夜の手紙
あの道の向こう
君の待つ世界をのせて
口を噤んだまま
俯いた夕暮れ
少しだけ風が吹いて
夜になる
姿隠した君
雨降りの水玉模様
窓辺に映して
アスファルトさえ黒く染めて
沈んでゆく
いつかの変わらない君は
貼り忘れた切手
テーブルに置かれたままの手紙
部屋の明かりを消して眠る
いつか描いた 君の見たかったもの
自分のかたちさえ忘れて
今まで生きてきた
光さえ届かない
海の底で
今は目を閉じたまま
あの道の向こうへと続く世界は
目を閉じたまま
静かに呼吸している
私の知らない時間
君は今どこにいるの?
下唇を噛んで噤む
君への言葉
心の内に秘めた
魔法の鍵
夜の闇に落として
夢の中で探した
深く潜るようにして
星が見つめる
暗闇さえも眠る
深海
君のいた場所が
今はボンヤリと少しだけ
オレンジ色を灯す
まだ君も知らない心の中のランタン
遥か遠くで
アラームが鳴る
変わりゆく世界に
時計の針が刻む
君の待つ時間
青空にとけては
鳥が羽ばたく
貼り忘れた切手
テーブルに置かれたままの手紙
今という時間が
瞳の中を泳ぐ
銀色の魚の背びれにのって
時計の針を動かす
昨日までの君が明日へと生まれ変わる
いつも見逃さないようにして
そっと傍で寄り添う
夜空に浮かぶ天使たち
まっすぐに瞳そらさずに
君を見つめる
なんの曇りも無い夜空のように
どこまでも光輝く星のように
こぼさないように目を閉じて
手の中で君を信じてる
海を渡る
空を飛ぶ
夜の手紙