第21話 新しいスキル
「はい、長尻尾ウサギの尻尾5個、規定数の納品確認いたしました。依頼完了ですね、ありがとうございました」
ダンジョンを出てから街に戻り、依頼品の尻尾を納品するためリオン達はギルドを訪れていた。
「それにしても、早いお帰りでしたね? 長尻尾ウサギって危なくないけど面倒なんですけど」
「いや、それなんだけど……追加で引き取って欲しいものがあるんだけど」
「えっ?」
ポカンとするロザリーの前に、リオンはどさりと大きな袋を置く。
「何ですか? これ」
「尻尾だよ」
「へっ?」
ロザリーが袋の口を開けると、その中には依頼品の尻尾がぎっしりと詰め込まれていた。ふわふわで可愛い尻尾だが、こうもみっしりと詰まっていたことにロザリーが思わず「ひっ」と声を上げた。
「な、ななな、何ですかこの量!?」
「いやぁ、思った以上に大量に取れて」
「大量すぎです! 漁師さんですか!? あんな短時間でどうやってこれだけ……」
驚きながらもロザリーは袋の中から手際よく追加の尻尾を取り出して、テーブルに並べていく。
「引き取ってもらえるかな?」
「それは構いませんけど……それにしても凄い量ですね」
「ははは……」
リオンのスキルによって自ら尻尾を差し出してきたメスの長尻尾ウサギは、別の群れのメス達まで連れてきてくれたので、結果としてこんな量になっていた。
「また生えてくるとは言え、我も我もと差し出してきたもんね……ウサギ達」
「まぁでも、やっぱりウサギさん達の気持ちもわかりますよ。私だってリオンちゃんにならこの身の全てを差し上げたいですし~」
「わかるわかる。私も早くリオンと式を挙げたいもん」
「は、ハレンチよっ、2人共っ」
「まったく、リオンってばモテモテねぇ」
そんな会話を後ろでしているのを聞こえないふりをして、リオンはロザリーと会話を続ける。
「そう言えば、長尻尾ウサギって倒さなくても、尻尾を切り離すだけで経験値になりますから……リオンさん、レベル上がったんじゃないですか?」
「そうかな?」
「だって……この量ですよ? それに前のスライムも大量に倒したみたいですし、レベル2にはなったんじゃないですか?」
ロザリーはそう言うと、スキルスクロールを差し出した。
レベルと言うのは神がヒトに授けた物なので、自分ではいつ上がったのか確認することは出来ない。それを確認するためにはこの様に魔道具や魔法に頼る必要がある。
「はい、どうぞ。レベル2になればランクEになる条件も整いますからね。以前リオンさんはランクDまで行ってますし、経験は積んでいますから」
「じゃあ……」
リオンがテーブルに置かれた羊皮紙に触るため手を出すと――その手をスッとロザリーが握った。
「ろ、ロザリー?」
「可愛らしいお手々ですね~、リオンさん、本当に女の子になったんですね」
「正確には、戻った、って事らしいけどな……」
指の一本一本まで確認するようなロザリーの手の動きに、リオンの頬が染まる。以前からリオンには報酬を直接手渡ししてくれたり、依頼達成時には手を握って喜んでくれたりとスキンシップの多いロザリーだったが、こうも撫でまわすように触られると思わずドキリとしてしまうリオンだった。
「色々と、大変じゃないですか? その……女の子になって……じゃなくて、戻って」
「そ、そうだな……見ての通り今まで使っていた愛用の装備が使えなくなったのが残念だな」
リオンは手を握られたまま、女の子に戻った自分の体を指さした。
そこにはいつも着ていた愛用のプレートメイルは無く、皮のドレスにライトアーマーという至って軽装で可愛らしい格好となっている。
同じく剣も愛用のブロードソードは重すぎて腰に下げることさえできなくなっていたので、今吊っているのはそれの半分ほどの重さも無いショートソードだ。
「正直色々と心もとなくて……リーチも攻撃力も大幅に下がっちゃったし」
「いえ、それもあるんでしょうけど、ほら、その……女の子的なことで、困った事は無いかな、と」
「あ……い、いや、まぁ、それはそのうち慣れる……と、いいなぁ……」
「ふふっ、私で良ければ何でも相談してくださいね? だって……」
ロザリーはニッコリとほほ笑むと、そっとリオンに耳打ちをするために顔をリオンに近づけた。
「……っ!?」
「女の子のことは、女の子が一番よく知っているんですから……パーティメンバーには言えないようなことがありましたら、ぜひ私に相談してくださいねっ」
「ろ、ロザリー……?」
朴念仁のリオンでもドキリとするほどの積極的な行動に、リオンは思わず後ろのメンバーを振り返ると、何やら話で盛り上がっている最中だったことにリオンは「ふぅ……」と胸を撫でおろした。
「ささ、リオンさん? お手をスクロールにどうぞ」
「あ、ああ……」
それまでリオンの手を握っていたロザリーは、浮かんだその優しい笑みをそのままに手を離した。
思いがけないロザリーの行動にまだ胸が高鳴っているのを何とか悟られないように抑えながら、リオンは改めてスクロールに手をついた。
「……お」
「あら」
浮かび上がって来た文字が示したリオンの今のレベル、それは、
「おめでとうございますっ、レベル2ですねっ。じゃあEランクへの審査にかけておきますねっ」
「ああ、頼む」
「いえいえ、お安い御用ですっ」
「あと、コゼットの方もいいかな? コゼットはもうレベルは十分条件を満たしているはずだろ?」
「そうですね、コゼットさん冒険者登録時点でレベルは8でしたから……わかりました、やっておきます」
「ありがとう」
「いえいえ」
リオン達が話している間にもスクロールに文字は表示され続け、スキル欄に移った。
「はぁ……【百合の女王】に、【百合魅了】、ですか。【百合の女王】ってスキルは初めて見ましたけど、百合特化なんですね」
「そうみたいだな。やれやれ、次に覚えるのはもう少しカッコいいスキルがいいんだけど……って、ん?」
【百合魅了】の文字が表示されたが、スキル表示はまだ続いていた。
「新しいスキルか!! どれどれ……って、何だこれ……」
そこに表示されたリオンの新しいスキル、それは、
「【百合魔力譲渡】……?」




