第23話 百合魔力譲渡
6/20に書き直しました。
スライムの体液集め、長尻尾ウサギの尻尾集めのクエストを悠々達成したことを考慮され、リオンとコゼットはEランクへと昇格していた。
本来ならもう少しクエストを達成しないとEへは上がれないが、リオンは既に一度Dランクまで上がった後に、レベルが1になるという異例の事態でやむなく降格して、コゼットはレベルがFにしては高すぎるという事で共に早めに昇格することが出来た。
そしてリオン達は現在、Eランククエストである『迷宮の百合の採取クエスト』を受けてダンジョンへと潜っていた。
「『迷宮の百合』……か、良くクエスト依頼に上がっているのは知ってるけど、そもそも何に使うんだっけ?」
「え!? リオン、知らないの!?」
リオンの隣を笑顔で歩いていたテッサが驚いた顔をした。
「ああ。知らない」
リオン自身そういう依頼があることは知っていたが、その使い道自体は気にしたことも無かった。
「んもうっ、これからはリオンにもすっごく関係ある事なんだよ?」
「ボクにも?」
「迷宮の百合って言うのはね――女の子が女の子に気持ちを伝えるために1番とされている贈り物なんだよっ。そうだよね? イザベラ?」
「ええ、そうね。迷宮にしか咲かないとされている魔法の花。その美しい姿と、必ず2輪寄り添うように咲くことから女の子同士の愛の象徴とも呼ばれているわ」
「へぇ~」
「僅かながら魔力も帯びていて、その香りは人をリラックスさせる効果もありますし、夜でも淡く光ってそれはもう美しく、ムードを盛り上げるにももってこいなんですよね~」
「まぁ、これは女の子同士でのことだし、ちょっと前まで男の子だったリオンが知らないのも無理はないけど」
「あ、だからこれからはボクにも関係あるって……」
「そういうことっ」
これまたリオンの隣を歩いていたコゼットが、リオンの腕にぎゅっと抱きついた。
「これからリオンは私と恋をしていくんだから……ねっ?」
「こらっ! コゼット! 抜け駆け禁止っ!」
「あら、ならテッサも抱きつけばいいじゃない。リオンの腕、反対側が空いてるわよ?」
「……なら、遠慮なく」
パーティーメンバーは全員リオンに恋をしていたが、その中でも特に積極的でリオンへの好意を隠そうともしないのが、テッサとコゼットの2人だ。
特にコゼットは『百合の宝珠』でリオンの子供を授かりたいとまで公言していて、隙さえあればリオンの側に来ているほどだった。
テッサも「リオンの子供が欲しい」とは恥ずかしさから口にこそ出していないが、それでもリオンと結婚したいとは本気で思っていて、よくコゼットとリオンをめぐる小競り合いを繰り広げていた。
もっとも、コゼットとしては百合ハーレムでも全然構わないと思っているのだが。
「もうっ……2人とも、ハレンチだわっ……それに、前衛のリオンの両手がふさがっていたら危ないでしょ?」
「それは大丈夫だよ、クレア。だって『探知』の魔法は常に発動させてるから。いや~これもリオンさまさまだよね~」
クレアの方を振り向いたテッサが、リオンに腕を絡めたままスッと目を閉じた。
「――うん、大丈夫、さっきから周りには敵の気配もまるで無いし、こんなふうにしてても罠には常に注意を払ってるよっ」
「ならいいけど……」
テッサが今発動させている『探知』の魔法はシーフ専用の魔法で、周りの気配を感じ取る感覚を強化する効果がある。
シーフ専用の魔法には他にも『罠感知』、『鍵開け』、『足音消し』と言った便利なものが多々あって、パーティーにシーフは絶対に1人必要と言われるゆえんだった。
しかし、そもそも魔法職でないシーフの魔力量は極めて少なく、魔法を考え無しにバンバン使っていたらあっという間に魔力は枯渇する。
なのでシーフが魔法を使うのはここぞと言うとき、それも絶対に失敗できないときに使用するのが基本で、普段はその磨き上げた技能を駆使して役目を果たすものだった。
しかし、このパーティーには魔力タンクになれるリオンがいた。
「リオンのおかげで魔力の心配はかなり減ったから、『探知』が使い放題……これは便利だよっ」
「あ、ああ、そうだな」
『探知』の魔法はできれば常時展開しておきたいくらい便利な魔法で、展開中は常に魔力を食い続ける欠点もリオンがいれば解決する。
減った魔力は、リオンと接触して魔力を補給して貰えばすぐに全回復するからだ。
「ほんと、信じられないわ……ただの【百合魔力譲渡】が【百合の女王】で強化されたらこんな強いスキルになるなんて」
「どれくらい容量があるか確かめてみたら、私とコゼット、2人の魔力を空っぽにしてから満タンにしてもなお余裕だったものね……」
特に魔力量の多いウィザードである2人に補給してもまだ余るという事は、シーフ相手になら相当な回数補給できることを意味していた。
「S級冒険者たちはマジックポーションを山のようにストックして、シーフに常に『探知』させ続けるって言うけど……」
「あれ、信じられないくらい高いのよね……私達じゃとても手が出ないわ」
「でもそのS級冒険者と同じことができてるなんて……リオン、凄いわっ」
「ははは……」
クレアから褒められたリオンが何とも言えない顔をした。
リオンとしてはやっぱり戦士的な活躍をしたいという、男の子的な感覚がまだ強く残っているからだ。
それでもこうしてパーティーの役に立てている、という事がリオンには嬉しかった。スキルが無い頃もパーティーの盾となって攻撃を引き受けてはいたが、どうしてもスキルが無い以上技術だけでは限界があり、そのことを申し訳なくも感じていたからだ。
「何かリオン……嬉しそうね? そんなに女の子からベタベタされて嬉しいのかしら? お姉ちゃんはそういう子に育てた覚えはないんだけど……」
「ち、違うってば!? それに育てられた記憶も無いぞ!?」
「ホントかしら……?」
「ホントだってば!! ただその、こうしてみんなの役に立ててるのが嬉しくて……」
「役に……?」
その言葉を聞いたイザベラ、マール、テッサがポカンとした。
「どういうこと?」
「いや、だからその、これまで足を引っ張ってきたわけだし――」
「そんなことないってば!!」
リオンの言葉を遮り、テッサが腕に力を込めてリオンを見つめる。
「ずっと、守ってくれたじゃん! 足を引っ張ってなんてないってば!」
「そうよ、リオン……もしかして、ずっとそんなふうに思っていたの?」
「いや、だって……スキルも無かったし……」
「そんな中でも、リオンちゃんが私達のために頑張ってくれていたのは知っていますよ? 胸を張ってください」
「みんな……」
パーティーメンバーからの言葉に、リオンが思わずぐっと唸る。
「リオン、いい人たちと冒険していたのね……」
「ああ……」
「そうね、妬けちゃうくらいよっ」
新しくメンバーになった2人からの言葉に、リオンは微笑んだ。
「あっ、見えて来たよっ、あそこでしょ?」
それからしばらく歩いて、リオン達は開けた場所に出た。
そこはダンジョン内だと言うのに庭園のような風景が広がっていて、淡い光を放つ『迷宮百合』が、2輪ずつ寄り添うようにして咲き乱れていた。




