職業売れない漫画家です
「あ、えーっと、焼くというか、クルミだと炙り焼きって意味でローストを使いますが、フライパンで煎ります」
グレイルさんがクルミを入れたフライパンを火にかけて、焦げないように振っている様子を不思議そうに見ています。
「肉でもないのに、焼くのか?」
「パンも焼いて作ってますよね?」
グレイルさんがまだ不思議そうな顔をしています。
……え?魔石で完成系が出てくるからまるっきる作り方が分からないんでしょうか。
……確かに、例えばマッチ1本も作れと言われても作れませんし、マカロンを作れと言われても材料からよくわかりません。
とはいて……そこまで料理の知識がないんですね。もしかしたら肉を焼いて食べるということを知っているだけでもまだ物知りな方なのでしょうか。肉は動物から取れると知っているのも、当たり前のようで、現代日本でも切り身しか見たことがないから豚や牛から取れると知らない人がいるという話を聞いたこともあります……嘘みたいだと思いましたが、見たことがない、聞いたことがないで育てばそうなるのかもしれません。
とすると、この世界の人たちは、実際に料理を作っているところを見たことがある人間が極端に少ないため、知らないのが普通なのかもしれません。
「少し時間がかかりますが、こうして焦げないようにじっくり煎るんです」
と、偉そうに説明したもののクルミを煎るのは初めてです。どれくらいの時間やればいいんでしょう。お好みなのかしら?
コーヒー豆は深煎りとか、木の実の煎り具合とかありますよね。やりすぎるとクルミも苦くなるかもしれないので、美味しそうな匂いがして来たら辞めることにしましょう。足りなければもう一度やればいいはずです。
ふと、どんぐりチョコレートの作り方を思い出しました。どんぐりでチョコレートができると言う嘘みたいな話です。それっぽいものができるそうです。……しっかり苦みがでるまでどんぐりを煎るらしいんですが……とりあえず、チョコレートは間に合ってるから作ろうとは思いませんが。
……コーヒーみたいなものも作れないでしょうか?どんぐりコーヒー。あ、たんぽぽコーヒーとかはたんぽぽが見つかれば作れるかもしれませんね。
「あの、ちょっと変わってもらってもいいですか?」
「あ、ああ。もちろん」
グレイルさんにフライパンをゆすってもらう作業を変わってもらい、ポケットからメモ帳とボールペンを取り出す。メモをいつでもとれるように持ち歩いているのだ。ボールペンは手帳用の小さなやつ。
そこにたんぽぽの絵を描く。花と、綿毛になったものと。
「グレイルさん、こういう花を見たことないですか?黄色くて春……温かくなってきたころに咲く花です。咲き終わると白い綿毛……丸くてふわふわした形に変わります。綿毛に風を送ると」
その隣に種の絵、綿毛の1つを書き加えます。
「こういう形になって飛んでいく……タンポポという花なのですが……」
グレイルさんが私の描いた絵に視線を落としました。
「すまん、花には詳しくなくて……名前を聞いたこともないし、見た記憶もない」
「そうですか……」
タンポポはないのかなぁ。生命力の強い雑草だし、子供のころは綿毛を飛ばすのが楽しくて仕方がない存在だ。娯楽が少ない世界であれば遊んだことがあるだろう。知らないということはないと考えた方がよさそうだ。
「それにしても、絵がうまいな」
「ありがとうございます」
絵を褒められて嬉しくなって顔がにやけてしまう。
タンポポコーヒーのんだことないです




