第25話 やっぱり怪しい……
「では、どういうことか説明して頂けますか……?」
リオン達と、ダンジョンで出会ったシャロン達は今、街の酒場にいた。
シャロン達の目的はさらに下の階層にあったのだけど、それどころではないという事で、リオン達の目的である『迷宮の百合』を摘んで街に帰ってきていたからだ。
「クレア……あなたは、弟みたいに思っている子と一緒にいたいから、ということで半ば強引にパーティーを抜けましたわよね?」
シャロンがテーブルにグラスを置くと、クレアがびくっと体を震わせた。
「あ、うん……」
「そのことについて、私は、全く納得していませんの」
「いや、悪いとは思ってるけど、でも、私……」
「いけません! クレアさんっ! あなたはこの子に魅了されているんですっ!」
「そうですよっ!! いくらこの子が可愛いからと言って……!!」
ウィンリィとノエルの双子がクレアの言葉を遮り、びしりとリオンを指さす。
「そ、それは違うのっ――」
「何が違うんですか!? この子、強力な魅了持ちなんですよね!?」
「対魅了用の障壁を張ってなお、この威力……今でも思わず見ちゃいたくなりますっ……」
「ホントに凄いですわ……クレアが夢中になっちゃうのも少しわかりますもの……」
「だ、だから違うんだってぇ!!」
今のシャロン達はウィザードのウィンリィが張った精神攻撃から守るための魔法障壁に包まれているが、それでもリオンの【百合の女王】によって強化された【百合魅了】はその障壁で弱められてなお3人の心を揺さぶっている。
本来なら障壁に阻まれた時点でほとんど効果が無くなるくらいまで弱体化してはいるリオンの【百合魅了】だが、それでもクレアにぞっこんな生粋の百合である3人をときめかせるには十分な力だった。
「はっ……!? お、お姉ちゃん、私、今凄いことに気が付いちゃった……!」
「なに、ノエル?」
「このリオンって子、強力な百合魅了を持ってるってことは……このパーティーって、この子の百合ハーレムなんじゃ……!!」
「いっ……!?」
あらぬ誤解を受けたリオンが、思わず変な声を上げる。
実態はまさにその指摘された通りなのだが、リオン自身はそのことに全然気付いていないからだ。
「そ、それは誤解だ……!! ハーレムなんて、そんなこと全然……!!」
「どうかしら……! それだけ強力な力を持っていたら、女の子を虜にするのも簡単でしょ?」
「そ、それは……」
「それで、毎晩代わる代わるパーティーの女の子達をその毒牙にかけて……いや、むしろまとめて、かしら……きゃっ」
「お、お姉ちゃんのえっち……!!」
「ちょ……!?」
さらに誤解はとんでもない方向に進みそうになり、リオンが慌てて立ち上がる。
「そんなことしてない……!! 断じて違う!!」
「――そうよ、リオンはそんなことしてないわっ」
ハッキリとした口調で告げるコゼットに、リオンは助け舟を出してくれたのだと思いほっと胸を撫でおろす。
「こ、コゼット、助かっ――」
「だって――もう心は既にリオンのものである私にすら手を出さないんだもの、他の子に手を出すわけがないじゃない」
「おぃぃ!?」
「り、リオンのもの……?」
「ええ、私はリオンに魅了されてて、もう私の人生を全て捧げると心に決めてるの。ほら、これがその証よ」
「く、首輪……!? あ、あなたこんな可愛い顔をしてなんて趣味なんですの……!? ヘンタイですわっ……!!」
シャロンから睨まれ、事態がさらに悪化したことにリオンが天を仰ぐ。
「ほらぁ!! 魅了されてるって言ってるじゃありませんか!! 動かぬ証拠ですっ!!」
「やっぱり百合ハーレムで、夜な夜ないけないことを……」
「していない!!」
「でもっ! 今はっきりと魅了されてるって!!」
「――いや、私は魅了されてないよ」
「テッサ……」
「だって、リオンの魅了は既に好意を持ってる子には効かないんだもん。……つまり、私はずっとリオンのことが好きだったから、私に魅了は効かない。私は自分の意思でリオンと一緒にいるんだよっ」
「……っ!?」
テッサからはっきりと好きだと告げられたリオンが頬を染めた。
既に好意があるということはこれまでの振る舞いから流石のリオンも分かってはいたけど、こうもはっきりと言われると流石に意識しないわけにはいかなかった。
「え……既に好意を持ってたら、魅了は効かない……と、言う事は……」
「クレアさん、もしかして、この子のこと、好き……なんですか……?」
「え、あ、そ、それは……」
クレアがちらとリオンを見ると、『好意を持っている相手には魅了が効かない』という事を知っていたリオンも、クレアの態度が変わらなかったことから察してしまっていたのか顔を赤くした。
「ち、違うの……!! これはその……弟として、親愛的な好きであって……そ、そう言うのも『好き』に入るのよね!? ね!? コゼット!?」
「え? いや、あくまでも女の子として好き――いっ!?」
「そ・う・よ・ね?」
「………………!」
テーブルの下で、クレアがコゼットの小さなお尻をこれでもかとつねっている。
「話を合わせなさい……さもないと……」
「わ、わかった……わかったから……」
他に聞こえないほどの小声でやりとりしたコゼットが、小さく頷いた。
自分の尻が今まさに危機的な状況であることを、マジな顔のクレアから悟ったからだ。
「た、確かに親愛の『好き』でも魅了は弾かれるわ……!」
「そう、なのか……?」
「そ、そうなのよっ! だって、私は……リオンのお姉ちゃんなんだもんっ!」
「そ、そっか……そうだよなっ」
自分が勘違いをしていたのだと思ったリオンがポリポリと頭をかいた。
「へたれー」
「そう言わないの。人にはそれぞれ事情があるのよ」
「イザベラも……でしょ~?」
「うるさいわねっ」
これまた他に聞こえないように、イザベラとマールが小声でつぶやく。
「つまり……クレアは本当に、弟みたいに思ってるこの子が心配で、パーティーを抜けた、ということですの……?」
「そ、そうなのよっ」
「いや、でも弟って……どう見てもこの子、女の子なんですけど?」
「そうですよっ。それに神官は女の子に恋をするのが当たり前……やっぱり怪しい……」
「これにはその、深い事情があってね……?」
それからクレアは、3人に事情をざっくりと説明した。




