帝都参謀本部付き将校ロベルト・ベルゲマンは考える(2)
『ロベルト、窓の外を見たまえ』
『は、はい。窓の外ですか』
久々に、上官に名前を呼ばれて少し懐かしい気持ちになる。
言われた通り、窓の外を眺めたら、そこには我々の軍服の色より少し灰色に近い服を着た兵士たちが整列で移動していた。
『ロベルト、君にはあそこに、何が見える』
『は、はい。『植民地交じり』のやつらのことでしょうか』
今町を歩いてるということは、今日島から帰ってきたやつらだろうか。
ここから帝都まで、あと200㎞もない。戦線をわざわざ分ける意味はそこにあるだろう。
私は窓の方から目線を外し、閣下の顔を望め込む。
閣下はここで、もう一度煙草を深く吸い込む。そして吐き出した。
『帝国には、まだ余力がある。』
『か、閣下?』
『あと1年は、持つでしょう。帝都守備部隊の血を流さず、ここはあと1年持つ』
閣下が、少し悲しい顔になる。この方は、本当に昔から、分かりやすいお方だ。
思えばそうだろう。敗戦続きで、忘れそうだが。
帝国、我がエトルミシア帝国は、本来、世界の冠たるべき存在であった。
しかし、帝国の旗が1日中ずっと太陽に照らされる日は、もう2度と来ないだろう。
『ロベルト、まだ君に焦ることはない。先ほど見せた資料はそのまま帝都まで持ち帰って解析に回そう。コピーは任せるが、くれぐれも慎重に頼む。』
『はい。閣下、ご心配なく』
『それから、ついでだが、これも頼む。』
閣下は机の底から、一枚の紙を取り出して私に渡した。
『例の兵士だが、暫く前線から離れてもらうことにした。』
『はい。一応、理由をお伺いしても?』
『貴官が気になるなら、別に教えてもいいが、大した理由じゃない。』
閣下は紙を私に押し付けたあと、もう一度窓の外を向く。
『儂の勘がそうした方がいいと言ってるだけだ』
『閣下の勘は、あの撤退命令の時から外したことありませんね。』
『この紙は、儂からの推薦で士官学校に通わせる証だ。一応例の書類を持ち帰った功績も加えてるが、秘密事項ということにしろ。』
閣下から紙を受け取った私は少し驚く。今の帝国の状況にしろ。15歳からの従軍は極稀だろう。
しかし、この上半身含めた写真を見る限り、15歳とは、少々年齢詐欺が含まれてるのではという疑念を抱く。
閣下の部屋から出て、私の車まで歩く途中はずっと閣下からもらった書類を翻していてた。
もし、ここに記されてることが事実なら、理不尽だ。
理不尽が、すぎる。
もし、神という存在がいるとしたら。
なぜ人にこんなに残酷なのだろう。
しかし、神には神の仕事があり、私には私の仕事がある。
一刻も早く、これを帝都に持ち帰らねばと、私は心に決めた。




