいとか、こんな自分でいたいとか見栄も虚勢もいらない。
眼鏡を外す。
ピンぼけの世界は、世間とズレている。
でも、それでいいじゃない?
ちょっと涼しくなったこと。
とらわれずに、食べたい物を食べること。
あぁ、幸せだ。




