23 ソウルフルフード(焼売)
炊いた米を、タッパーに詰める。
「これは明日の分。今日食べたらあきまへんで」
実家から送ってもらったので、目下、米に困っているわけではない。
それでも、スーパーで米コーナーを見たら不安になる。
山と積まれた米袋が当たり前だったのに、失って初めて存在に気づく。正直、生きた心地がしない。
えぇ、米が好きです。
日本の米は、世界一!!
「新米が並んだら、好きなだけ食べるぞ」
農家の皆さん、日本をよろしくお願いいたします!!
それまで、米がなくとも食を楽しむ!
これがミディアムバレーというものだ。
既に作戦はたっている。
米がなければ、小麦を食べればいいじゃない。
よく聞く話じゃな~い?
もう、パンや麺には飽きているでしょ?
そんなあなたに、おすすめしたいのがこちら!
焼売でっす!(ドンドンドンぱふぱふぱふ)
作るの難しそう?
それがさ、そんな難しくない。
それに、餃子より楽にできるよ。
ほんとほんと、ぜひ作ってみて。(ほんとって二回言うだけで、嘘くさいわ)
帆立の貝柱を入れるだけで、買ったみたいにおいしいから。
俺、手作り焼売の小麦粉っぽい食感が嫌なんだよね。
ミンチといえど、肉を食べる満足感が欲しい。
そこに小麦粉や片栗粉は最低限でいい。
はっ、もしかして、これって低糖質食なんじゃ?
いいねいいね~。
あ、これは俺の勝手な妄想であって、どこにも科学的なエビデンスはありません。
そもそも、俺が焼売が好きなのは、シウマイのおかげだ。(横浜の人に伝われ)
横浜で有名なシウマイは、ジャンクな味がするのに、原材料に化学調味料の類は一切入っていない。
これがうまい。
シウマイを食べて、自分で焼売を作るようになり、そして、またシウマイを食べる。
どっちがうまいか?
どっちも捨てがたい!
しいていえば、ひょうちゃんが入っている分シウマイが勝るだろう。(醤油が入ったひょうたん型の陶器の焼き物で、いろんな表情パターンがある。コレクターもいる)
じゃあ、作り始めよう。
玉ねぎをフードプロセッサーにかける。
さらに、帆立の貝柱をフードプロセッサーにかける。
ボールに移して、豚ひき肉と玉ねぎ、帆立、塩コショウ、ほんのちょっとの小麦粉、隠し味に醤油を垂らして混ぜる。
タネができたら、餃子の皮で包むのだが、これはのんびりエアコンがかかったところでやる。
しぱっと、ビールの缶を開けて、半分ほど一気に飲み干す。
゛あ~。うまい。
続けてもう一口飲んだら、空になってしまった。
こたつに置いた空き缶の音が、寂しい。
いけね、焼売を包むんだった。
土日の料理は、のんびり作りたい。
俺のための俺の料理。
最高に贅沢。
焼売の包み方は、左手の親指と人差し指で丸を作って、その上に餃子の皮を置く、丸の窪みに乗せるようにタネをスプーン一杯置いて、窪みに詰めるだけ。
ね、餃子より簡単でしょ。
水に濡らさなくていいし、自立さえしてくれたら、形は気にならない。
おまけに、一つに入るタネも多いから、食べ応えもある。
ただ、要注意なのが、蒸す時間が長いこと。
二十分も蒸さないと食べられない。
これが待ち遠しい。
だから、俺は、ある程度できたら、どんどん蒸す。
網に直接焼売を乗せたらくっつくから、キャベツかモヤシを敷く。
野菜の上に焼売を乗せたら蒸すだけ。
こうしたら、肉だけじゃなく野菜まで食べられる。
しかも蒸野菜だから、油を使わずにヘルシー。
焼売からあふれ出る肉汁が野菜にしみて、うまい。(おん? なんか妙なこと言ったかな?)
