第二十六話 王都攻略戦 出撃準備
前進基地を設置し、まずは戦力作りから始めます。
『間もなくランディングポイント上空です、コマンダー』
AIの音声に私はVR空間で目を覚ました。
時間を確認すると、出発から四時間経過。
「予定通りね」
『はい、問題ありません。
予定通りです、コマンダー』
私はVR空間を作戦室へと切り替える。
作戦室にはスキャンデータを基に作成された、王都を中心とした作戦域の地形が立体描写された巨大な作戦テーブルが設置されている。
作戦テーブルは、フルスケールウォーでもなければ必要ないから使わないのだけれど、今回は大規模な部隊を動かすからね。
まずは、敵の最新の配置を確認。
作戦テーブルに表示される敵の位置情報は、以前見た様なスチルではなく、未来位置を計算により割り出している位置情報で、同時にリアルタイム情報で補完しながら表示され続けているから、現在の敵の行軍の様子が表示されている。
さながら、リアルタイムストラテジーゲームの様にも見える作戦テーブルの表示を見ると、敵軍の殆どが王都に集結しているのでは、と思える程に敵軍は集まっているみたいね。
とはいえ、まだ王都に到着していない敵の軍団も結構あって、すべてが到着して王都前面の主戦場に展開するにはあと数日を要するだろう事が、今のデータを基に割り出した未来予測。
既に到着した敵部隊は王都の前面の、おそらく各部隊に割り当てられた場所に陣を敷いて野営している様子で、敵軍の規模どおり、様々な形と色とりどりの天幕が数えきれないほど並んでいて、この辺りでもいろんな国、いろんな民族からなっている軍勢だという事が良くわかる。
幸い、こちらの到着を察知した様子はなさそうで、弛緩しているとまでは言わないけれど、臨戦態勢というわけでもなく、食事の配給の列が見える部隊があれば、天幕ごとに無数の炊事の煙をたなびかせているところもある。
王都の内部にも当然ながら敵軍が居るけれど、この部隊が元々ここを守備していた駐留部隊なのかどうかまではわからない。
それに、王都に駐留する敵軍は以前のように生ける死体の群れというわけではなく、普通に生きている人間の兵士達の様に見えるので、ちょっと安心した。
もうね、死体の群れを相手にするのはうんざりなのです。
さて、敵の配置は大体把握できたから、こちらも準備しないとね。
「ランディングポイントに予定通り降下させて」
『了解しました、コマンダー』
私はVR空間から意識を戻すと、ドロップシップのカメラへと切り替えた。
途端にコマンドシートの周りが透明になって、私は宙に浮いている様な状態になったので、ドロップシップに懸架されたランドシップとヘビーメックが前進基地予定地点に降下していく様子がよく見える。
ちなみに、私が乗っているのはランドシップを懸架している機体。
特に問題もなくランドシップと三機のヘビーメックを予定地点に降ろすと、ドロップシップは基地へと一先ず帰投していく。
私はというと、ランドシップを降ろしたときにドロップシップからランドシップへと飛び移って一緒に降り立った。
このバシリスク級ランドシップは百メートル近い全長を持ち、突起物などは特に無い直方体をしていて、平べったく地を這う様なデザインだ。
平べったい直方体と言っても、細長いフォルムが多い水上艦艇と異なり、その横幅は四十メートルを超え、しかも高さは十五メートルに達する。
高さだけで言えば五階建てのビルに相当するので、地上から見たら圧倒される事請け合いだ。
飾りっ気が何も無い武骨なデザインだけど、強力なシールドと武装を搭載し、更には各種ドローンの運用能力を備えた自走基地としての機能を持つ。長期間の運用実績に裏打ちされた優れたランドシップだと思う。
とはいえ、フルスケールウォーの規模だと、これでも小型の部類。
私はランドシップの前方へと歩いて行くとデッキに設けられたハッチからコマンダールームへと入った。
この艦にも、乗組員が操艦するためのちゃんとしたブリッジがあるのだけれど、コマンダーがAIのフルサポートを受けて運用する場合、通常はコマンダールームを使う。
このコマンダールームは〝ルーム〟と名前は付いているけれど、実のところ脱出ポッドの様なカプセルになっていて、実際に脱出カプセルとしても機能する。
艦が深刻なダメージを受け緊急脱出が必要な場合、コマンダールームが脱出カプセルとなって艦から打ち出される構造になっていて、一度衛星軌道まで到達した後、適正な脱出ポイントに再突入することができるの。
勿論、そのままスリープ状態になって救助を待つなんてこともできるけれど、幸い私はその経験は無い。
このコマンダールームは艦のシステムそのものと直結されている。だからコマンダールームは、コマンダーがここから艦のシステムに接続すると、高性能AIを内蔵しているコマンダーが艦のセントラルAIとなり、一方艦に搭載されているAIをサブシステムとして機能させる為のコアになる。
簡単に言えば、私が艦を手足として使う為の頭脳になるって事。
だから、この攻略戦が終わるまで私がこのカプセルの中から動くことは無く、ここで全ての戦力をコントロールしてフルスケールウォーを戦うと言うわけ。
これは、合理性を追求した企業の軍隊が行き着いた戦争の仕方で、コマンダーが一人だけ戦地に送り込まれ、その一人がロボット等を駆使して戦争をするのが現在の企業軍では当たり前になっている。
