★★謎の銀の物体
兵士さん視点です
(*兵士さん視点)
手の平に載っている異世界の子供からもらった小さな四角い物を指でつまみ上げる。
馬車にさっきまで一緒に載っていた異世界の子供からは、甘いような不思議なにおいがしていた。
どうやらこの小さな四角い銀色の金属が匂いの正体だったようだ。
子供は何といったか?
よかったら食べてください?
これが、食べ物か?
軽いとはいえ、この銀色は金属だろう?
金属を食べるモンスターもいると言うが……もしかして子供のいた世界の人間は金属を食べるのか?
あとで鑑定してもらうとして。
くるくると指先で不思議な金属をまわしてみると、どうやら金属は折りたたまれているようだ。
「なんだこれは……。金属だと思っていた銀色のこれは、まるで紙のようだ。しかも薄く加工した羊皮紙よりも高価な紙……」
驚くことはそればかりではない。
包んでいた金属色をした紙の中から出てきたものもまた何か全く分からない。
薄い土色をした四角い物体。金属とも木ともパンや肉などとも違う質感。
「ああ、あれに似ている」
グイっと指先で突くと爪の跡が残った。
「やはり……か」
自分の知っている物よりはずいぶんと艶があるが、これは粘土だろう。艶の正体はなんだ。はちみつのような艶、はたまた卵のような艶。
どちらにしても、器やレンガを作る粘土のような……つまりは土。
モンスターの中には土を食べる種類もあるが……。
粘土を金属の紙で包んである……。わざわざこのようなことをしているということは、貴重品なのかもしれない。ただの携帯食であれば巾着にでも放り込めば済みだろう。それを紙にしろ金属にしろ個別に包むなど。
せめてものお詫びにと渡した品にとても丁寧に礼を言われた。
……こちの世界の人間のせいでひどい目にあっているというのに……。
ぐっと奥歯をかみしめる。
陛下のせいにするのは簡単だ。だが、その陛下の蛮行を止められない俺だって同罪だろう。
子供の曇りのない黒くてキラキラした目を思い出す。
「くそうっ」
思わずいら立ちが募り、馬車の座席をこぶしで叩きつける。
「おっと。……」
座席の板を割ってしまった。失敗失敗。
向かい側の座席からクッションを取り、穴の上に置いて見えないようにしておく。
ふぅー。穴が開いたおかげですぅーっと冷静さを取り戻せた。まぁ、怪我の功名ってやつだ。うん。穴、……クッションを置けば見えないし、問題ない。
子供が大切な食べ物を分けてくれたのだ。
とても食べられないとしても、粗末にしては駄目だな……。
銀色の紙なのか金属なのかで、艶のある粘土をもとのように包んでポケットにしまう。
馬車がゆるゆると進みながら、子供の姿を思い出していた。
艶のある黒い髪。肩に届くか届かないかの長さできっちりと切りそろえられていた。肌は白くてなめらか。
穴も汚れも一つもない、黒いズボンに皮の靴。長袖の上からかぶるゆったりとした形の分厚い生地の服を着ていた。丈が短いのにフードがついていた。変わったデザインの服だった。
しかし……。髪や肌の手入れもされて、汚れもない服を着ていたことから考えると、それなりの立場のある子供だったのだろう。
不測の事態が起きたことにも取り乱すことなく、冷静にいろいろと見て判断していたと思う。言葉遣いも丁寧だった。
もしかすると……。異世界の貴族……いいや、帝王学を叩きこまれた王子だと言われても信じるレベルだ。
……だとしたら、この四角い不思議な食べ物に見えない食べ物は、やはりとても高価なもの。例えば回復効果があるとか、特別な力を持つ魔法アイテムなのでは……?
いや、さっぱりわからんな。
キャラメルだってば!(念のため)