旅立ち
仲睦まじい家族の姿に、私とお姉さんはホッと安堵していた。
ぐるぐる巻きにされたバンパイアのおっさんも何故だか感動している。
「おじさん…この人たちってもうバンパイアなのよね?」
「そうですよ…」
そう言葉を口にしたおっさんの姿は何故かヨボヨボになっている。
おっさんに巻かれた《《ひげ根》》が精気を吸い取ってお姉さんに注がれていた。
「お姉さん!!」
お姉さんは「あっ!いっけな~い」と言いたげにペロリと舌を出してお茶目に振るまった。
「この人たち普通に暮らしていけるの?」
「姿は人と変わりませんから大丈夫です。バンパイアなんてそこら辺にいっぱいいるし」
お姉さんは《《ひげ根》》の拘束を解いておっさんを自由にさせた。
するとおっさんはここぞとばかりに逃げて行く。
「わぁ~化け物だ~!!」
どうやらおっさんはお姉さんの前で猫を被っていたようだ。
「ちょっと!待ちなさいよ!」と言いながらお姉さんは再び《《ひげ根》》を伸ばした。
瞬く間にぐるぐる巻きにされるおっさんはお姉さんの元へ連れ戻される。
「私から逃げられると思って?」
お姉さんは得意げだった。
家族の抱擁は続けられ、オバサンたちは涙を流しながら互いの無事を喜んでいた。
私にそっくりな女の子はオバサンの胸にしがみつき母の温もりを懐かしんでいる。
ダンディなオジサンはそんな二人を包み込む様に優しく抱きしめていた。
「ありがとうございました」
家族の感謝の言葉に私は戸惑っていた。
振り返ってみても感謝されるような事を私たちはしていない。
オバサンには逃げていた所を匿って貰って食事までご馳走になった。
対して私たちがした事といえば《《とろろ》》を出して畑を滅茶苦茶にし、嫌がるオバサンに《《とろろ》》を飲ませ狂暴化させ、変なおっさんを連れて来て話を聞かせた。
おっさんの話で家族はバンパイアの眷属になり生きている事が確認できたが、オバサンも血を吸われ眷属となった。
私たちは感謝に報いる事はできていたのだろうか?
「お姉さん、私たちこれで良いの?」
私の言葉にお姉さんはキョトンとしていた。
頭の中では凄く良い事をした!と思い込んでるに違いない。
「結果オーライよ!」
お姉さんの言葉には自信に満ち溢れていた。
そんな言葉を聞きながら不意に漠然とした不安が思い浮かんだ。
【私はこれからどうしたら良いのだろうか?】
牢獄から抜け出したは良いものの先が全く見えない。
何処に行けばいいのか目的すら何もない。
それにお姉さんはいつまで一緒にいてくれるのだろうか?
私は不安に押しつぶされそうになっていた。
「これからどうするの?」
曖昧な言葉だったが明確な質問をするのが怖かった。
回りくどい聞き方で不安を少しづつ解消していこうと思った。
「旅に出るわよ。あんたを一人前にしないとね!」
お姉さんの言葉に私は安堵する。暫くは一緒に旅を続けてくれる。
オバサンの家族に別れを告げ小高い丘を後にする。
お姉さんから伸びた《《ひげ根》》にはおっさんがいつまでも絡みつきズルズルと引きずられていた。