歌の天使 【月夜譚No.207】
気持ちの籠もった歌は、聴いていて心地良い。誰かを想って歌えば温かな気持ちが載るし、コンクールの合唱ならば団結力や優勝したいという想いが伝わる。
多かれ少なかれ、歌には気持ちが籠もる。それがたとえ不意に出た鼻歌だとしても、楽しさや切なさが少なからず含まれるものだ。
夕暮れの迫る街角の電柱に背を預けた彼は、近所から漏れ聞こえてくる歌声に耳を傾けて目を閉じた。
この歌声は良い。楽しかった今日の出来事と、明日への希望が織り交ざった、実に心躍る旋律だ。
彼は口元に笑みを浮かべて、踊るように地を蹴った。瞬間、その背から純白の羽が広がって、オレンジの光を照り返す。
歌は良いものだ。人々の心を豊かにし、感情を表して伝える手段でもある。
彼等がいつまでも歌を愛し、愛されますように。
天へと上る彼の唇から零れた旋律は、今日の終わりと明日の訪れを報せるように、夜に溶けて消えた。




