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21 身体は冷やし、心を温める(冷汁)

 風呂上り、ワクワクして居室へのドアを開ける。


 ひやひやや~ん


 全身に冷気を浴びる。


 ビバ文明の利器よ!

 もうエアコンなしの生活なんて考えられないね。


 Tシャツにパンイチの姿で、扇風機を足の指でON!

 直で当たる冷風が気持ちいい。

 扇風機に向かい合って座る。


「あ~、ワレワレハウチュウジンダ」


 風に揺れる声がおもしろい。

 小学生(ガキ)の頃からやってるが、いっこうに飽きないのが不思議だ。


 三十路である。「くだんないことやってないで、歯磨きしなさい」と叱ってくれる親は、ここにはいない。

 それどころか、風呂上りパンイチの親父と同じ格好だ。


 仕方ないね、仕方ない。

 これはDNAがさせる技で、俺がだらしないわけじゃない。

 うん、きっとそう。


 汗をだくだくかき、俺の身体は今、塩っけを欲している。


 えっこらせと立ち上がり、台所へ行く。

 今日の献立に抜かりはない。

 親父直伝の冷汁(ひえじる)だ。

 九州の郷土料理らしいが、縁の無い親父の家に伝わっている不思議さよ。


 兼業農家の親父は土日になると田舎の田んぼへ帰り、農作業をした。日に日に日焼けで黒くなり、食欲がなくなっていく。そんな夏の終わりに出てくるのが冷汁(ひえじる)だ。


 昆布と鰹節で出汁を取り、粗熱が取れるまで放置。

 出汁が面倒な場合は白だしに氷水でよい。


 同時に電子レンジで鶏ささみ肉と豆腐を別々にチンして、ささみはほぐし、こちらも放置。

 めずらしくレンジを多用しているのは、冷汁(ひえじる)の醍醐味は、ちょっとでも涼しくだから。


 他にはきゅうりを塩でこすってから、薄切り。

 ネギ、大葉、みょうがもみじん切りにして混ぜておく。

 ショウガをすりおろす。

 味噌をアルミホイルに薄くぬり、トースターで焦げ目をつける。


 できあがった何もかもを冷蔵庫に入れるために、扉を開いたら眼鏡が曇った。

 冷気が気持ちいい。

 冷蔵庫の中で暮らしたい。


 用意した何もかもを冷蔵庫にぶち込んだら、冷えるまで待つ。

 おふくろは、親父のために昼間に仕込み、帰ってくるまでに冷やしておいた。

 親父もそれを期待して、収穫したきゅうりやみょうがの夏野菜を持って帰った。

 思いやりでもあっただろうし、案外おふくろも台所仕事が暑かったのかもしれない。

 今となってはわからない話だ。


 さてお夕飯ですよん。

 よく冷えた出汁に焦げた味噌を溶く。

 あとは仕込んであったもの全てを丼に好きに入れれば冷汁のできあがり。

 おっと、すりごまを忘れてはいけない。

 お好みでかんきつ類を絞ろう。


 実家は瀬戸内の漁師町だから、レモン、かぼす、すだち、甘夏と、その日の気分にあわせてよりどりみどりだった。

 買わなくてもいい、地域の誰かから貰ったのがいつだって台所にある。

 今思えば、贅沢な環境だ。


 ずずずっとすすると、冷たくて気持ちいい。

 すだちの爽やかな香りが食欲をそそる。

 失った塩分がチャージされるだけで、なんとなく食欲がわく。


 きゅうりのカリカリした食感も、香味野菜の複雑な刺激もいい。

 今回は、ささみを使ったが、鶏むね肉でもいいし、焼いた鯵をほぐして入れるのもうまい。

 食欲を取り戻した二杯目は、炊き立てご飯の上に冷汁をぶっかける。

 冷え汁がぬるくなるが、食欲は取り戻している。

 現代版光成方式といえよう。


 暑くて食欲がないと言っていたのは誰だったか。今年も親父様のレシピで夏を乗り越える。

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