17 ふかふか(肉まん)
あぁ、やっと、終わった。
春の人事異動が終わった後、今年の展示会運営員が決まった。
俺である。
ビックサイト、幕張メッセ、パシフィコ横浜、ポートメッセなごや、インテックス大阪、マリンメッセ福岡などで行われる大規模な展示会は、企業が商品やサービスを紹介して、顧客開拓・プロモーション・ブランディング・情報発信などなどをする大きなイベントだ。
社の内外、広範囲にわたって、ペコペコ頭を下げて調整に調整を重ね、出張してきたが、その苦労ももう終わり。
終わりなんて言ったら、叱られるか。
動員数やら反響やら、これから分析が待っている。
が、
今日くらいは、言っていいよね。
俺が俺を許す。
終わったぁぁぁぁ!!
台車で三段重ねの段ボールを、社用車に運びながら、心の中でガッツポーズを決める。
今宵、俺には迷いはない。
パシフィコ横浜で、荷物とさよならし、横浜中華街までタクる。
タクシーアプリで呼べばすぐ、ライドオン。
迷わず華正樓へ入店したら、肉まんを二つ買う。
横浜で肉まんといえば、俺イチは華正樓。
直径十一㎝、高さ七㎝という巨大さであって、さらに味もいい。お値段もなかなかよろしい。
肉まんと侮ることなかれ。一個喰えば、成人男性も満足のボリュームがある。
え? なんで二個買ったか?
いいでしょ。今日くらい許して。
お昼だって食べてないのよ。二食分食べさせて。
というわけで、家に帰ってきました!
あれれ~、おっかしいぞ。仕事終わりが、金曜じゃなくて、日曜だね。
明日も仕事☆
血の涙を拭い、肉まんを蒸す。
一人暮らしの男の部屋に、蒸し器はない。俺の部屋にもない。
だから、即席の代用品を用意する。
まず、一番大きな鍋に中皿を入れる。
そこに、皿の上に金属製のザルを置く。
水を注いで、沸騰するのをしばし待つ。
蒸し時間は二十分。大変な手間だ。
マグカップに水を入れてレンジというのも楽だが、華正樓の肉まんだけは手間を譲れない。
展示会がいかに大変だろうと、会社員としては当たり前のことだ。褒められたりはしない。
だが、俺は俺を褒めていい。
当たり前を、ちゃんとこなした俺を褒めるために、俺の大切な儀式をちゃんと行う。
スマホのタイマーが鳴り、台所へ行くと、鍋がシュンシュンと水蒸気を上げていた。
中には、投入前の二倍ほどにふっくら膨らんだ肉まん。
蓋を開けた。
眼鏡が曇る。
トングで皿に入れ、ビールを持って部屋に戻る。
仕事の成果を写真に収める。
ちゃんと発酵した生地は、ふわふわで、持っている指が真っ赤だ。
ふーふー息を吹きかけるのも、もどかしく、かぶりつく。
肉汁がじゅわぁっと溢れた。顎をつたってジャージに垂れる。
醤油ベースの肉汁が染みた皮だけでもうまい。
いや、まだだ。
分厚い皮に包まれているが、肉もハンバーグかのごとき存在で、ごろんと入っている。
思い切ってかぶりつくと、豚肉のうま味!
シャキシャキのタケノコ!
玉ねぎが甘い。
ぎっしりつまった肉餡に、ふわふわの皮は、まさに食事にふさわしい。
一気に平らげ、最後にビールを飲む。
プシュっ! ゴキュっゴキュっ!
ぷはぁ!!
「あ~、幸せ」
“肉まんうまし“
忘れていることにやっと気づいてSNSへ投稿。
おつかれさま。俺。