1.復活
「おぉ……これが常闇の竜の石像か」
霧が立ち込め、木々が鬱蒼と生い茂る深い森の中の廃墟街。十数名の騎士隊が巨大な竜の石像を見上げた。彼らの隊長が「始めろ…」と低い声で指示を出すと、騎士達は駆け足で石像に鎖を巻き付けた。
「本当に復活するんですかねぇ先輩?」
「さあな、俺達は上の命令に従うだけさ」
二人の騎士の私語を注意する事なく隊長は石像に近づく。そしてポーチから紫色の液体の入った小瓶を取り出すと、それを石像に向かって振りかけた。
すると、石像の表面の石がバリバリと剝がれ落ち本物の竜となった。鱗は夜のように暗く、見るものを圧倒する存在感だ。しかし、動き出す気配は全くなく静かに目を閉じている。
「美しい……これが千年前には動いていたのか」
隊長は竜に圧倒され、しばらく立ち尽くしていた。「うわああああ」森の中に響き渡る突然の悲鳴。声のする方を見ると、二階建ての建物より大きな熊が騎士達を襲っていた。
鋼鉄の鎧を嚙み砕き暴れ回る熊を見た瞬間、隊長は信号弾を空へ向けて発射していた。
「本軍到着まで何としてもこの場を凌ぎきるぞ!!」
騎士隊と巨熊の戦闘が始まった。騎士達は剣や槍を持ち勇敢に立ち向かって行く。が、巨熊が大きな腕を一振りするだけで騎士の体は肉塊と化した。次々に死んでいく騎士達。あっという間に人数は減り、残ったのは負傷した隊長と怯えた騎士二人だった。
「せ、先輩……俺達死ぬんすか?」
「分からん、だがあと少しで本軍が到着するはずだ」
巨熊はべっとりと血の付いた爪を舐め終わると、三人に視線を向けた。巨熊は三人を見つけるや否や真っ直ぐ突進した。「殺される」三人は目を瞑り死を覚悟した。
「くっくっくっ……弱いねぇ人間ってのは」
最初、どこから声がしたのか分からなかった。しかし、声の正体はすぐに分かった。声の主は竜だった。先程までピクリとも動かなかったはずの竜が話しているのだ。それを見た巨熊の足は止まり、方向を180度変えると一目散に森の奥へと逃げて行ったのだった。
「逃げ足の早い奴だ」
そう言うと再び目を閉じ竜は眠りについた。自分達が助かった事に安堵する三人。それから三分もしない内に本軍が到着した。
「飛空艇、いつ見ても凄い技術ですね隊長」
「当たり前だ、我らガレア帝国の技術力は世界一優れているからな」
三人の上空には五つの飛空艇が現れ、援軍の騎士達が次々飛空艇から降りてくる。三人は保護された。そして騎士達は竜の体に巻き付けられた鎖と、飛空艇から伸ばした鎖をつなげると、再び飛空艇に乗り込んだ。五つの飛空艇と共に竜の体も宙に浮き、騎士達はそのままどこかへ飛び去っていった。
その様子を木陰からじっと見ている者がいた。彼は動きもしないし喋りもしない。その体は苔で緑色になっている。かつてこの地に石像の姿として封印された悪しき竜。その傍らにはもう一体の石像があった事を人々は忘れていた。