第七話 邪神儀式
魔法攻撃を食らい一時撤退の主人公は本気を出します。
敵の魔法攻撃を受け、攻撃を避けられそうなところまで一時退避した私は早速AIに被害調査を命じた。
『前部装甲板に外部から打撃を受けた様な無数の凹みが確認されます。
上部装甲板に大型のハンマーで叩かれたような跡が残っています。
強烈な衝撃を受けた影響で本体構造体が歪み亀裂が発生、内部の電装系が損傷を受け30%の機能低下。
ジェネレーターの出力にも若干の低下がみられる為、精密点検を推奨します』
私はそれを聞いてハッチから外に出るとメックの屋根に上った。
すると、確かに巨大なハンマーで叩かれた様な跡があり、本当に文字通り天井が軽くへしゃげているのが見えた。成程、これなら本体構造体が歪んでヒビが入っていてもおかしくない…。
戦闘車両用のミリタリーグレードの金属は使っていないにせよ、それでもちょっとやそっとで凹んだりする様な材質では無いはず。
間違っても衝撃でたわむとか、ありえない筈だ。
『修理に掛かる時間は?』
『構造体の修理にはメック工場の設備が必要です。
メック工場で修理して6時間という所でしょうか』
『一から作るのと変わらないじゃない』
『本体構造体を交換する必要があります。
その為、一から作る以上の時間が必要になります』
『じゃあ、コレもう要らないから解体しておいて』
『了解しました、コマンダー』
『今度は夜陰に乗じて私一人でいく事にする。
魔法が厄介だから、先ずはサンプルを捕獲してくる』
『魔法による被害状況からみてサンプルは必須だと思われます』
『うん、あとこの前の敵将から回収してある剣の一部。
あれの分析も必要だと思う。
どうやら今回の仕事、舐めてかかると真剣にヤバそうだから。
進んだ科学は魔法に見えるっていうけど、私達から見て魔法に見えるほど進んだテクノロジーが魔法だとしたら…。
考えるだけでぞっとする』
『その可能性は排除できません』
『それに、そろそろ本格的な拠点が必要だと思うんだ。
この星に墜ちて来た時のドロップポッドってまだビーコン生きてる?』
『はい、ドロップポッドのビーコンは生きています。
ドロップポッドは修理できる機能は修理し、光学迷彩により隠蔽してあります』
『了解。
では、あのドロップポッドの辺りに外部から見えないように基地を建設。
ドロップシップが生産できる程度の生産設備と、Tier2のメック、ボット工場を併設。
更には、衛星軌道に基地を作るための施設、軌道エレベーターの設置準備。
勿論、それらを稼働しても余力のあるレベルのジェネレーターの設置もお願い。
それに、テレポーターの設置を』
『了解しました、コマンダー。
ただし、テレポーターはこの星にはテレポーターグリッドが存在しないため、テレポーター間での転送しか出来ません』
『うん、わかってる。
前進基地を建設する時にテレポーターも設置したら拠点に戻れるから。
いざという時のバックアップにも使えるしね』
『了解しました』
テレポーターは便利だけど色々と原理的制約がある。
先ず、大きな物をテレポートすることは出来ない。
それに、テレポートできる物も限られている。
基本的に天然物や生ものは不可能だし、この世界固有の物の殆どは転送不能の筈。
更には、極めて低確率ではあるけど、データ欠損が生じる場合がある。
だから、そう頻繁に多用する物でもない。
『それと、ここにメック工場とラボを設置して。
生産するメックは全地形対応二足歩行偵察メック。
装備は標準の物でいい』
『了解しました』
偵察メックは軍用の戦闘用メック。
Tier1で生産できるメックでは一番強力なメックで二人乗り。
軍では、主に強行偵察任務や民兵クラス相手の戦闘に使われるタイプだ。
戦闘用のメックだけに標準でシールドが付いていて、武装も標準でハイスピードパルスレーザー、グレネードランチャー、ブラスターカノンが搭載されている。
但し、二人乗りで機動性は高いが乗り心地はあまりよくないので、こいつでの長期間の行動は避けたいところ。
拠点が完成したらドロップシップでTier2のビルダー君を運んでくれば、いきなりTier2のメック工場が作れるから、もっと強力なメックが出せるようになるし、ヘビートランスポーターみたいな大型メックじゃなければメックその物を運んでくる事も出来る。
それ迄は、使える物を使っていかないと。
「じゃあ、夜も更けたしそろそろ出かける」
『了解しました。
偵察ドローンで上空より支援可能です』
「わかった」
私はバイクを出すと独特のモーター音を響かせ宿場町に向けて走らせる。
夜は敵の動きは無い様だけど、宿屋町まで到着すると昼間の戦闘の修復をしているのが見えた。
元の状態への改修は難しかったのか、小型のヒューマノイドが瓦礫を積み上げている。
多分ゴブリンだと思うけど、魔族の軍ってどういう編成になってるんだろうね。
私はバイクを物陰に隠すと光学迷彩で身を隠し、夜陰に乗じて城壁に近づく。
前の魔将ガルノフが守備していたウェルブルク城は、暗がりや死角を無くす工夫をしていて巡回が城壁の下を行きかっていたけど、ここの守備を任されている将はそういうのは気にしないのかな。
見た限り、兵が城壁の下を巡回しているのは確認できなかった。
入る側からすると、無警戒なのは仕事が楽でいい。
『よし、ここから入って大丈夫?』
『はい、誰も居ません』
宿屋町の城壁は、城の物に比べればそれほど高くは無く、簡単に飛び越えることが出来た。
AIの言う通り、城壁の内側にも明かりは無く、暗がりになっていて人気が無い。
城壁を飛び越えて町に降り立つと、遠くから胸が悪くなる様な臭いが漂ってくる。
これは…、腐った死体と血の入り混じった臭いかな…。
殆どの建物は荒らされてボロボロで、使われている建物からは明かりが洩れているが、多くの建物は真っ暗でさながら死の街の様だ。
そんな無人であろう建物の屋根の上にそろりと上がると、町の中心に向けて進んでいく。
今回単身で潜入したのは、生贄の祭壇とやらを実際に自分の目で確認したかったのだ。
ドローンからは上空からみた映像は見えるけど、その場の空気はわからないから。
幾つか建物の屋根を乗り継ぐと、街の中心広場に面したところに立っている建物までたどり着いた。
生贄の祭壇は血で濁った様な黒い液体で満たされて居て、その傍に禍々しい血塗られた祭壇が設置されている。
この、胸の悪くなる液体で満たされた円形の泉?は元々は町の中心の憩いの泉か何かだったのだろうか?
