神は人のこころなど
「えっあたし死んだはずじゃ…!?いいえこれは……!!」
というわけであたし、ことセカリナ・ヒョーイング公爵令嬢は高熱のあと前世の記憶を思い出したの!
前世はふつーの日本人、死んだのは二十歳くらいかな??
今の姿は——
「これって悪役令嬢だわ!」
ちょうクソガキの五歳児だったの!!
ワガママ三昧意地悪三昧野菜は食べないメイドはいびる甘やかれたというも甘いほどの両親の溺愛に、我こそが世界一かわいいと思い込み美少年王子との婚約をもぎとりどちゃくそ嫌われている球体幼児だったのよ!!
「無理ーーーー!!!」
特に思い当たるゲームとか物語とかないからヒロインでてきて断罪されるとかそーいうのあるかわかんないけど普通に無理!!あたし丸すぎ!!!っていうか両親以外の視線がつらい!!無理〜〜〜!!!
ってわけで改善することにしたの!
意地悪やめてメイドさんに謝ってダイエットして体力つけてうんぬんかんぬん……
まあ転生もののテンプレよね!前世で百回読んだわ!!
おかげで目鼻どこ?手足ある?だったのがスッキリ美幼女に。最悪だった評判はヤンキー猫理論でより良くなり。王子様ともラブラブに!知識チートで領地も豊かにしちゃったわ!!
王子様「君は素晴らしいよ」
お父様「自慢の娘だよ」
モブたち「一生ついていきます!!」
お母様「化け物め娘を返せ!!!」
…………。
そうなの。
変わったあたしをお母様だけは受け入れられなかったのね。
これは娘じゃない取り憑かれている返せ返せって喚いて騒いで、気が狂ったと言われて閉じ込められちゃったのよ。
しかもあたしを虐待してたってことになった。
あたしの変わりようが凄かったからね…。周りもなんで??てなるじゃん。だから、お母様から溺愛という名の優しい虐待をうけていたのを、病気で一時的に引き離されたためあたしが違和感に気づいた、ってことになったわけ。
まあ実際そんなようなもんなんだけど。あんなの虐待よねえ。
前世の記憶が戻ったからって、今世の記憶が無くなったわけじゃない。あたしはあたしなわけだし……。
思うようにできない娘は認められないって、そんなの毒じゃんね。
お母様が閉じ込められたのは悲しかったけど、仕方ない……全部は手に入らないもんね!
ってわけでその他は超ハピハピ!!王子様と結婚してみんなにソンケーされて国も平和で子供もうまれて……完!!!末永く幸せに暮らしました〜〜〜♡♡♡
娘が「えっ私……死んだはずじゃ……」なんて言い出すまでは。
娘は生まれた時から美しく無邪気で天使のようだった。
王子様……今では国王となった彼との間の一粒種。大事に大事に育てた。
それでも幼児特有の発熱などはあり、ある時拗らせてひどい高熱となり意識を失い———……
目が覚めたら、別の女になっていた。
「あのっ……もしかしておかあ、さま……も転生者ですか?あの私、日本で女子大生で……」
聞きたくなかった。
あたしの娘はそんな喋り方をしない。そんなうかがうような目で見ない。
舌足らずにおかあたま、と呼んで全幅の信頼を持った目で見上げてくる。
「で、でも、今世の記憶がなくなったわけじゃなくって……」
はじめておかあたまと呼んでくれたのも、手を繋いで花盛りの庭を歩いたのも、蝶を追って笑ったのも、作ってやった花飾りを頭に乗せて喜んだのもお前ではない。
この女は簒奪者だ。
「まあ……そうだったの。じゃああまりベタベタするのも変かしら。友達親子って感じになれるかな?二人だけの秘密ってことで!」
あえて前世らしい話し方で聞けばホッとしたようにうなづいた。嘘でも「それでも私の娘だから」とは汚らわしくて言えなかった。
大体嗜好すら変わっている人間が今世の記憶があるからなんだというのか。菓子もドレスも好みが変わっていた。フリルを喜んだあの子はいない。
今なら母の気持ちがわかる。どれだけ憎まれたかも。
だが、だからこそ娘を冷遇はしなかった。同じ目にあいたくはない。
あの時思った「好き好んで転生したわけじゃないのに!」という気持ちを知っている。娘もそう思うだろう。
そして、あたしと同じようにやり返すだろう。
口先で何を言おうと、母などとはかけらも思っていないのだから。
