☆☆泥団子の少年
神官皇視点です
「毒では、ないんだな?」
私の問いかけに、ミックがうんと大きく頷いた。
「毒じゃないよ、ピリピリもしないし気持ち悪くもならない、ああ、でも、もし毒だったとしても、おいら、もっとたべたいけど!」
毒でも食べたい?そこまでミックに言わせるとは……。
ミックが、テーブルの上に載っている残り半分の漆喰を物欲しげに眺めている。
いやいや、毒見が済んだのなら残りは私が食べるから上げられないので、そんな凝視しないで……。
神官皇補佐たちも興味深げに私が漆喰もどきを口に運ぶのを見ている。
人差し指と親指につまんで、漆喰もどきを口に運ぶ。
甘いと言っていたからだろうか。甘い香りがする気がする。嗅いだことのない香りだ。
口に漆喰もどきを入れた瞬間、口の中で漆喰もどきが解けていく。
甘い。甘くて柔らかい。はちみつのようにどこか尖ったような甘さではなく、まろやかな甘さが広がる。
滑らかな舌触りの漆喰もどきが徐々に溶けていき、甘さが口いっぱいに広がり……。
何だ、なんだ、な、ん、だ!
思わず腰が抜けそうになった。
おいしすぎる。
ミックが壁際に移動して両手で口を押えていたのが分かる。
誰にも邪魔されず味わいたかったのだ。口から少しも出したくなかったのだ。
……ああ、溶ける。なくなってしまう。……いつまでも味わっていたい……。
「あーーーっ」
思わず大きな声が出てしまった。
「ど、どうなさいました、神官皇様!」
「大丈夫ですか?遅効性の毒でも……?」
首を横に振る。
「いいや、ミックと同じだ。口の中からなくなってしまったことで思わず声が出てしまった……」
50歳にもなるというのに、13歳の子供と同じことをしてしまうとは。少し恥ずかしくなったが仕方がない。
それほど、美味しいのだ。もうなんとも言えず、おいしいのだ。
……しまった。こんなに漆喰もどきが美味しいとは。
ということは……。
「泥団子を食べておけばよかった……」
少年が持っていたあの泥団子はどんな味だったのだろう。
「え?神官皇様?泥団子って……」
何ともったいないことをしてしまったのか。
これほど美味しいのであれば、パンなど食べられなくてもさぞ幸せであろう。
「これは……泥団子の少年を探さないと」
「いえ、だから、神官皇様、泥団子って、どういうことですか?」
副神官皇が私の目の前に立ち訪ねてきた。
名前すら聞いていない。どこから来てどこへ行くのかも分からない。
「泥団子を持っている少年のことだ」
「えーっと、子供なら泥団子で遊ぶことくらいあるのでは?ミック、適当に子供を連れてきなさい」
副神官皇の言葉にミックが部屋を出ていこうとする。
「違う、ミック、そうじゃない。子供じゃない。ミックよりも大きな少年だ。10歳はとうに過ぎている。声変わりはしていないが、そろそろ成人……15歳になろうという少年……」
副神官皇が首を傾げた。
「そんな年にもなって、泥団子で遊ぶ少年ですか?」
「いや、泥団子で遊んでいたわけではない。泥団子のようなものを食べていたのだ」
副神官皇が目を見開いた。
「泥団子を食べるような酔狂な人間を探してどうするというのですか!冗談を言っていないで、仕事をしてください。何もかも私に任されても困りますっ」
副神官皇が青筋を立てた。
だーかーらー、ちーがーうー
泥団子じゃないよっ。ついでに漆喰でもなかったよ!
……さて。漆喰は食べられるのかどうか?ちょっと気になったので調べました。
まずは「危険なので食べないようにね!」と前置きしておきます。現代のものは何が入っているか分かりませんので。
ですが「食べられます」……ええ、食べられるそうです。
ただし、固まる前は強アルカリ性で、とても危険。謝って口に入れたら吐き出しましょう(苦くてまずいから好んで食べることはないようですが)水ではなく牛乳で口をゆすぐように……とのこと。水を加えるとさらに危険になるらしいです。
そして、固まると、弱アルカリ性になり、多少食べても大丈夫。そして原料となっている物は(現代のものは科学物質もある可能性もありますので危険です)昔はすべて食べられる天然素材という場合も多く、まさに漆喰は固まれば食べられないこともない……らしいです。
いやだから、良い子は漆喰を食べないの!いいですか、食べないのよ!
……いや、食べられるかも?と思って調べる私も私だけれども。
……そして、歴史好きには有名な話かもしれませんが……。
お城の壁は食べられる
そうな。漆喰じゃなくて珪藻土。……うほー。結局土を食べちゃうのね。……泥団子少年……あながちないわけでもない……苦笑
引き続きよろしくお願いいたします。
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