勿論、企業によってはそうでないところもあるし、植民星の軍等は昔と変わらず生身の兵士が戦っているところも当たり前にある。
しかし、企業同士の戦争ではコマンダー同士が戦い、純粋にその戦力と戦術をぶつけ合う。その結果、どちらかのコマンダーが撤退するか消滅するまで戦いは続く。とはいえ、殆どの場合コマンダーを失う前に上層部同士で手打ちにするから、何方かが消滅するまで戦うことなんて極めて稀。
だけど、コマンダーが植民地軍や反乱勢力などの生身の兵士を相手とする非対称戦は、相手の兵士からすれば悪夢以外の何物でもないとも思う。子供の頃に見た、未来から殺人ロボットがやってくる映画、あの映画の未来の世界そのままに、血の通わない無数の機械の兵士相手に終ることのない戦闘を続ける事になるのだから・・・。
私は仕事だから、任務として割り切って戦うけれど、正直なところ相手方に早く降伏してほしい、と思わない時は無かったよ。
それは兎も角、コマンダーは単独でもかなりの戦力になるのに、今回はカプセルの中に閉じ籠って戦わなくても良いのか、というと、勿論そんなことはない。
こんな場合、本体ほど高機能ではないのだけれど、個体戦力としては同等の能力を持つ別の体を使うことになる。
つまり、私の機能限定版コピー体を使って前線で指揮を取るということで、これによりコレまでと同じ様に、私自身が戦力として前線で戦うことができる。
やはり私自身が前線に居ないと、なにしろこの世界には〝魔法〟という未だ未知の力があり、今回は汎用ボットより強力な戦闘用ボットを投入するとはいえ、それらが敵の将クラスにはまるで歯が立たない可能性は想定しておかないとね。
だから私も、今回は最初からパワードスーツを着ていく。
キネティック武器が使えるようになったし、敵の将が複数いる以上、現時点で使える戦力を出し惜しみするつもりは無い。
私自身の準備はこんな感じだな。次は主戦力の準備をしないとね。
「ファウンドリーヘビーメック展開」
『了解しました、コマンダー』
私達が到着した場所でファウンドリーヘビーメックが工場として機能するための展開が始まり、程なくして完了する。
「よし、と。
ではバトルボットの量産開始。
数は一先ず1万5千」
『了解しました、コマンダー』
Tier3バトルボットは、その名の通り戦闘に特化したボット兵士で、私が所属する企業軍の中核戦力とも言え、Tier3のファウンドリーヘビーメック、或いはTier3のボット工場があれば大量生産が可能。
正に、昔の将軍の言葉らしい『戦は数』を実現することが出来る。
それにバトルボットは、汎用ボットの持つ多様性機能から戦闘に無駄な部分を排除し、逆に戦闘で重視される部分は強化されているので、そのフォルムは汎用ボットの、よく言えば繊細、悪く言えば頼りの無いひょろいフォルムとは違い、一言で言えばスパルタンで強そうに見える。
バトルボットの身長は約二メートルで、使用されているフレームはミリタリーグレードの強靭な物で、その膂力と耐衝撃性は汎用ボットの三倍以上あり、汎用ボットでは運用が不可能なキネティック系の兵器を使うことが出来る。
キネティック系の兵器は、威力もさることながら、射撃時の反動と衝撃にかなりの物があるからね。
そして白兵戦能力も優れていて、標準装備ともいえるビームソードを使用する事も出来るが、物理攻撃が可能な剣や斧などの武器も使うことが出来る。
用途によってはビームソードより、金属の塊である剣や斧の方が有効な場合も割とあるので、この手の装備が使えるのは心強い。
多分、この世界の人達との能力比較で言えば、汎用ボットは単体で武装も無い状態だと、一般人よりは強いが、訓練された兵士相手だとスクラップにされる場合が多い筈。
しかしバトルボットの能力なら、恐らく騎士相当の能力があると見込んでいるんだけど、正直どの程度戦えるかはやってみないとわからない。
幸いなことに、敵に無い我が軍の強みは、無尽蔵に戦力を繰り出し続けることが可能なことにある。
勿論、敵の能力がこちらの想定を大きく上回り、こちらの戦力は全く歯が立たなかった、なんてことが起こると、流石に尻尾撒いて逃げて仕切りなおすしかないのだけど。
これ迄の戦闘データから考えればそこまでの戦力差は無い筈…。
現在ファウンドリー内部では、3Dマッピング技術をフル活用した完全自動工場がバトルボットを続々と作り出していて、それがロット単位で工場から出てくる。
そして、配備されたバトルボットはファウンドリーのアーモリーから装備を受け取ってそれぞれに割り当てられた位置へと整列していくのが見える。
「バトルボットが揃うまでの時間はどの位?」
『七時間ほどで全てのバトルボットの準備が揃います、コマンダー』
「わかった。
後は、対地支援用にTier3戦闘用ドローンを八機生産して」
『了解しました、コマンダー』
戦闘用ドローンは、10m程の大きさの対地支援能力に長けた戦闘用のドローンで、何故八機かというとランドシップが同時に生産し、そして整備運用できる機数が八機だから。
ランドシップの装備とバトルボット、それにこの戦闘用ドローンで一先ず今回の王都攻略戦を戦う予定。
あとは戦況を見て、メックとか色々追加するつもり。
まずは一当てする戦力が整いました。




