23 熱して冷まして(ローストビーフサンドウィッチ)
牛もも肉が500gデーン!!
まな板の上には、牛肉の塊を見るだけでニヤニヤがとまらない。
音を立てて肉を手で軽く叩く。
赤い肉に入ったサシから脂が手につく。
体温でついてくる牛脂特有の手ごたえ。
たまりまへんな。
薄暗い台所で眼鏡が光る。
塩をふり、コショウをゴリゴリ挽くのも楽しい。
すりおろしたニンニクを掌にとって、塩コショウと擦り込む。
本日は、こいつをローストビーフにしまぁっす!
ぬるい水道水で手を丁寧に洗いながら、鼻歌が出る。
ローストビーフ(以下ロービー)を作るなんて、凄いと思う?
実際には手軽な料理なんですよ。奥さん!
出張後に作れるくらいよ?
し・か・も、
変わった調味料とかハーブもなし!
今日のお肉は、さっき行ったスーパーで100g200円!
つまり、500gで1000円!
今夜の夕食にいかがですか?
俺はロービーにしちゃうよ!
だってさ、ローストビーフって特別感がない?
ホテルのビュッフェとか、お祝いとかアガルときに食べるイメージがある。
それを家で食べるってところが最高なのよ。
なぜ最高か?
ホテルのビュッフェなら、サーブしてくれている店員に「こいつおかわり何回目だよ」と思われているかもと気になってしまう。
そもそも、ステーキなら一度に200gくらい食べるのに、ローストビーフを同じだけ食べると目立ってしまう。
家でなら、どんだけ食べても人目が気にならない。
「では焼いていきましょう」
コンロにフライパンを置き、チチチチチと火をつける。
一人脳内料理番組をするくらい嬉しい。
この肉を見つけた時、二本買うかどうか迷ったくらいだ。
赤味の多い牛肉は俺の好みどストライク!
最高な状態でいただきたい!
温まったフライパンへ牛もも肉を入れる。
ジューっ
牛肉の焼ける甘い香り、ニンニクのかぐわしさが広がる。
焼き色が付いたら、トングで回して全ての面を軽く焼いていく。
ジューっ ジューっ
この音、この香り、この量!
今日のミディアムバレークッキングはテンション高めでお送りします!
こんなに大きいのに、強火のままでいいかだって?
今の段階では、中まで熱を通す必要はないのですよん♪
肉汁を閉じ込めるために表面だけ炙ってるってわけ。
完成したロービーを思い描く。
表面だけ焼き色がつき、中はうっすら桃色。
眼鏡が曇る。
あのレア加減がロービーの真骨頂!
それでいて、安心安全に食べるために熱も通したい。
他所にない変わった料理を目指した結果、食中毒なんてナンセンス。
バチッと安全な温度帯を踏んでいきますよぉ!
それを叶えるのは、君のお仕事だ!
オーブンレンジへ投入し、自動調理の12番に合わせてボタンを押すだけ。
そんな機能がない場合は、120度のオーブンで25分焼けばいい。
難しいことなしでいいよね。
おいしいってさ、あれこれ考えるのなしでいい。
おいしい幸せ~って言われたい。
それだけで幸せだよね。
特に出張の後はそう思う。
出発は始発、帰りは最終電車。
こんな強行出張ある?
理屈の上では二日間だけど、実質三日間みたいなもん。
だからウマイが欲しい。
堪えて、こらえて、欲望をスタックする。
我慢するのは何のため?
レンジが調理終了を知らせたら、粗熱が取れるまでラップでぴっちり包んで放置。
焼く時に鉄板に流れ出た肉汁は、フライパンへ入れてしょうゆと赤ワインでソースを作っておく。
部屋には牛肉の焼けた匂い、ニンニクにコショウ。
シンプルな構成だからこそガツンと脳に響く。
夜までいい子で待ってろよ!
ラップに包んでいたロービーを薄く薄くカットしていく。
500gもの肉の塊が、カットされることによってさらにカサを増す。
うずたかく積みあがるロービー!
再び俺のテンションが上がっていく。
甦れ! 俺の魂よ!
欲望を開放をしろ。
全てを解き放て。
大量に作れるから、食べ方だって自由よ?
マッシュポテトにホースラディッシュのど定番もいい。
熱々ご飯に載せるなら、海苔のように、何重にも重ねましょう!
ローストビーフで飯を巻いて食べるのは正義!
糖質が気になるなら、白米の代わりにサラダを巻けば健康的。
ロービーは、冷えてもうまい。
温かくても無論うまい。
今回は、ベーグルサンドにしてしまう。
ロービーができるまでの間に作ったベーグルに切れ込みを入れる。
そこに、これでもかとロービーを詰め込む。
噛み応えのあるベーグル、新鮮な野菜のシャキシャキ感、そこに肉のうまみが圧倒的なうまさで君臨する。
俺の食欲よ、ひざまずくがいい!
人心地ついたところで、SNSに投稿する。
ロービー500gを、今日も明日もいただきまぁっす!




