19 身の上に心配あーる参上(たこ焼き)
じりじりと照り付ける太陽の下、本社のある地域の小学校の校庭で、鉄パイプで盆踊りの台を組む。
おかしい。
熱中症警戒アラートが発表され、原則屋外での活動は中止のはずだ。
なのに、俺は地域の夏祭りのために奔走している。
台の一番上に、和太鼓を設置しながら、鳴りやまない警戒アラートと、今朝の部長の話をすり合わせる。
「今日は一年に一度の夏祭りです。みなさんにはCSR活動の一環として会場設営をしていただくわけですが、設営で熱中症を出さないよう対策をして望んでください」
建前と本音、難しいところだ。
そもそも、CSRって何だよ。社会貢献って言うほうが分かりやすいのに。
関係ないところまで飛び火するくらい、心の中で愚痴る。
提灯を運動場の端まで張り巡らせるころには、日差しはやわらぎはじめた。
「提灯オーン!」
提灯が灯り、盆踊りのBGMがかかる。誰かがさっそく和太鼓を試し打ちする。
ここまでくれば、夏祭りを楽しもうって気分になるのが不思議だ。
「中谷さん、またたこ焼き係?」
「ゆずりません」
俺はたこ焼きが好きだ。
食べるのも好きだが、焼くのも好きだ。
一人たこ焼きパーティーをするくらい好きだ。
無論、こだわりがある。
生地に入れるのは、たっぷりのキャベツにねぎ。今回は小学生が相手だから、紅しょうがは入れない。
こいつをミキサーで粉々にする。
次いで、卵に天かすも入れる。後から入れてもいいけど、じゃんじゃん焼きたいので、入れてしまう。
たこは大きめもいいし、まぁ、お好みで。
で、甘辛く煮たこんにゃくを小さく切ったのも用意する。たこの量をケチっているわけではない。ちょっとピリ辛で、マヨと中和して、本当うまい。
市販のたこ焼きにはできないうまさがあるなら、俺が焼くなら入れるっきゃないのだ。
屋台で、ガスの栓をひねり、チャッカマンで着火する。
ボッ
青い炎が灯ると、もう嬉しくて仕方ない。
家のたこ焼き機は電気、ガスで大量に焼けるのは、夏祭りのときだけだ。
CSRが何ちゃらと文句はあるが、声に出さないのは、たこ焼きを焼く楽しみがあるから。
黒々とした鉄板に、油をしく。
ステンレスのコップに注ぎ口がついた粉つぎで鉄板のくぼみに生地を注ぐ。
じゅう~、じゅう~。
盆踊りの音、集まり始めた子ども達の話し声、生地が焼ける音。
たまらんね。
キャベツやねぎを粉々にしたのは、実は粉つぎの注ぎ口に詰まらないようにするためと、焼きやすくするためだ。
野菜が大きいと、たこ焼きホールに納まりきらない。
それに野菜は加熱すると水分が出るので、そこだけ生地が緩くなってしまう。
粉々にすると分散させることができる。
手早くたこを入れ、追いかけるようにこんにゃくを入れる。
蓋をするように生地さらに入れて、たこ焼きホールから生地を溢れさせる。
目の前には、既に列ができ始めている。
久しぶりに会った小学生たち、同窓会感覚で集まった中高生たちは喋るのに忙しいようだが、列の前の方だと、焼ける様子に目がくぎ付けだ。
チャキーン!
屋台の明かりに、たこピックが光る。
ふふ~ん。
鼻歌を歌いながら、色が変わった生地に十字に分ける。
はみ出した生地を折りたたんでいく。
さて、ここからが本番だ。
ぷつぷつしている生地にたこピックを入れ、端まで突き抜ける。
焼けた皮にたこピックの先をひっかかった手ごたえを感じたら、くるっと、ひっくり返す。
「おぉ~」
見ていた子ども達から歓声があがる。
何てことありませんヨ。
子ども相手に、澄まし顔で、次々ひっくり返していく。
カッカッカ。
たこピックが鉄板に当たる音、焦げない内にくるくるひっくり返し、さらに形を整えていく。
既に焼きそばチームはソースをかけて、いい匂いをさせている。
待ってくれているお客さんのため、ここで気を抜くわけにはいかない。
たこ焼きにできて、焼きそばにできぬもの。
それは、究極の球!
ふくふくに膨らんだ生地の中は、とろっとしていて、プリプリのたこ。ピリ辛のこんにゃく。
完全なるパーフェクトが整然と並ぶ鉄板が、熱い!
こんがり焼けたら、お馴染みの舟皿に盛る。
眼鏡がくもる。
ソース、かつお節を乗せて差し出す。
「あいよ! 青のりとマヨはお好みでかけて」
最後に好みに仕上げられるってのも楽しいらしい。
まぁ、物ができるのを見るって、単純におもしろいよね。
さぁ、夜は長い。
今宵は、中谷秀和、こだわりの普通のたこ焼きを、焼いて焼いて、焼こうじゃないか!
耳の裏がじゃりじゃりするのは、汗からできた塩で、本日の勲章だ。




