ハンカチーフ
「そうか、魔石がなきゃ、こんな木の実でも食べないわけにはいかないもんなぁ。どうしたら食べられるか誰かが考えたことも教えてもらったのか」
「っていうか、リツは兵の養成所に通っていたのかい?とてもそうは見えないけれど。通っている誰かに聞いたのか?」
うーん、あまりいろいろ説明すると、異世界から来たってこととかばれる可能性もありますよね。召喚魔法があるというのはどれくらいこの世界では一般知識として知れ渡ってるんでしょう?
もし、過去に勇者だとか聖女だとか召喚されたなどの歴史があれば、いや歴史ではなくても伝説やおとぎ話で残っていて人々が当たり前に聞いていれば。
召喚魔法があるというのは、本当かどうかわからなくても知ってるってことになりますよね……。
気をつけなくちゃいけません。
この世界で召喚された異世界の人間……すぐに城を追い出されるような役立たずの異世界人がどんな扱いを受けるのか全く分からないのです。
グレイルさんは私に同情的でしたが……。
「結婚はできない」と、そうはっきり言いました。いえ、別に結婚したいとかそういう話じゃないんですけど。
もし、あの言葉の真意が「忌避されている異世界人とは結婚できない」という意味合いが含まれていたとしたらですね……。
ミックくんがキュイちゃんの耳を見て、私に差別しないよねと聞いた。この世界には人種による差別が確かにあるのです。
異世界人差別が、魔女狩りのように見つけたら殺せレベルだったら困ります。
あ、でもだったら城で殺されていたかな?そうじゃないってことは、見つけたら殺せレベルってことはない?なら、大丈夫なのでしょうか?
ぶんぶんと頭を振る。
だめです!石を投げられるレベルでもだめです。一緒にいるミックくんや私を泊めたマーリーさんまでも何を言われるかわかりません。
隠すに越したことはないです。
「えーっと、兵士さんに教えてもらいました。肉はしっかり焼けと、ぼ、僕も何度も念を押されました。あとクルミは食べられるというのと……」
完全な嘘ではありません。今口にしたことは本当のことです。グレイルさんに教えてもらいました。
うーん。一人称を僕と言ってみたもののなれませんね。女性だとわからないほうが安全だろうと思ったのですが。特に宿に一人で止まっている女なんて……日本ですら危険ですもんね。この世界ではきっともっと危ないような気がします。
ああやっぱりなという顔でうなづいたのを見て、これ以上突っ込まれないように、話をそらします。
「あの、ワーシュさん鍋に牛乳をお願いします。それから、レモンの汁を絞りたいので器を。それから清潔な布を」
マーリーさんがびっくりして目を丸くする。
「布も食べられるのかい?」
違うんです。……って、もしかしなくても料理をしないということは漉すとかもわからないですよね……。
「えーっと、砂の混じった水から砂を取り除いて水だけにするみたいな作業をしたいんですが……食べ物を作るのに使うので清潔でそれからえっと、安い布でかまわないので」
私の言葉を聞いて、ワーシュさんがポケットから布を取り出した。
「ふむ、ハンカチでかまわないかの?洗い立てじゃぞ?」
手渡されたハンカチにはしっかりとアイロンがかけてあります。
え?わざわざ宿に泊まってハンカチを洗ってアイロンまでかける?いえ、そもそもこの世界でハンカチにアイロンをかける生活をしている人はどれくらいいるのでしょう?なんとなく、庶民はアイロンをかけるどころかハンカチすら持っていない気がします。
日本人って、4文字に略すの好きですよね。キムタクとか。転スラとか。
ヤンデレとか4文字カタカナ単語を作るのも。
で、何の話?って、「ハンカチ」も「ハンカチーフ」の短縮したものですって。
もう、普通に「ハンカチ」で流通しすぎてそんなこと考えたこともなかったけど、ハンカチもかよ!と思いました。
なんでしょうね。これ、不思議よね。5,7,5とかの言葉のリズムとか好きだったり、4は不吉な数字とかいう日本なのに、なぜか短縮するときは4文字好きって。
不思議。何か理由があるんだろうか?




