☆☆緑の手、実りの手
神官皇視点です
「いや、仕事なんて誰だってでき……」
「神官皇様、し、ご、とを、してください」
副神官皇が、有無を言わせぬ迫力で私をにらみつける。
ったく。目上の者を敬えと習わなかったのだろうか。いくら20代に見えるからといっても、私はもう50歳だぞ。
40歳そこそこの副神官皇よりも、10も年上だというのに……。
不満が顔に出ていたのか、副神官皇がふぅと小さくため息を漏らした。
「神官皇様の緑の手で、麦の成長を早めていただけますか?評判が良すぎるために遠方からもこちらの教会へ祝福を受ける者が後を絶ちません。また新しい料理を求める者たちも増えており、予定よりも早く麦がなくなりそうです」
副神官皇の言葉に、ああと頷き返す。
「分かった。そればかりは副神官皇に任せられないな……。あとは、とても助かっている。とてもよくできた副官と補佐たちだ。ありがとう」
ずっとかぶっていたフードをはずして、まぶしいと形容される顔をさらしてにこりとほほ笑む。
「い、いえ、神官皇様のお手伝いが出来て光栄ですっ」
「これからも力いっぱい支えさせていただきます」
「当たり前のことをしていつだけです。お礼を言われることはありません」
それぞれの言葉を聞いてから、もう一度ほほ笑む
「君たちの助力のおかげで、このように教会にたくさんの人が訪れているのですから……さっそく麦を育ててきましょう。いらっしゃいミック」
執務室を出ると、ミックが慌てて後ろをついて来た。
「ちょろいですねぇ」
ぼそりとミックがつぶやく。
本当に、ちょろい……って、ミック、それは言っちゃダメな言葉ですからね?
教会の敷地……塀に囲まれた中には3つの区画に仕切られている。
1つは人々が訪れる礼拝堂だ。本物のパンや肉による祝福を与えたり、信心深き者へ特別な料理による祝福を与えたりする場所。
調理場と食事がとれる場所が設けられている。
1つは神官たちが生活し仕事をする場所である建物だ。
そしてもう一つは、本物の料理に用いる麦などを育てている区画である。
ここの教会で育てているのは麦と、リンゴと、パイナップルとトウモロコシだ。他の教会よりも種類が多い。
そして、肉を出すための猪だ。
教会によって多少育てている植物や飼育している家畜に差がある。麦ではなく芋で祝福する地域もあると聞く。
いつかその芋も取り寄せて新しく料理を開発してみたいものだ。
畑に到着すると、作物の世話をしている神官が私に駆け寄ってきた。
「すでに種は撒き終えました。神官皇様、第6区の畑です。よろしくお願いいたします」
麦畑は全部で12に分けられている。本来ならひと月に1区画収穫できるように育てれば十分なのだが、どうやらそれでは間に合わなくなっているようだ。
言われた第6区画は一面の土。麦の芽すらもまだ出ていない。
緑の手……もしくは実りの手といわれる、植物の成長を早める魔法を畑にかける。
すると薄緑色のベールのようなものが畑の地表面を覆い、土しか見えなかった場所にぴょこきょこと芽が出てきた。
「うわー、いつ見てもすごい!さすが神官皇様!」
ぱちぱちとミックが嬉しそうに拍手をしている。
ミック……(´・ω・`)