次の焼売を包みながら、本日二本目のビールに手をかける。
待つ口さみしさに、耐えられない。
今日は、米を食べないんだから、ビールを余分に飲んでもいいよね。
可否を問う!(チビ中谷が、両手で〇を作って全員立ち上がる)
満場一致で可決!(裁判官中谷が、ハンマーを叩く)
そもそも、焼売は蒸す料理なのに、「焼く」と書くのはなぜなのか。
焼けば、もっと早く食べられるのではないか。
我慢できずに、SNSを検索すれば、たこ焼き器で蒸し焼きにしている写真があった。
「賢いな!」
もしかしてこれ、包まずにたこ焼き器の窪みに皮を乗せて、肉を入れていくだけでもいいのでは?
天才すぎる。
本当、俺ってどうしてこうも手間ばっかりかけてしまうのかねぇ。
だって、包むと食べたときに肉汁がじゅわってなるでしょ。
小籠包みたいなもんよ。
手軽に食べられるのもいいし、手間をかけるのもいい。
すべては、おいしさのためだ。
しかも、自己満足のおいしさのため。
次に蒸す分の焼売を包むが、楽ちんなので、すぐに包み終わってしまう。
完全に手持無沙汰だ。
そわそわし、二十分より前に台所へ移動する。
蒸し器の蓋を開けてしまいそうになって、辛子に手を伸ばす。
辛子を練り終わったら、また立ち上がって、蒸し器の前へ。
今度作るときは、たこ焼き器にしてみよ。
待てない。
前言撤回してしまうほど待ち遠しい。
タイマーの音が、ファンファーレに聞こえる。
そそくさと蒸し器の蓋を開ければ眼鏡が曇った。
「やれやれ」
眼鏡をTシャツで拭く。
がっついてはいけない。
蒸したての焼売は、めちゃくちゃ熱い。
それを思い出させてくれるのが眼鏡だ。
据え膳を横目に見ながら、次の焼売を蒸し器にセットして、両手に焼売の皿を持ち、ようやく居室に戻った。
目の前には、ででーんと焼売の山。
肉汁が滴り落ちる焼売を箸でつまむ。
唇で温度を確かめてから、口に放り込む。
「溜まらん」
肉汁の旨味、帆立の香りに涎が出てくる。
「――――、……」
左手が空をかく。
物足りない。
何が足りないのかはわかっているが、そこをビールでやり過ごす。
二つ目、三つ目と立て続けに焼売を食べる。
えぇい、俺には肉汁のしみたキャベツともやしがあるではないか。
酢醤油につけて、かき込む。
うまい。
本当、簡単にできて米がなくても腹がたまる。
これ最高。
うん。
小麦粉食べてるから、米はいらない。
それが本日のコンセプトだ。
おまけにビールまで追加している。
想像してしまう。
じゅわっとほとばしる肉汁、酢醤油の酸味としょっぱさ。
噛むとき、そこに米がなくていいものか。
ほわっと甘味が追加され、心も胃もあたたかくなるアレ。
どうしたものか。
腹の中に、本来入るべき物が入っていない。
もし、今が戦国時代なら、兵糧は蓄えねばなるまい。
我慢だ。
我慢の代わりに、米が入るべき位置に、作り立て焼売を入れよう。
残り少なくなった焼売を追加で食べる。
あぁ、飯食いてぇ。
今は、戦国時代じゃないよな。令和よ。
きっと来週あたりには新米が並ぶようになる。そう信じたい。
でも、万一、並ばなかったら?
迷う間に、次の焼売が蒸しあがったタイマーが鳴った。
再び、眼鏡を曇らせながら最後の焼売を蒸し器からあげる。
返す手で、米の入ったタッパーを持った。
曇りなき眼で見よ!(眼鏡は曇ってます)
もう迷いはない。
知ってる?
焼売と米って最高にあうよね!