第六話 魔法攻撃の脅威
主人公は王都への道の途中にあるという城塞都市目指して前進します。
ゾンビとの遭遇戦で精神的にダメージを受けた私だが、ゾンビとの遭遇戦がたった一度で済むわけもなく、しかしその後何度か遭遇戦を繰り返すと、感覚が麻痺したのかもう何も感じなくなった。
ただ機械的にゾンビを焼き尽くす。それだけだ。
そして幾度かのゾンビとの遭遇戦の後、今度は死体ではなく武装した骸骨の集団と出くわした。
ファンタジー小説だとスケルトンウォリアーと呼ばれているモンスターだと思われるが、まさか実物を見ることができるとはね。
こちらの方は、むしろ筋肉も何もついていない骨だけが動いている事に感動すら覚える。
一体、どんなテクノロジー或いは仕組みで動いているのだろう。
これ迄、動く骸骨自体は報告が無かったわけじゃない。
とある植民星で骸骨が動き出すという事件があり調査隊が向かった。
現地に行くと、完全に骨になった動物が現地からの報告通り実際に動いていた。
その原因がわかってしまうと、こんな事もあるのだなあという感じだったのだけど、実は線虫の一種が動物の骨に入り込みコロニーを形成して動かしていたのだった。
線虫一匹ずつはいってしまえば下等生物なのだけど、コロニーを形成して集団で生息し、数が増えると明確な意思や知性が発生する。
ある意味ナノマシーン的とも言えるのだけど、動物の骨に住み着きコロニーを形成した線虫は動物と同じように動き捕食する。
それが人間の成人と同じくらいの大きさのコロニーが形成されれば人と同じように動き道具すら使うようになる。
発見された時は驚きの生物だったけど、宇宙は広く同様の線虫状生物が夥しい数でコロニーを形成して高度な知性を獲得し、文明を形成するに至った事例もあった。
人類で言えば古代文明程度の文明レベルだったけれど、文明の痕跡は人類が到達したいろんなところで発見されている為、人類と同等以上の文明を持つ異種族とは偶々まだ遭遇していないだけなのかも。なにしろ宇宙は無限に広大だから。
ゾンビとは異なり、隊列を組んできっちりと行軍してくる骸骨戦士の群れを眺めながら、ふとそんな話を思い出していた。
まさに、宇宙は広い。
こんなファンタジーみたいな星が現実に存在したのだから。
そう言えば、ゾンビの群れに関してはそれを率いている者と思しき特別な個体は存在せず、それに彼らに意思があるのかどうかもわからず、ただ前に進んでいただけだった。
しかしこのスケルトン兵団には、スケルトンに担がれた輿にいかにも魔法使いっぽい黒ローブが座っていた。
「あの指揮官っぽいのを狙撃すれば、骸骨たちは帰ってくれると思う?」
私はAIに意地悪な質問をする。
AIは過去の事例や複雑な分析で可能性の検討をしてくれるから、私が考える時の検討材料を提示してくるので助かる。
『通常の軍隊であれば指揮官が行動不能になれば引き揚げます。
しかし、汎用ボットで構成された部隊であれば指揮官ユニットが破壊されると、別のボットに指揮が引き継がれ、コマンダーに指示を仰ぎます。
ですが、動く死体の様な敵であれば最後の一兵まで行動を停止しないでしょう』
まあ、そういう答えになるだろうね。
ファンタジー世界の不死の軍隊との戦闘なんてイレギュラーも良いところなんだから。
「じゃあ、試しに撃ってみる」
私は側面ハッチから外に出てメックの屋根に上がると、質量弾用ライフルを出す。
『質量弾20mmスナイパーライフル、弾丸は20mmスマート弾』
マガジンに弾丸が装填された状態で、私の身長を超える大きさのスナイパーライフルを3Dマッピングで生成する。
屋根に寝そべって射撃体勢をとると、スコープからの映像が視界に表示される。
照準の中の黒ローブの主は、深くフードを被っているのでその中は暗くて見えない。
「ま、いいわ。
死者を冒涜する輩は氏ね」
引き金を引くと、20mmスマート弾は狙いを違わずフードを打ち抜く。
血しぶきが飛び散る訳でもなく、ローブが吹っ飛ぶと中から骸骨が見えた。
そして、それと同時にまるでエネルギーが断たれたかの様に、周囲を固めていた骸骨戦士たちも皆砕けた。
『コマンダー、敵兵団の無力化を確認。お疲れ様でした』
一度に全部が破片になるのは、なんだか気持ちがいい。
やはりあれはエネルギーというか魔力で動いていたのだろうか。
あの黒ローブもスケルトンメイジとかそんな感じの魔物なのだろうか。
しかし、ファンタジー小説に出てくるスケルトンを召喚するのってネクロマンサーとか言うやつじゃなかったかな?