それはわからないが、今となってはどす黒い祭壇の一部にしか見えない。
その祭壇ではドローンで見た位の高そうな司祭が、彼らの神に狂ったような祈りを捧げていて、暫く様子を見ていると向こうの方から小型のヒューマノイドの一団がやって来た。
よく見ればやって来た連中はゴブリンで、武装しているどころか後ろ手に拘束されて居て、首をロープで数珠繋ぎに括られ逃げられなくなっている。
そして、その周りには神官戦士っぽい連中と三メートルを超えるような大型のヒューマノイドが見張る様に取り囲んでいる。
やがてゴブリンたちは、生贄の祭壇へ近づいているのに気付いて抵抗し、懇願する様な叫び声を上げるが、聞き届けられるはずもなく祭壇の血の池の前に数珠ごとに並ばされた。
位の高そうな司祭がゴブリンたちに傲慢に罪状を言い放ち、ゴブリンたちは司祭に許してくれるように懇願するが、聞き届けられないのが分ると今度は逆に怒り出し呪詛の言葉を司祭に浴びせ掛ける。
司祭はゴブリンたちの後ろに立つ神官戦士に命じると、彼らはゴブリンたちを血の池に突き落とし始めた。
突き落とされたゴブリンたちは一度は顔を浮き上がらせるのの、何かに引きずり込まれる様にもう一度沈むと、それっきりだった。
そして、次々とゴブリンが数珠繋ぎ毎に生贄の泉へと突き落とされていく。
すると、どうした事だろう。
司祭や周りの神官戦士や大型のヒューマノイドが「神が来た!」と叫び出し、それ迄どす黒かった血の池が仄暗い光を宿しながら不思議な色彩で渦巻きだしたのだ。
池に突き落とされるゴブリンたちは恐怖で泣き叫び、神官戦士たちは神の降臨とやらに興奮し、鬼の形相でゴブリンを突き落とそうと引き立てる。
そして、千人は居るかと思われるゴブリンの一団は、次々と池に突き落とされて行く。
『広場中央の宗教施設から強力なエネルギー反応が発生しています』
『あの渦巻く泉は何なんだろうね』
『レーザーによる虹彩分析によれば鉄分を多く含んだ汚水だと思われます。
しかし、この世界の住人が使う魔法と同じ波長のエネルギーが発生しています』
『これも魔法に関係するのか…』
生贄のゴブリンが全て血の池に投入され、位の高そうな司祭が更に神に祈りを捧げると、黒い炎が血の池から立ち上り、それが収まると元のどす黒い池に戻っていた。
儀式の終わった広場からそれぞれが宿舎へと移動を始めて人影が消えるまで、息をひそめて成り行きを眺めていた。
『そろそろ儀式も終わったみたいだし。
一人になった司祭っぽいのを一人確保する』
『了解しました』
司祭っぽいのにドローンからの映像にタグをつけ、それぞれの動きを監視し、一人になった司祭に目星をつけると屋根伝いに後を付けた。
そして、暗がりに入ったところで飛び降り昏倒させた。
『よし、一人確保したし引き上げるよ』
『脱出経路をナビします』
視野に表示されている地図に、脱出経路が書き込まれる。
『了解』
男を肩に担ぐと再び屋根へと飛び上がり、指示された脱出ルートに添って屋根から屋根へと進み、そして城壁を飛び越え外に出た。
町は特に騒ぎにもなっておらず、今のところ大丈夫そうだ。
バイクまで戻ると、男をバイクの後部シートに載せて、建設中の前進基地まで戻った。
前進基地は既に完成しており、メック工場が偵察メックを製造中。
ラボへと男を運び込むと、一先ず個室に監禁した。
魔法を調査するには男が魔法を使っている所をモニタリングする必要がある。
エネルギーの発生の仕方は勿論、その時の人体の様子を、体温から心拍数や脳波に至るまで全て分析する。
しかし、私達から見て魔法に見えるこの現象が本当に魔法だとしたら、最悪の場合何もわからない可能性がある。
つまり、何故これでエネルギーが発生するのか全く原因不明、といったような風に…。
兎も角、今日は一度休憩を挟み、男にもぐっすり朝まで寝ておいてもらおう。
やっとこさ一人確保してきました。
これで魔法とは何なのか、一先ず調査の環境が整いました。