第17話 百合の宝珠
「おかえりっ! リオン! コゼットもクレアも、これからよろしくねっ」
「ええ、よろしく」
「よろしくね」
一見仲が良さげに握手をしているコゼットとテッサだったが、その前にコゼットが言った通り2人はリオンをめぐるライバルとなるわけで、お互いその手にはかなり力が込められていた。
もっとも、この場にいる全員がリオンのことを想っているわけで、そう言う意味だと全員がライバルでもあるわけなのだが、テッサはまだイザベラまでもがリオンに恋をしていると気付いていなかった。
「さて、それじゃあリオン?」
「何? イザベラ」
「パーティーメンバーがこうして増えたわけで……ここであなたにリーダーを譲ろうと思うんだけど、どうかしら?」
「ボクがリーダー……!? な、なんで!? 今まで通りイザベラがリーダーでいいじゃないか」
リオンがいたこのパーティーでは、1番の年長者だったイザベラがリーダーを務めていた。
それは勿論年齢だけが理由では無くもっとも聡明で統率力もあったからで、イザベラに任せておけば問題無い、とリオンも全幅の信頼を寄せているほどだった。
「それなんだけど……あなた、百合スキルに目覚めたんでしょ? しかもその最上位らしい【百合の女王】まで持っている」
「それが、どうかしたの?」
「だって、【百合の女王】は間違いなく『リーダースキル』よ? そうでしょ? コゼット」
「ええ、そうでしょうね」
コゼットがこくりと頷いた。
スキルの中には『リーダースキル』という分類をされるものが有り、それはパーティー全体に影響を与える類のスキルのことを言う。
一例としては、【カリスマ】と言うものが有り、リーダーに対する信頼感を高めることで結果的にメンバーの結束を強めて、パーティーを強化するスキルだ。
「いや、でもアレは百合スキルを強化するもので……」
「そんなスキルを持っている以上、レベルが上がったら当然パーティーを強化するスキルも覚えていくはずよ。そしてそれは【百合の女王】で強化される。つまり、これからはリオン、あなたがパーティーの要になっていくのよ」
「ボクが……?」
「百合スキルは男性には効かないから、必然的にこのパーティーはリオンを中心とした百合パーティーになるってわけ」
コゼットはさりげなくリオンの手を取って微笑んだ。
「まぁさしずめ、リオンはこのパーティーの女王様ってとこかしら。【百合の女王】だけにね」
「じょ、女王様って……」
とんでもないことを言われたリオンがイザベラに助け舟を求めるが、そのイザベラは「……女王様……悪くないわね……」なんて呟いていた。
「ま、まぁその、女王様はともかく、私はリオンがリーダーでもいいと思うよっ」
「テッサ……」
「私はリオンが頑張っていたの知ってるし、これからは私……私達が支えるからさっ」
テッサは手を握っているコゼットに対抗する様に、リオンのもう片方の手をそっと握った。
「これからがんばろ? リオンっ」
「ああ……そうだなっ」
「わ、私だって……! お姉ちゃんが支えてあげるからねっ、リオン!」
「クレア……いや、お姉ちゃんってのは……」
「リオンさん……いえ、リオンちゃんが女王様……はぁ……はぁ……いいですねぇ~」
「マール?」
「はい」
マールをたしなめたイザベラがオホンと咳払いをして、「じゃあ……」と話を切り出した。
「皆に異存が無ければ、リオンにリーダーを引き継いでもらおうと思うんだけど、いいかしら?」
「いや、皆がいいならいいけど……」
そこでリオンは全員をぐるりと見渡したが、反論は一切出てこなかった。
「じゃあ……引き受ける上で、一つ条件があるんだけど」
「何かしら?」
「イザベラに、サブリーダーになってもらいたいんだけど」
「私?」
「ああ、だって一番頼りになるし、頼むよ」
「……しょ、しょうがないわねっ、じゃあ私がサブとして支えてあげるわっ」
「ありがとっ、イザベラ」
礼を言われたイザベラは、リオンからふぃと顔を逸らして髪の毛の先をいじっていた。
「そ、それじゃあ決まりね! リオン、これからはあなたが私達のじょうお……リーダーよ」
「今女王様って――」
「ささ、リオン、とりあえず今後のパーティーの目標を決めてもらっていいかしら? ちなみに知ってるとは思うけど、以前の私達の目標はまずBランクに上がるってことを目標にしていたわ」
「そうだなぁ……誰か、何かある?」
「はいはいっ!」
リオンが皆に尋ねると、コゼットが勢いよく手を上げた。
「じゃあコゼット。何を目標にするんだ?」
「それはもちろん決まってるわ」
コゼットはそれはもう、これ以外にあり得ない、と言った顔をして自信満々に告げた。
「――S級魔道具、『百合の宝珠』の入手よ!」
「……えっ」
「百合の……」
「宝珠……」
「……ってアレでしょ……!? コゼット、何言ってるの!?」
「あら? やっぱりテッサは知ってるのね? そうよ、“あの”『百合の宝珠』よ」
「そりゃ知ってるよ。有名だもん……で、でも、それを求めるってことは……」
「そ、勿論リオンの子供を授かるためよ」
「な……!?」
百合の宝珠とは2つ1組になったペンダントで、それを身に付けて愛の営みを行う事により女の子同士で子供を授かるという奇跡を可能にする、付与魔術によって作られた至宝と言える代物である。
赤い宝玉のはまったものと青い宝玉がはまったものがあり、青い方を身に付けた方が子を宿す仕組みになっていて、それぞれは刻印されたらその本人にしか使えないが、産める数に制限はない。
「私、絶対リオンとの子供が欲しいもの」
「で、でもあれ、1人しか使えないでしょ……? そんなの……奪い合いに……」
「あら、詳しいのね? でもそれならこれも知ってるでしょ? 『百合の宝珠』は確かにSランクの超希少品だけど、それはあくまで赤い方だって」
「それは……!!」
「子供を宿す方の青い方なら、赤い方よりはかなり見つけやすいわ。そして青い方はどの赤い方とももペアになれる……これが何を意味するか、あなたならわかるでしょ……?」
そうコゼットから言われたテッサが、ゴクリと息を飲んだ。
「青い方を複数見つけたら……その数だけ、赤い方を持った子との間に子供を作れる子が増える……」
「そういうこと。青い方の発見頻度的に、どうも百合ハーレムを想定して作られた魔道具っぽいのよね」
「百合ハーレム……」
テッサがちらりとリオンの方を向くと、他の4人の子も合わせてリオンの方を向いた。
「……な、なんだ?」
「………………よし、『百合の宝珠』の入手に一票」
「そうね、そうしましょう」
「私も、その……いいと思うわ」
「私も、賛成」
「じゃあ、決まりね。リオン」
まだ事情が呑み込めていないようなリオンをさておいて、イザベラが採決を取るように手をポンと叩いた。
「私達は、『百合の宝珠』の入手を目標にするって事でいいかしら?」
「皆が決めたなら、それでいいけど……」
「じゃあ決まりね、それじゃあ早速みんなの親睦を深めるってことで、酒場にでも行きましょ?」
「あ、ああ」
リオンがポリポリと頭をかきながらソファから立ち上がると、イザベラがぽつりと呟いた。
「……5人分は、なかなか集めるのが大変そうね……頑張らないと」
「何か言った、イザベラ?」
「ううん、何でもないわよっ、テッサ」




