18 青い二人(隣の弁当)
内勤バンザイ。
動き回る仕事じゃないと眠たくて困るって人もいるが、俺は机でできる勤務が好きだ。
なぜなら、机仕事のときは持ってきた弁当が食べられるから。
早めに仕事があがれると、夕食が作れる。
夕食を多めに作ると、お弁当に回せる。
朝、冷蔵庫で冷やしていた弁当を、保冷剤で冷やしながらクーリング出勤。
総務の近くにある会社の冷蔵庫にIN。
昼食時間になったら、いそいそとレンジにかける。
外食もコンビニも弁当屋もうまいが、弁当もうまい。
何しろ好きなもんしか入っていない。
マグカップにインスタント味噌汁を注いで、眼鏡が曇る。
眼鏡が拭けたら、お待ちかねのランチターイム!
「中谷さん、見てください。今日は私もお弁当なんです」
隣の席の若手が話しかけてきた。手に持っているのは、冷凍うどん一玉が入った弁当箱。
麺はレンチンするとして……。
「汁はどうすんのん?」
「これです!」
見せられたのは、コーヒーフレッシュの大きいやつ。中に一人前のタレが入っていて、ぷちっとかけるだけで、気軽にいろんな味が楽しめる商品だ。
「なるほど」
素麺やうどん、パスタを持ってきたことはあるが、このタイプのタレは思いつかなかった。若いだけあって、柔軟だ。
「中谷さんのお昼は何ですか?」
さして食べてないので、弁当をそのまま見せる。
「夏野菜のラタトゥイユと鶏ごぼう、卵焼き」
「わぁ~、すご~い。いいな、お料理上手で。うちは旦那と一緒に作ったけど、なんだか面倒くさくて。今日は夫婦そろってうどんだねって」
長い髪を片手で押さえ、ずぞぞっとうどんをすするのを見ていると、ちょっとうらやましい。今夜はうどんにするべきか――。
「同じうどん弁当でも、つゆの味が一人ずつ変えられるから便利なんですよ。でも、最後の一個をどっちが食べるかで、今朝もケンカしちゃって」
雑談のフリをしたのろけを適当に聞き流し、頭の中では、うどんの具を検討中。
白髪ねぎ、カイワレ大根、豚肉の冷しゃぶにワカメってのはどうだろう。
そのためには、スーパーが開いている時間に帰らねばなるまい。
うどんを食べ終えた若手は、保冷バッグから、何やらビニル袋を取り出した。
「お弁当のいいとこって、野菜が豊富に取れるところだなって」
「え、それ何?」
失礼を通り越して聞いてしまったのは、若手がかぶりついた代物だ。
「え? きゅうりですよ」
「いやいやいや、きゅうりってことはわかる。それ丸ごときゅうり?」
「やだなー」
だよね。きっと浅漬けとか何かだよね。いやしかし、丸ごと?
「他に何に見えるんです? まんまきゅうりですよ」
「えぇぇ!?」
ボキっと音を立ててかぶりついた。ボリボリ健康的にむさぼっている。
「お店のじゃないから、切らなくてもよくて」
どうだろうか。切る切らないは個人の自由だが、旦那はそれでいいのか?
「今度はトマトも持ってこようかな。お弁当を持ってくるようになったら、また一緒に食べられますね」
たぶんトマトは、工夫して持ってこないと、満員電車で潰れてしまうのではないだろうか。
杞憂してしまうが、きっといらぬお世話だろう。
ワイルドさに驚いてしまったが、若手の弁当も、食べたいものを食べたい方法で食べている幸せだ。
あの若さで結婚し、二人で楽しんでいるのだから、羨ましい。
「そのタレ、何味がおすすめ?」