クルミと髭……そんなタイトルの漫画を描いてみたくなり……ませんよ?
食べたいけど、でも私にあげようと思っている、ちょっと「待て」をされた犬みたいな表情をしました。
いや、なんてかわいいんでしょう。イケメンどんな表情してもかわいすぎます。というか、私、そこまでクルミが食べたい!っていうことでもないんですよ。
フライパンに残ったクルミをつまんで、グレイルさんに手渡そうと前に差し出す。
「私は、さっきも言いましたがお腹がいっぱいなので、もういいです。グレイルさん食べてください」
「そ、そうか?でも、さっき、声を……上げただろう?」
ああ、確かに気がついたらフライパンが空になりそうで思わず声がでました。
「はい。あの、生の栗を食べると皮膚病になるという話をしていましたよね?クルミも食べすぎると体に良くないので……えーっとカロリーが高くて太ってしまうし、消化が悪いのでお腹が痛くなる人もいるかも……です」
グレイルさんが首を傾げた。
「まぁ、なんでも食べすぎるとお腹を壊すこともあるからな……それよりもカロリーとは何のことだ?」
ああ、そうか。魔石で栄養とか考えずに生活できちゃうから分からないのか……。
「えーっと、本物の食べ物には、いろいろな効果があって……複製料理は魔石の力を得ることができるように、本物の食べ物は種類によっていろいろな力……栄養を得るんですが、カロリーっていうのは……えーっと、人を動かすエネルギーになるもので」
グレイルさんがびっくりした顔をしている。
「は?効果?毒のようなマイナスの効果だけではなく、何らかのプラスの効果があるものもあるということか?」
ん?
「あー……えっと、その、魔法的な、その、ポーションだとか回復魔法だとかそういう即効性というか、不思議な効果とかじゃなくて、えーっと、肌がきれいになるコラーゲンとか、視力がよくなるというアントシアニン……そういえば、イソフラボンは女性ホルモンを増やして髭が薄くなるし、逆に亜鉛やビタミンEは男性ホルモンを増やして髭を濃くするとか……」
「何?髭が?」
あ。しまった。
グレイルさんの何かスイッチを入れてしまったようです。
「そ、その、劇的な変化はないんですよ。毎日食べると少しずつ……えーっと1か月とか3か月とか立つと、気が付くとちょっと肌の調子がいいなぁとか気が付くような感じで……」
「髭が……濃く……」
グレイルさんが自分の顎を撫でました。
聞こえてます?そんなに期待するほどの変化はないんですよ?いきなりもっさーと生えたりしませんからね?
「何を食べれば、その、髭が……」
はい。聞こえてませんね。いえ、聞こえているのかもしれませんが、藁にもすがる思いなのでしょうか……。
「ビタミンEは……えーっと、ナッツ類に多く含まれているはずなので、あ、このクルミにも」
と、グレイルさんに差し出したままになっているクルミに視線を落とします。
「はっ、まさか、俺の髭の心配をして、俺に?」
違いますけれど。
「リツ……ありがとう」
ぱくっ。
ぎゃーっ!っすっ!
グレイルさぁん、だから、なんで私の手から食べるんですかぁ?
顔が熱を持ちます。
だめですよ、ちゃんと受け取って自分の手で口に持って行ってください。
グレイルさんの柔らかい唇が指先に当たったじゃないですか。
食べさせられるのも恥ずかしいけど、これもすごく恥ずかしいです。
無自覚女たらし怖いっ。
亜鉛不足になると味覚障害に陥るとか……。




