クルミがたくさん
はぁー。しばらくはでも、臓物という単語でホラー漫画的なものを思い出してしまうので食べるのは躊躇しそうです。
いえ、待ってください?むしろ目の前にもつ鍋が出てきたらすごいご褒美ではないですか?今の私にとって、もつ鍋を食べる機会なんていつ訪れるか分からないんですよ?
と、いろいろと考えている間に、グレイルさんが私の手の平のクルミをつまみ上げた。
「悪い。いらないよな」
グレイルさんが自分の口にクルミを放り込もうとしたところを必死に止めます。
「いります!臓物も美味しいんですよっ!平気です、クルミ、全然不気味じゃないですっ!食べます!」
両手でグレイルさんの手を包みこみ、訴える。
「え……あ、……そうか?」
気が付くとグレイルさんの犯罪レベルのイケメン顔面が、手を挟んですぐ目の前にありました。距離にして30センチ。
うわーっ。すいません、すいません。
クルミが食べたかったからって、ちょっとやらかしてしまいました。
慌てて手を放して距離を取ります。
「……臓物は食うな……クルミならいくらだって出してやるから……」
グレイルさんがクルミをつまんだ手を私の口元に持ってきました。
ぱくり。
素直に口を開いて食べます。
グレイルさんの指先が少し唇に触れました。……ところで我に返ります。
な、何を私はしてしまったのでしょう。イケメンに食べさせてもらうとか、これ、漫画のむねきゅんシーンそのものじゃないですかっ。 いくら、クルミが食べたかったからって、落ち着いて手で受け取って食べるってできたはずです。
やらかしたぁと思いつつ、グレイルさんの顔を見ると、イケメンが固まっています。
すいません。
「……臓物より美味しいだろう?」
いえ、本当はクルミよりももつ鍋の方が好きですけど、しかも生クルミは初めて食べました。カリカリというかサクサクとしたいつものローストクルミの方が好きですけど……。でも、もう何も考えずに素直にコクコクコクと頷いて見せます。
「クルミ、美味しいです」
照れ隠しに笑ってごまかかし、早口でしゃべります。
「栄養価も高いんですよね。でも火を通すとビタミンが壊れてしまうから、生のまま食べた方が栄養価が高いって聞いたことがあります。あ、でもポリフェノールだかなんだかは生よりもローストしたほうが増えると言う話でした」
私の話を聞いているのか聞いていないのか、グレイルさんは追加でクルミを出して、割っては私の手の平に中身を出してくれます。
食べていいものかどうか分からずそのままクルミだけを受け取り続けます。
もうすでに、両手に山盛りなのですが……。
その状態になって、初めてグレイルさんが私の顔を見ました。
「食べないのか?」
え?食べてよかったのですか?って、もうこの状態だと両手がふさがっていて食べられません……。
「ああ、両手がふさがって……遠慮せず食べてくれ。リツのために出したんだ」
グレイルさんが私の手の山のクルミを一つ手に取り、口元に運んでくれた。
うわぁぁ。胸キュンシチュエーション再びぃ。何の拷問でしょうか。ダメですよ、非リア界隈なのに、いきなりこんなのハードル高すぎます。
「ロースト、ローストすると、もっと美味しくなりますっ!」
慌てて、フライパンの中に両手のクルミを入れます。
「ロースト?」
注*クルミは生で食べられます。お菓子やおつまみ売り場に並んでいるものはほぼロースト物だそうで。料理用に売ってるものが生だそうです。




