第26話 兼任ってことで
「この子が……元男の子……!? し、信じられませんわ……」
リオンについての説明を受けた3人が、あんぐりと口を開けている。
「いや、正確には元々女だったのが、呪いで男になっていてそれが解けて女に戻ったって言うのが正しいんだけど」
「そ、それにしたって……その……男の子の頃からこんなに可愛かったんですの?」
「顔はこの通りでものすごく可愛かったわ。でも体は男でしかも鍛えていたから、そこはちょっとアンバランスだったかなって」
「それは……確かに、ちょっとアレですわね。今のほうが断然いいですわ」
3人はコクコクと頷き、リオンはちょっとショックを受けた。
「だって……スキル無かったし……その分体を鍛えないとって思ってたし……」
「ま、まぁまぁ、私は鍛えていたリオンも好き……だったよ?」
「さりげないアピール、やりますね、テッサってば」
「マール?」
「はいっ」
「まぁ……理由は分かりましたわっ。これだけ可愛い子なら面倒を見たくなっても仕方ありませんわねっ」
シャロン達が、チラチラとリオンのことを盗み見ているのがリオンにもわかった。
「あ、あくまでも、姉として……! ね!?」
「いいですねぇっ……クレアさん、こんな可愛い子にお姉ちゃんって呼ばせてるんですね? ……羨ましいですっ」
「ああっ!? お姉ちゃん!? 可愛い妹ならここにもいるんですけど!?」
「いやぁ……あんたは可愛いって言うより生意気だから……」
「ひどぉい!」
「いや! それよりも! そもそもお姉ちゃんなんて呼んでないからな!?」
「そうなんですの?」
「私としてはお姉ちゃんって呼んで欲しいんだけど、リオンったら照れちゃって……」
「照れてない!!」
そうは言いつつもしっかり照れているリオンが顔を真っ赤にする。
「んもう……子供の頃は『クレアお姉ちゃん、クレアお姉ちゃん』って私の後を付いてきてくれたのに……」
「だ、だから昔のことを持ち出すなってのに……!! そ、それより、今はその話じゃないだろ!?」
「そ、そうだったわね……」
「そうでしたわ……リオンさんがあまりに可愛いのでつい……」
生粋の百合であるシャロンが「オホン」と咳払いをして仕切り直した。
「――クレア、あなたの気持ちはわかりましたわ。でもその上で言わせて頂きますけど……私達、やり直せませんの?」
「シャロン……」
「ああっ、ちょっとリーダー! そんな、まるでクレアさんと過去付き合っていたみたいに言うのやめてもらえませんか?」
「そうですよっ! 抜け駆けは禁止ですっ!」
「んもうっ! 話の腰を折らないでいただけます!?」
こんな状態だが、3人が3人ともクレアのことを嫁にして独占したいと考えていたので、お互いけん制し合って結果としてクレアはまだ誰からも告白をされていなかった。
「で、でも私……やっぱり……」
クレアはチラとリオンの方を見て、精一杯の勇気を出してその手を握る。
「やっぱり私……リオンと一緒にいたいの……だから……」
「クレア……」
「リオンは……どう? 私と一緒にいたい……?」
「え!?」
「ねぇ……どうなの?」
「そ、それは、その……い、一緒にいたほうが、いい、けど……」
リオンからの返答に、クレアがぱぁぁぁっと顔を明るくする。
「ぬっぐぐぐ……け、決意は固いんですのね……でしたら……」
「でしたら……?」
「……こちらも妥協いたしますわ……兼任ってことでいかがですの?」
「兼任……?」
「そうですわ、クレアが私達のパーティーとそちらのパーティー、どちらにも所属するってことですわ。そちらの手が空いてるときでいいですから、こっちにも時々来て欲しいんですの……」
「クレアさんっ……!! お願いしますっ!!」
「私達、クレアさんがいないと寂しいんですっ!!」
「え、えっと……」
意見を求めるように、クレアがパーティーメンバーを窺う。
「まぁ……それならアリじゃない? 兼任している冒険者って結構いるし……」
「そうね、それにその……まぁ、ちょっと気の毒だし……」
「ですね~」
「……?」
女の子からとてつもなくモテる割に、鈍いクレアは3人からの好意にまるで気付いていなかったので不思議そうな顔をした。
「それに、タダとはいいませんわっ。私達のパーティーからも、手が空いているときはそちらに派遣してもよろしいですわよっ」
「それはつまり……パーティーとして、協力関係になろうって言う事?」
「そうなりますね。そちらは特に前衛が足りてないようですし……こう見えてもリーダー、強いんですよっ」
「あぁ……その、ボクがまだ重い装備できないからな……」
「あら? そっち系のスキルはありませんの? 【筋力強化】とか【装備重量軽減】とか」
目の前のシャロンがリオンほどでは無いもののかなり細いわりに、かなり重そうな鎧を付けていられるのは【装備重量軽減】のスキルのおかげだった。
この系統のスキルは文字通り装備品の重さを軽減する効果があり、他にも【筋力強化】で重い武器を使ってその重量を活かした攻撃が出来るようにもなったりする。
それ故に前衛はそれらのスキルを前提とした立ち回りが要求されるため、スキル無しで前衛をしていたリオンがいかに無茶をしていたかがわかる。
「ないんだよなぁ……持ってるのは百合系スキルだけなんだ」
「まぁ……なんとも百合特化なんですのね。でも、それならそのうち【百合筋力強化】とかを覚えるんじゃありませんの?」
「え、そんなのあるの……?」
「ありますわよ? 私、百合には少々詳しいんですの」
「てか百合の筋力強化って一体……」
「【百合筋力強化】というのは、パーティーメンバーに男が1人もいない条件で発動する【筋力強化】系のスキルですわ」
「へぇぇ……」
「制限が付いている分、強化率は高いんですわよ? かくいう私が持ってるのも【百合筋力強化】ですもの。装備の方は普通ですけど」
「だからリーダーの攻撃って重くて強いんだよね~」
それを聞いて、テッサ達がぼそぼそと呟く。
「……ねぇ、リオンの場合、【百合の女王】で強化されるはずだから……どんな威力になるんだろうね……」
「たぶん……モンスターが消し飛んだりするんじゃない……?」
「ひぇぇ…ある意味モンスターが気の毒になりますねっ……」




