小さな騎士
「ごめん。リツ兄ちゃん……」
深く頭を下げたミック君が頭を上げると、ミック君の目には涙が浮かんでいて、顔がぐしゃぐしゃに歪んでいる。
「おいら、おいら……リツ兄ちゃんと友達になりたいけど……おいらリツ兄ちゃんに迷惑をかけたくないんだ」
「め、迷惑じゃないよ。ミック君は美味しい井戸の冷たい水も出してくれるし、玉ねぎも出してくれたでしょう?ああ、こんなこと言うと、私の方こそミック君にいろいろ出してもらいたい……利用したいから友達になりたいって言ってるみたいになっちゃうけれど、そうじゃなくて……何も出してくれなくたって、私はミック君のことが大好きになったし、粉ジュースを見て空の色みたいで綺麗だって言ったミック君がとても素敵だと思って……」
必死に言葉を探しているのは、もしかしてミック君のようないい子を少しでも疑った自分が許されたいからかもしれないと思うと、さらに自分がみじめで卑怯な人間に思えてきます。でも、言わなくちゃいけないんです。
「夜明け前の空の色、夕焼けの空の色……いろいろな空の色を綺麗だって思うミック君の……」
感性。美しいものを美しいと感じられることって素晴らしいことで。人に疑われてミック君の良さがもし失われてしまったら……私のせい。自分が許せない。
「あ……ああ。ああ……」
ミック君がボロボロと涙を落とします。
「おいら……そんなこと言われたの初めてだ……。お空がきれいだねなんて言ったってもう、誰にも言葉が通じないのかと思ってた。死んだ母ちゃんだけが、本当だ綺麗だねって言ってくれた。教会に行ってからは空を見てると何ぼーっとしてるんだって言われるから……言われるから……」
ミック君を思わず抱きしめていた。
しっかりしているからって言ったって、まだ子供だ。親を亡くして一人で必死に生きてきて、今は教会で保護されていて……。
でも、ずっとずっと寂しくて泣きたくて辛かったんだろうって思ったら。
私は大人で、でも一人で異世界に放り出されて……寂しくて泣きたくて辛くて……我慢して。子供だったらきっともっとつらくて……。
「ミック君……」
「リツ兄ちゃん、おいら……うぐっ、おいら……」
ミック君が声を殺して泣き始めました。
思い切り声を上げて泣いたっていいんだよと。ぎゅっと抱きしめるミック君の背中をトントンとたたきます
ああ、これは、私がミック君を抱きしめたいのではなくて、私がこうしてほしいことをミック君にしてあげてるんですね。
大人になるってきっとこういうことだ……とふと思いました。
自分がしてほしいことを、誰かにしてあげる……そうすることで、自分も満たされていくんですね……。
きっと……。
私はミック君を抱きしめて慰めているようで、実は自分自身の心を抱きしめて慰めているのですね……。
「うん、うん」
「おいら……」
人にやさしくできる大人は、きっと自分自身も大切にできる人なのでしょう……。
大人になると、誰かに求めるばかりでは満たされない……のではないでしょうか。……なんて、不思議と異世界に来て気が付くなんて不思議ですね……。
「リツ兄ちゃんの味方する……」
はい?
「おいら、リツ兄ちゃんを守る……おいらはリツ兄ちゃんの味方だ」




