ヒロインなのに悪役令嬢って言われるてどうよ?
私は乙女ゲームのヒロインに転移した。
だから、ゲームに乗るしかない。
その中で、出来るかぎり楽しく人生を謳歌しようって思うのは当たり前のことじゃない?
なのに、今断罪されてるのは私の方。
え、実はこれって、最近流行りの逆転悪役令嬢ものだった?
「と言うことで、……様はエイディーン学園の生徒には相応しくないと存じます」
私の味方だったはずの、王子の側近が私の罪状を告げる。
王子の婚約者(元悪役令嬢)を馬鹿にしたとか、突き落とそうとしたとか。
お菓子に毒をいれたとか。
でもね。彼女の髪はこれでもかと言うくらいの縦ロール。
こう、カールに指を突っ込みたくなるでしょ?
つい、欲望のままに、指を入れたのはまずかったのかしら。
でも、彼女も笑ってたよ。
巻き毛を利用したヘアアレンジをしてあげた時には、回りの評判も良くて、王子に誉められたと感謝してくれたのに。
突き落とそうとしたって言うけど、王子の婚約者さんが貸してくれたドレスが長くて、踏んでしまって転びそうになっただけよ。
近くにいた彼女を巻き込んだけど、階段落ちはしていない。
作ったお菓子も美味しそうに食べてたし。
いや、待て。こっちでは砂糖はまだ希少。
魔法で精製した白砂糖をまぶしたお菓子をあげた翌日、彼女は学園を休んでいた。
刺激が強すぎたのかもしれない。
その王子の婚約者さんは痛ましそうに、こちらを見ている。
いや、そんな目で見るなら、なにか弁護をしてくれないかな?
「どうした。図星すぎて言葉もないか」
取り巻きに私の罪状とやらを並べたてさせて、王子は傲然と反り返る。
キャラクターとしての俺様は魅力的に見えるけど、現実としては、ご免なさい人格なんだなーとルートを外したはずなのに。
「だいたい、我々が目をかけて誘ってやったのに、それをことごとく断るようになるとは無礼極まりない」
……ああ、そういうことね。
王子、宰相の息子、騎士団長の息子、魔術の天才児。
今いるのは、全てルートを外した人ばかりだ。
なんかね。貴族万歳、身分制度上等。
現代人の価値観と相容れないところが多くて、受け入れられなくなって。
だから、図書館にいつもいる眼鏡君と友情エンドを目指していたと言うのに。
って、眼鏡君どこ?
隅の方にいる。助けて……はくれないか。
まだ、好感度をそこまで上げてないし。
初めに見た目に騙されて、王子や側近との好感度を上げてたからねー。
「貴様、どこを見ている」
騎士団長の息子が威嚇するように怒鳴る。
レディには礼節を持って優しくが騎士道だって言ってなかった?
あ、私はレディ(貴族の令嬢)じゃないから枠外か。
「生徒会の仕事も、たかが2ヶ月手伝っただけで忙しいからと断る身勝手さ。多くを持つものはより一層の義務を負うというのに」
吐き捨てるように宰相の息子が言った。
だって、お手伝いだと言うのに、次から次へと仕事を振ってきたよね。
王子は名ばかり生徒会長だったし。声は大きいが自分は動かず。
見映えのいい仕事はやってたけど。
毎日、帰宅が日付の変わる頃近く。
初めてやる仕事をこれくらい一時間で出来るとか、慣れた自分基準で振るわ、少し時間をオーバすればあからさまに機嫌が悪くなるわ。
なかには、これ、学校の仕事じゃないんじゃない?
ってのまであったな。
納入業者の不正なんて、学校経営者側が動くべきで、私ら生徒が潜入調査をする案件じゃないでしょ。
うっかり死にかけたよ。
おまけに、さりげなく肩やら胸やらに触ってきたよね、君。
まあ、宰相の息子だけじゃないけどね。
パワハラ、セクハラ。ふざけるな。
ノー・ブラック企業。イエス・ホワイト企業。
定時で帰って何が悪い。
「僕の魔法の研究のために素直に協力してくれれば、助けてあげる」
魔法の風が魔術師の声を耳元に運んでくる。
そして、研究の成果と名声は自分のものですか。
ペアで共同研究をした授業、発表の時に、私が考えた術式をさらっと自分が考えたかのようにしてましたね
そういえば、王子の婚約者もさりげなく自分が嫌なことを私に託つけて主張してたね。
自分は、王子の言う通りだと思うんですけど、私が言っているから、みたいな?
彼らは私を悪女と呼ぶ。
何をいってる。
「私がここにふさわしくないんじゃない。ここが私にふさわしくなかったんだわ」
ふいに天恵が私に降りてくる。
私が本当は、何を望んでいたのか。
そして、どうすればその望みを叶えることができるのか。
体の奥から溢れ出す魔力。両手に輝きが宿る。
「手が光って」
王子が私の両手を見た。
「何?その魔力は!」
魔術の天才児が驚愕した声を出す。
「誰か、やめさせろ」
宰相の息子の言葉に騎士団長の息子が迫ってくる。
だが、遅い。
私は術式を展開し、高らかに叫んだ。
「究極魔法・神の手リセット!!!」
ありったけの魔力を使って帰還した私は、気力を振り絞りドレスをクローゼットに押し込んだところで、その場に倒れた。
それでもなんとか、手近にあったスマホで彼に助けを求める。
チャイムが鳴る。
「……ちゃん、大丈夫か」
ベッドにいく気力もなく、床に倒れていた私を助け起こして寝かせてくれる。
「救急車を呼ぼうか?」
彼の言葉に私は力なく首を振る。
次元酔い。
3日も安静にしていれば治るだろう。
どこかで、それは分かっていた。
でも、それまでは思うように動けない。
彼は私を助け起こしてくれて、スポーツ飲料を彼は飲ませてくれる。
「ありがとう」
私は彼の胸に寄りかかる。
暖かい。
あの世界では、体温を感じることはなかったな。
とぼんやり思う。
「二週間、ログインしてなかったから、心配してた」
彼が教えてくれたオンラインゲームの話だ。
「ちょっと、浮気してた」
彼が、つけっぱなしの画面を見て、ああ、と納得する。
「……ちゃんも、こんなゲームやるんだね」
「一応、乙女ですから」
まさか、ゲームの世界に引き込まれて、転移してたとは想像出来ないだろう。
自分だって、ドレスがなければ夢だったと思うところだ。
「倒れるくらい面白かったんだね」
いや、違うと言いかけて、止める。
ゲームだったころは確かに面白かった。しかし、リアルは。
「でも、ほどほどにね」
お母さんみたいなことを言って彼は眼鏡を押し上げた。
ゲームの図書館のキャラは彼に似ていた。
それでも、友情エンドしか選べなくて。
「私って意外に一途な乙女だったんだなー」
私の呟きに怪訝な顔をする彼。
その顔を見て還ってきて良かったと心から思った。
どうしたの?と言う彼に私は経験から得た結論を口にした。
「やっぱり、ゲームはキャラではなく、プレーヤーが最高だってこと」
長編の息抜きにさらっと書いてみました。
お気に召したら幸いです。
異世界恋愛・転生転移カテゴリーで、一時ランキング24位になりました。
PVも8000を越えて多くの方に読んでいただけました。
ランキングに載ると言うのはすごいことと実感しました。
評価とブックマークをしていただいた方を始め、読んでくださったすべての方に心から感謝します。