ネクロマンサーって生身だったと思ったんだけど、あれってリッチとかいうアンデッドの偉いさんだったのだろうか…。
うーん、謎は深まる。
とはいえ、面倒だから次出てきたら即グレネードを打ち込んで粉砕するとしよう。
その後アンデッドは出て来なくなり、代りに小型のヒューマノイドと指揮官らしい大柄なヒューマノイドからなる三千人規模の兵団と遭遇した。
多分ゴブリンとホブゴブリンというやつなのだろうと思うのだけど。
敵部隊はこちらのヘビーメックを見るや心が折れたのか、全員がもと来た方向に全速力で逃げ出した。
これが、ある意味一番正しい反応だと思う。うん。
逃げ出した敵部隊を無理に追いかけるわけでもなく、こちらはマイペースで街道を前進するだけ。
第一目標の城塞都市迄の途中に宿場町があると聞いていたのだけど、偵察ドローンがその宿場町を発見して映像を送って来た。
砦程度の城壁を持つその宿場町は確かに規模はそれほど大きくは無いけれど、それでも千人以上は住んでいたのではないかと思える位の規模はあった。
その宿場町の中央広場の恐らく旅人向けの噴水か何かがあっただろう場所に、禍々しい代物が置かれてあった。
つまり、生贄の祭壇。
円形で何かのシンボルに似せられて作られたであろうその生贄の祭壇はどす黒く、中を見通すことは出来なかった。
恐らく、ここで殺して放り込むのか、或いは生きたまま放り込むのか、そういう類の使われ方をするだろう。
宿場町は魔族の軍勢が駐留していて、祭壇の近くには如何にもカルトの司祭っぽい装束の男が配下らしい魔族に生贄をもっと集めて来いと叫んでいるのが見えた。
既に人は居ないようだし、宿屋町ごと更地にしても問題ないかなあ?
『コマンダー、魔族の生体サンプルの確保を提案します』
『理由は?』
『遺伝子情報の取得と、一般的な人間との違いの調査。
それに、現地人が使ってくる魔法と呼ばれるものの調査も必要です』
『確かにそうね。
なら、宿屋町で良さそうな個体が居たら生け捕りにします』
『出来たら五体満足な個体をお願いします』
『わかってる』
宿屋町まで数キロの位置まで前進すると、ヘビーメックが近づいているのを察知したのか敵の動きが活発化し、砦のあちこちに守備兵が配置に就くのが見えた。
だけど、馬鹿正直に敵の射程範囲に近づいたりはしない。
『グレネードランチャー、コンカッショングレネード装填。
ブラスターカノン射撃準備、目標宿場町の城門。
次弾以降、正面敵拠点のハードポイントへ連続射撃!』
『了解しました、コマンダー』
ガンナーがブラスターカノンを操作して城門や敵の守備隊が詰めている個所に向けて光の球を撃ち込んでいく。
当たった個所は超高熱量でたちまち溶解蒸発して穴が開いていく。
そこに居た兵士達は、避ける事も悲鳴を上げる事も出来ず焼き尽くされた筈。
すると、城に籠るのを無駄だと思ったのか、守備隊が兵を繰り出して来た。
初めてみるがあれは神官戦士の類なのだろうか。
揃いの金属鎧に恐らく彼らの神の印らしい印をつけた一団だが、さっき祭壇の側で絶叫していた司祭と同系統の服を着た人物がその中心に居る。
その一団はどうやって攻撃してくるのかと思ったら、いきなり魔法攻撃をくらわして来た。
『コマンダー、エネルギー反応増大』
『エネルギーシールド展開』
『コマンダー、トランスポーターメックにそんなもの装備されて居ません』
『マジか!』
と同時に、彼らの手から光の弾が飛び出しメックに次々と直撃する。
ガンガンと派手な音が響き、まるで鉄球をぶち当てられている様な音がする。
未来の金属を使っている為、簡単には壊れない筈だけど、魔法は未知数だから。
そうこうしていたら、中央の司祭風の服を着た人物が魔法呪文を唱え終わったと同時に、ヘビーメック内に巨大なハンマーで叩いた様なデカい音が響き渡る。
当然、それだけの衝撃を食らえばいかな未来のヘビーメックであっても無事では済まない、一瞬コクピット内がブラックアウトして、数秒後復帰する。
『まずいわね、コレは』
『コマンダー、一時退避を推奨します』
『デスヨネ。
よし、敵兵団に向けてブラスターカノン三連射。
ヘビーメックは指定の地点まで後退』
私は急いでマップを表示すると手ごろな場所を見繕って座標指定する。
『ブラスターカノン連続発射します』
大きな光の弾が敵兵団に撃ち込まれ、さしもの神官戦士達も焼き尽くされ大混乱に陥る。そこに更に二発着弾したので、司祭をはじめかなりの敵戦士達が消滅した筈。
ヘビーメックは回れ右すると、一時退避の目的地に向けて移動し始めた。
これは、被害情報をきっちり調べて対策しないと、舐めてかかると事だわ。
意外と馬鹿にできなかった魔法攻撃。
シールドが装備されて居なかったのが裏目に出ました。