遭難(2)
ガチャッ――
もうこのままユーリくんに撃たれると思っていたところ、急にドアの開ける音がしました。
【%&&$#$#$#】
【#%$#&#$#】
ユーリくんがだれかと、連邦語で話しています。
自分の額から、銃の当たる感覚が消えました。
気になるので、一度目を開けます。
そうすると、目の前に1人の中年男が立っていました。彫が深い顔で、頭頂部にはいくつかのシルバーストリークが現れています。
彼と何かの言葉を交わしたユーリくんは、なぜか黙ったまま退室していきます―――
そして、部屋に自分と中年男の2人が残されました。
状況はよく理解できませんが。この男が新しい拷問官でしょうか。同じ痛いことされるなら、ユーリくんにしてもらいたかったけど、仕方ありませんね。
自分には逆らう力がないですから。
しかし、中年男は自分の顔見て、急に泣き出しました。
彼は目を大きく開け、涙が彼の眼窩から零れ落ちているのが見えますが。
なぜ、自分を見て泣いてるでしょか。
自分はこの光景に隠せない戸惑いを感じてしまいました。
【$&%$&$%&】
連邦語は理解できませんが。彼はなぜか自分の拘束を解いていきます。
縄が全部外されたら、今度は自分の手を強く握り締めます。
【あっ…、ごめんなさい。いた・・・いです】
握られた手から伝わる激痛で、思わず言葉が漏れてしまいましたが。
彼は一瞬だけ戸惑った顔して、自分の指の傷に気付いたか―――
また、自分を見て涙を蛇口の水のように流します。
ほんと、変な人ですよね。
彼の目線は、一度自分の全身を通して最後に足の当たりで止まりました。
爪の剥がれた跡が気になったでしょうか。
【$&%$&$%&,$&%$&$%&$&%$&$%&!】
とよく分からない呟きと共に、自分の体が座っていた椅子から離れていきます。
体が彼によって、抱き上げられたのでした。
この感覚は…なぜか懐かしい匂いをがします。やっと、彼が泣かなくなりましたが、今度は死んだ恋人でも見てるかのような目で、自分を見つめてるのはなぜでしょうか。
彼に抱き上げられたまま屋外に出ると、車が一台止まっていました。
彼は自分の体をガラス細工を扱うかのように、すごく丁寧に、車の後ろの席に置くと。
前の席に戻って、車を起動します。
【あの…自分はこれからどうなるでしょうか?】
あまりにも、状況が変化しすぎて、自分でも自分が何しているかよく分かりません。
この質問に対する彼からの返事は、もちろん何もありませんでした。
どのくらい時間が経たか分かりませんが。自分はいつの間にか、座った姿勢のままで寝てしまいました。
【#$%$#&%$$#】
中年男の声で目が覚めたかと思ったら、鞄を1個渡されました。
これを背負って欲しいということでしょうか。重くはなさそうですし、そもそも逆らえないので仕方ないですね。ちょっと傷に当たって痛いですが…
車から降りると、中年男はいきなり腰から軍用ナイフを取り出します。
やはり自分はここで殺されると思ったら、中年男はそのナイフで自分の靴の先端に穴を作り始めました。
穴掘り終わった靴が、まるでスリッパのような形になりました。
自分の足に、中年男がまたガラス細工を扱うかのように、靴を履かせてくれました。
【$%%#&&$$#】
中年男の言ってる言葉はよく分からないけど、自分に優しくしていることはよく分かりました。
なので、中年男が指である方角を指して、恐らく走れというニュアンスを伝えたいと思った時。
自分は素直に中年男が指した方向へ、全身の、特に手と足から伝わる痛みを我慢しながら走りました。
パーン
少し走り出したところで、後ろから銃声が聞こえました。
でも、自分にはそれに気を遣う余裕がありません。
ここの地形は、よく見ると、自分のよく知ってる場所
―――エトルミシア北方面軍 対魔術戦闘第207小隊の駐屯地は、ここからあと1㎞もしないと分かった自分は、もう一度走り出そうとしましたが。
意識のほうが先に体から抜けてしまったようでした。
【貴様は一体、どこで何をしてたんだあ】
【ケットラー小隊長殿、事の経過は自分が先ほど述べた通りですが…】
【あんな戯言、俺が信じても上の連中は信じねーよ!どうやって報告書かくっていうんだ】
目が覚めると、自分がまた、また・・・拷問用の椅子に座らせられていました。
しかし、爪の無くなった所はしっかり包帯が巻かれ、ほかの傷口もある程度治療された状態でした。
【あの…、すいません。小隊長殿、自分を縄で縛らないのは小隊長殿のご判断でしょうか】
【貴様のようなチビを縄で縛る必要が一体どこにある!?寝言は寝てから言え】
【はい。申し訳ありませんでした。それでは、拷問はされないということで宜しいでしょうか…】
【するにしても、その傷が治ってからだなぁ。お前をその椅子に座らせとかなきゃ、情報部の奴らに見られるとまた口うるさく言われんから我慢しろ】
ケットラー小隊長殿には申し訳ないが。自分はこれでも結構我慢しています。もうそろそろ…泣いてもいいでしょうか?
【伝令です!アンナ・ベーメン二等兵はいますか】
外から、知らない人の声が聞こえました。
【貴様はそこで待ってろ。俺が聞いてくる】
ケットラー小隊長は言葉通り、ドアに向かって歩きました。
そして、戻ってきた時には、右手に青い封筒が握られています。
【貴様に北方参謀本部から直々の伝令だそうだ】
【はい…お手を煩わせて申し訳ありません!伝令をご拝借しても宜しいでしょうか】
【おまえのその手じゃあ、読めねぇだろう。俺が読んでやからジッとしてろぉ】
小隊長は、自分の返事待たずに封筒を開けました。
ここは、一度お言葉に甘えますか。
【了解しました。ご厚意感謝いたします】
【…なげぇから、重要なことだけ伝えとくぞ!アンナ、貴様は士官学校に入学するらしい】
【はい…士官学校…でありますか】
聞いたことはありますが、自分のような新兵が入学していい所ではないはずですが…
【そうだ。入隊一か月で士官学校は異例中の異例だなぁ。貴様ほんと一体何したんだろ】
【自分は…なので、先ほどから申し上げている通り…】
【ああ…わりぃもうその弁明はいいよー、俺も報告書かかんなくて良くなったからなぁ】
【はい…ありがとうございます】
ケットラー小隊長は、なぜか少し嬉しそうな表情を浮かべます。
【貴様もう今からベッドで休んでいいぞ!】




