★★辞表
グレイル視点です
「殿下、何をしていらっしゃるのですか?」
ダンが嫌味たっぷりに丁寧な言葉遣いで問いかけてきた。
「見ての通りだ。クルミの殻を割っている」
「……それは見ればわかりますが、私が訪ねているのは、なぜ、執務室で、仕事を私に押し付けてクルミを割っているのかと」
ダンの言葉には棘がビシビシと生えている。
「まぁ、ちょっと待て。ダンのためでもある」
森の中で本物のクルミを山と拾ってきた。あいにくと栗は季節が悪いのか場所が悪いのか見つけることができなかった。
今度また探しに行かなければ。
栗を持って行った時のリツの嬉しそうな顔を想像する。
リツは、喜んでくれるだろうか。
「はぁ?全く持って意味が分かりませんけれど、なぜ、クルミを割るのが私のためなのでしょう?私のためだと言うのであれば、ぜひとも、この書類の半分と言わず三分の一でも片づけていただければ」
ダンが俺の前に山積みになっているクルミを手に取った。
「クルミならば私が代わりに殻を割って差し上げますので」
バリン。
うおう。
硬いクルミの殻を、ダンは素手で砕いた。
ひぃ。相当怒っているようだ。
「あー、わ、分かった。じゃぁ、二人でやろう。な?そうすれば早いだろうから」
へらっと笑って、クルミを半分ダンの前に押しやり、クルミ割を続ける。
「グレイル殿下……」
ダンが机の引き出しから封筒を取り出し俺の前に置いた。
封筒には辞表……と、丁寧な字で書かれている。
「や、待て、待ってくれダン。わ、分かった。そう、書類、そう書類が先だな。うん、書類を先に二人で手分けすれば早く終わる。ああ、そうだ、書類は俺かお前じゃないとどうにもならない。だがクルミを割るのは……ああ、そこの君、頼んだ。クルミを割ってもらえるか?もし手が足りないようならだれか呼んでクルミを割ってくれ」
慌ててクルミ割りを部屋の隅に控えていた護衛に頼んでダンの机の上に積まれた書類の半分……いや、怒らせた手前半分より多めに手に取り仕事にとりかかった。
ダンがはあーっと大きなため息を吐き出しながら、辞表を机の引き出しの中に片づけるのを横目で確認し、ほっと息を吐きだす。
「それで、クルミの何が私のためなんですか?」
ダンは有能なので、会話をしながらも書類の確認の手は止まらない。
「ああ、それは書類が終わってからのお楽しみだ。ダンも絶対驚く」
「クルミに驚くようなことなどありませんけどね?訓練校時代に、何度か食べましたし」
「それは俺も同じだ。その俺が驚いたんだから、ダンもきっと驚くさ」
ダンがちらりと俺の顔を見てからふぅとため息を吐き出してペンを走らせる。
「……すまんなダン……」
俺も、ペンを走らせながら、小さな声でつぶやいた。
「何のことです?」
「……俺も、お前も本当なら今頃、騎士か兵士になっていたはずなのにな。分隊長か隊長か……もしかしたら将軍補佐あたりまで出世していたかもしれないのに……」
ダンは俺の話を黙って聞いていた。
そして、ゆっくりと顔を上げると訓練校時代によく見せていたいたずらっ子のような顔をして笑う。
「グレイルのせいじゃないさ」
それだけ言うと、ダンはすぐに書類に視線を戻した。
……そう、だな。大本は、俺のせいではない。
陛下が悪い。
陛下がしっかり国を治めていれば俺がこんな仕事をする必要がないのだ。
陛下が世継ぎを設けていれば、俺じゃない世継ぎが仕事をすれば済んでいたのだ。
グレイル視点しばらく続くけど、今回はリツ視点と重複はしてませんので。グレイルサイドといった感じですかねぇ。
残念街道まっしぐら!




