第27話 ぎこちないながらも女の子に
「いやぁ……嵐の様だったわね」
シャロン達と連絡先を交換してから別れたリオン達は、グラスを傾けながら先ほどの3人について話していた。
「その……ごめんなさい」
「んもう、ダメだよクレア? 抜けるときは一番揉めやすいんだからさ~」
「いやその、私としては誠心誠意説得したつもりだったんだけど……」
「いやぁ……でも揉めるのも当然だとは思いますよ? 何せパーティーの中心になっていたメンバーが抜けたいなんて言うんですから」
「え? 私は全然中心じゃないわよ? だってリーダーはシャロンだし、ムードメーカーはノエルだもん」
「はぁ……そう言う意味じゃないんですけど……罪な女ですねぇ……」
3人からの好意に全く気が付いていないクレアに、マールが呆れたようにため息をつく。
「てか、あれだけ好き好きって気持ちを向けられて気付かないってどうなの……?」
「さぁ……恐らくリオンちゃんのことに夢中で気付いてなかったのでは……」
「不憫ね……」
イザベラとマールがひそひそと話をしているのを、クレアが不思議そうな顔をして見ていた。
「まぁ、兼任ってことでお茶を濁したけど、問題を先送りにしただけだからね? そこは自覚しておくのよ? クレア」
「はぁ……」
「ダメですよ、ぜんっぜん気付いてません」
「神官は女の子同士の恋愛ばっかりだから、そういうのって鋭いんじゃないの?」
「そのはずなんですけど……まぁ、いざとなったらリオンちゃんにまとめて引き取ってもらいましょう。なぁに、リオンちゃんなら女の子の10人くらい……」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ?」
「本気なんですけどねぇ……」
年の割に奥手な友人を見ながら、マールが「むぅ」と唸った。
「まぁそれはそうと……私達のときだって、リオンに外れてもらおうと結論を出すまで大変なんてもんじゃなかったんだから」
「そうでしたね~。テッサたらもう泣きに泣いて――」
「な、泣いてないでしょ!?」
「い~え、泣いてました。ねぇイザベラ?」
「え、ええ、そうね。泣いてたわ」
「――まぁそう言うイザベラ自身、寂しいって私に抱きついて泣いてて……それがもう可愛くて可愛くて――」
「わー――!! わー――!!」
イザベラが大声を上げながら、マールの口を塞ぎにかかる。
「え? イザベラも泣いてたの?」
「い、いや、まぁそれは……その……だって……」
イザベラが、ちらりとリオンの方を見る。
「私だって、何とかならないかって必死に考えたんだもの……どうにかしてスキルを覚える方法はないか、とか……結局何もできなかったんだけど……」
「イザベラっ……」
「それがまさか、女の子になって即帰って来るとは思っても見なかったけどね……私の涙を返して欲しいわ……」
「それは、すまない」
「まぁ、いいわよ。結果オーライ……ってことでいいのかしら? リオン的にはどうなの……?」
「そう、だなぁ……」
リオンが自身のスカートをひょいと摘まむ。
「なんかもう、スカートにも慣れて来てる自分がいるんだよな……慣れって恐ろしいっていうか」
女の子に戻ってからさほど日がたっていないものの、リオンが女の子になったという事は驚くほどすんなりとギルドの冒険者達にも受け入れられていた。
「むしろしっくりきた」「あんなに可愛い男の子がいるわけないと思っていた」「納得」といった声が多く聞かれる一方、それを嘆く者たちもそこそこはいたのだが。
「――でもまだ足を開く癖は抜けてないみたいだけどねっ……白、か」
「ひゃうっ……!?」
コゼットから指摘されたリオンが慌てて足を閉じる。
「うわぁっ……その反応、すっごく女の子っぽくていいよっ……ねぇクレア?」
「わ、私に振らないでよっ……! ハレンチなっ……!」
「ええ~そんなこと言ってるけど、私気付いてるんだよ? 男の子だった頃の癖でつい足を開いちゃうリオンのこと、クレアがこっそり覗いていること――あだだだだ!?」
「ウソをつくエルフにはお仕置きが必要かしら……?」
「耳! 耳、ちぎれる!! やめてぇ!?」
「そんなことないわよね? ねぇ、コゼット……?」
「ほ、ホントのこと――いだだだ!! う、ウソ、ウソですっ!!」
実際はいけないとは思いながらもついつい見てしまっていたと言うのが真実だったが、その真実は実力行使によってねじ伏せられてしまった。
「でもそうね、リオン、その癖は無くした方がいいわよ? だってあなたはもう女の子なんだから」
「うっ、そ、それは仕方ないだろ……? ずっと男として生きてきたんだ。そう簡単に癖は抜けないぞ……まぁ、努力はするけど……」
イザベラから指摘されたリオンが、もじもじしながら言うとそれを見ていたマールが震えた。
「ああっ……私は今、奇跡を見ているんですね……? 元男の子が、女の子として目覚めていっているこの瞬間……たまりませんっ……」
「マール……いや、気持ちはわかるけどさ……私も結構ぐっと来たし……」
「ですよね!? いいですよね、テッサ!」
「何かこう、ぎこちないながらも女の子になっていっている、ってのが……たまらないって言うか……」
テッサが、うっとりとした目でリオンのことを見つめながら、そっとその手を取る。
「私の直感は間違ってなかったんだなって……リオンはやっぱり女の子なんだよ……」
「テッサ……」
つい先ほど、テッサから愛の告白を受けたことを思い出してリオンの頬が染まる。
これまでモテないと思い込んでいながら実はモテていたリオンだったので、こうも直接的に想いを告げられるのには全く慣れていなかったからだ。
「テッサってば完璧に百合ですもんね~」
「うんっ、私女の子しか好きになれないから、その私が好きになったリオンが実は女の子だったっていうのは、これはもう運命なんだよっ……」
いつも以上にテッサが積極的なことに気付いたイザベラが、テッサの前に置かれたボトルを持ってみると、そのビンは既に軽かった。
「あらら……」
「これは……テッサ、今日のこと覚えているかしら……」
「どうですかね~」
もう既にベロンベロンに酔っているテッサは、幸せそうな顔でリオンの腕にしがみついていた。




