★★懸念材料はないとはいえ
兵士さん視点(名をグレイルという)
「おかえりなさい殿下」
馬車が城に着くと、すぐに部下の一人が馬車の扉を開けた。
「殿下はよせと言ってるだろう」
「あはは~いや、今はこっちの仕事じゃないですし」
「俺の留守中、問題はなかったか?」
馬車から飛び降りる。
そういえば、馬車に乗り込むときに踏み台がなくて四苦八苦してたな。両脇を抱えて馬車に乗せてやったら、驚いた顔をしていた。
目が飛び出すかというくらいまん丸にして。なんか恥ずかしそうにうつむいてたが。もし想像のように王子だとすると自尊心を傷つけてしまったかな?
「問題、全然ないですよ。みんな隊長がいなくてのびのびと」
口の軽い部下が俺の顔を見て口をつぐんだ。
「そうか、俺がいなくてのびのびだったか。ずいぶん気が緩んでいたとそういうことか?」
「め、滅相もない、隊長がいなくてもだれ一人訓練をさぼることなく、普段以上に身を入れて励んでおりまし……」
「お前は分かりやすいな。嘘をつくときは、右の眉毛の端だけ上に上がる」
はっとして部下が左の眉を抑えた。そっちは逆だ。
呆れてため息を漏らしながら、ずっとかぶっていた兜を脱いで部下に渡す。
「うへー、隊長、馬車の中でもずっとかぶっていたんっすか?」
「あ?ああ。いつ命を狙われるか分からんからな」
「もー、だから、隊長自ら連れてくことなかったんですよ。私たちに命じてくれれば。子供を一人森まで連れていくだけでしょう?」
城に向かって歩き出すと、後ろを部下がおしゃべりをつづけながらついてくる。
これでも副隊長なんだよ。剣も魔法も使え、腕も確かだ。
それに何より人懐こい性格で、人望もある。いざというときの判断力もあり、そういう面での信用はあるんだが……。
「お前に任せたらどんな失礼な態度をとるか分かったもんじゃない。王族に対してもソレだからな」
「で、グレイル殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」
急にびしっと背筋を伸ばした副隊長の頭を小突く。
「だから、殿下はよせ。それから今更だ、俺に対しては今更態度を改める必要はない」
「で、わざわざ命の危険を冒してまで送って行って何か収穫はありましたか?」
副隊長……ダンの言葉に首を横に振る。
「あの子のいた世界では魔法はなかったそうだ。だから新しい魔法の情報を得ることもできなかったし、あの子から世に新しい魔法が広まることもないだろう」
ダンがふぅと小さくため息を吐き出した。
「そうですか。残念なのかほっとしたのか。ったく美味しい物が食べたいってそれだけで異世界から気軽に人を召喚するのもやめてほしいもんですよねぇ。あのバカ陛下……おっと、口が過ぎました」
ダンの言葉に苦笑するしかない。
「後始末のことも考えてほしいところだな。西の国では召喚した者が桁外れな力を持っていたため勇者としてあがめられていると聞く。もしそのような力を持ったものを召喚してしまった場合、自分の立場も危ういと言うのに……」
幸いというか、 西の国の勇者は世界をわが手に入れようと言うような野望は持っていなかったから救われているが。もし、噂通りのすごい力を有した者が召喚され、その者が世界を征服しようと言うような野望を持っていた場合……。いいや、自分の属する世界から召喚されたことに怒り、この世界に復習しようとした場合の方が悲劇だろうか。皆殺しにしてやると、罪のない者の命が奪われることさえある。
……。召喚が行える能力を持った神官が現れなければよかったのだ。6年前のあのとき。偶然召喚できる能力に目覚めた神官。
(´・ω・`)シリアスモードになっとる。