元から王女一人では、と言われており、次の子もすぐできた。王子だ。この国は男系相続ではないが、長子が絶対というわけでもなく、かかりきりになっても文句を言われない程度に格差があった。
とはいえ冷遇はしない、周囲からみて妥当な範囲、本人からは大人同士の距離感と思われる程度に対応した。
あたしにない前世知識もあったので、発展に必要な知識をもった、「そういうモノ」と思うことにした。
殺してやりたかったが。
そして時が経ち……
娘が女王となった。
チートやりすぎたのだ。クソが。
下の弟妹もよくできた子らだったが、娘が強すぎた。
潰れろこんな国と思ったがどうにもならない。夫と離宮に引っ込み、後は全て任せましたというていで面会をなくし、あんなもんいなかったことにして、余生を過ごすことにした。
それでも沸々としたものは抱えていた。娘を弔うことさえできなかったのだから。いくら他に子が育とうと、失われたものはかわらない。
あの子が殺されてから、心から楽しいと思える日はなかった——……今日までは。
「娘が……!!!娘がいなくなりました……!!!!」
あの女が先ぶれもなく離宮に駆け込み、娘が高熱で意識を失い、意識がもどると別人になっていた——……そう告げた時の気持ちといったら!!!
「キャーーーーーーーーーハッハーーーーーー!!!!!キャーーーーーーーーー!!!!」
老いた喉からこれほどのというようなカン高い嬌声が溢れた。
「あんたも!!!あんたもね!!!!あはははははは!!!!あんたも!!!!あは!!あははははははは……」
娘は悟ったのか、サッと顔を青ざめさせ、だって……でも……などと言っている。
あたしは気が狂ったように笑い続けた。ように、かどうかはわからないが、こんなに幸せなことはなかった。
で、女王様がどうしたかというと。
娘にはあなたのせいではないが、どうしても我が子を殺された気がして恨んでしまう、自身そうだからわかるが別人なのだからと正直に告げたらしい(ほらやっぱり!)
冷遇はしないが親子として接しもしない、まああたしと同じこと。
違うのは下の子の対応だった。
あたしも彼女もその娘も記憶を取り戻したのが五歳だったことから、六歳になるまでは親子として接しない事にした。
もとより子育ての大半は乳母やなんやの仕事であるが、あやしたり出かけたり前世からみればいいとこ取りの子育てくらいは王家とはいえ普通はする。それをなくした。
また失うかもしれない事が恐ろしかっただろう。
ビビリのヘタレめ。
あたしは耐えた。だって赤ちゃんかわいいし。
一番かわいい時期をビビリのヘタレのせいで失くすなんてマジでアホだわと笑ってしまった。
さてそれから……
孫娘の更なるチートもあり国はガンガン発展した。
ちなみに第三子も五歳で前世記憶を取り戻したのであの女の懸念は間違いではなかったといえる。かわりに他の子とも距離はできたそうだが。
やがて孫娘が王位につきやはり同じように五歳までは接しないことにした。
そして第一子が五歳をすぎ親子として過ごすようになり、これは次代は前世持ちの呪い(既にそう受け取られていた)から逃れられたのでは……と、まだ三つだった第二子を筆頭に他の子も含め普通に過ごす事にした。
しかし八歳で第一子が前世記憶を取り戻して発狂たそうな。聞いた時はなんかもう笑ってしまった。ひどくね?
あとは弟(あの女の第三子)のチート持ちが継ぐそうです。
これが神の仕業なら嫌がらせにもほどがある。
そんなことを思って……後、どうなったかは知らない。
死んだから。長生きだった〜。見届けたるねんという執念だったわ。
なんでこんな事が起こったのかも、なんであたし達がこんな目にあったのかもわからない。
転生……憑依された娘を受け入れられればよかったのかもしれない。でも、それはできなかった。
それだけは、できなかった。
ふわふわした心地でどこかに吸い上げられていきながら、もしもあの世で母に会えたら、何気になんもきづかねー夫が一番むかつかねえすか??て聞こうかなと思った。ぶん殴られる気しかしないが。
そしたら娘たちがくるのも待ってみんなで神様ぶち殺しにいきたいなあ。
そんなふうに、あたしはどこかにとけていった。
ありがとうございました!♡