帝都参謀本部付き将校ロベルト・ベルゲマンは考える(1)
今日は、とある古い知人と会うことになった。
私は朝から車で3時間半道路を走り抜け、目の前に立つ懐かしい建物に足を踏み入れた。
ドアノックすると中から懐かしい老人の声が聞こえる。
『入りたまえ!』
『はっ、ベルゲマン中佐入室いたします』
目の前にいる方は、北方方面軍司令――トラントフ中将、私の元上司だ。
『貴官はもう中佐か、帝都で出世して喜ばしい限りだ』
『ご冗談を、閣下。閣下のご推薦があってのことですので』
閣下の目線が、少し机上のほうに向いた
『今日、貴官を呼んだのは他でもない。まず、そこにある資料を読みたまえ。粗略で良い。話はその後だ。』
閣下の目線の先にある資料、タイトルが丁寧にスカベラブ連邦公式用語で書かれている。帝国語に翻訳すると『極秘1917』という意味で間違いないだろう。
2~3ページめぐると、私は閣下のほうへ顔向ける。
『閣下、この資料は一体どこで…?』
『貴官もよく知っている。旧北司令部跡付近だ。ご丁寧に我々の定時偵察ルート上に、気絶した我が軍の兵士と一緒に置かれていたそうだ。』
閣下の言葉を咀嚼すると。連邦の情報偵察力は、遥かに我が軍を上回る。我々の偵察ルートは連邦にばれている可能性は高い。そこで見つかったということは…
『閣下、それでは、この資料の内容が、我々を陥れるための偽情報である可能性は高いと思われますが。』
『昔から、貴官は気が早いようだな。もう一つ、貴官には話していない情報がある。』
閣下は煙草を口に咥え、煙を深く吸い込んだ。煙を吐き出すと共に、閣下の言葉が続く。
『一緒に発見された兵士の体には、複数の拷問跡が確認されている。おそらく椅子に縛って、2~3日もって丁寧にやらないと、あんな傷は付けられないそうだ。連邦式の拷問に詳しい諜報部による、確かな情報だ』
『し、失礼、閣下、それが一体どうしたと言うのでしょうか。』
私の戸惑った顔を眺めて、閣下は眉を顰める。
【しかし、その兵士を治療した軍医によると、最後と思われる傷が付けられてから1日も経っていないそうだ。』
『……ま、まさか…』
まさか、あり得ない。あそこ。あの場所から2日以内で移動できる距離は、真空地帯だ。連邦の施設ところか、連邦軍の偵察兵すら、極まれにしか近付かない。一体どうやって、あそこで拷問したというのだろう。
『貴官が戸惑うのは無理もない。少し、貴官に思い出して欲しいことがある』
『は、はい。何でしょうか、閣下』
『貴官は、7年前の大規模抗戦のことまだ覚えているかね』
7年前、連邦軍による大規模な夜襲作戦により、帝国の北部の国境線が突破されたことは、帝国人であれば忘れるはずがない。
『もちろんです。あの地獄は、忘れようにも忘れられませんので』
『そういえば、貴官も、その場にいたよな』
『はい。小官は当時、閣下のお傍付きで、後方の司令部に配属されていました』
閣下は、突然私に近付き、私の肩を軽く叩いた。
『儂はあの頃、まだ少将だったが。大規模な後方への転進作戦を指揮した功績で中将に昇進とは皮肉なものだ』
『閣下があの時すぐに撤退命令を出したからこそ、我々に北部防衛線、ひいては帝国都防衛線を築く余力が残されました。せめて敵が、我が背後に現れなければ、閣下の指揮で、我々がここまでの窮地には陥いていないかと。」
…待って、私は今、なんと言った?敵が…背後に?まさか・・!?
『貴官に一つ問おう。あの時、司令部を襲撃しに来た敵兵はどこから来た?』
私は眉を顰めて考える。
閣下に今さっき見せてもらった資料。司令部付近で発見されたという、あの妙な兵士の話。
合わせて考えると答えは一つしかない
『ま、魔法ですか?』
『正確には、転移魔術だな』
閣下もそうおっしゃるなら間違いないだろう
しかし、こういう答えになるとは拍子抜けだな。
私は、連邦軍が火球魔術を軍団規模で行使する戦闘行為を熟知しているが。
魔法とはそもそも何なんだ!銃と科学を信じる私にとって、魔法とは一体何なんだ。
『例の兵士は、今どこに?』
転移魔法が本当に存在するとしてたら、今の話だとゲートのように、二つの違う場所を繋ぐ何かがある。
我々の偵察兵が、気付かない何か。必ず存在する。あの兵士だけが特別だというわけではない。法則さえ見つけたら、我々もそれを利用できるはずだ。
しかし、もっと気になるのは転移先の場所だ。閣下が見せてくれた資料が見つかるような場所なら、あそこにはきっと何かある。この戦争を終わらせる手掛かりが、必ず。
『貴官が何考えているかはよく分かる。』
私の思考は閣下の言葉によって断ち切られた。
『あの場所には今連邦軍が山ほど集結している。本格的な反攻作戦でも立てない限り、辿り着くのは無理だろう。近くの守備部隊も撤退済みだ』




