第二十五話 王都攻略戦 序章
束の間の休暇を楽しんでいた主人公は王都攻略へ向けて出撃します。
「私達、ズッ友だよ」
親友だった彼女と遊びに行った高校生の時の、あの楽しかった日の夢をたまに見る。
再び目を覚まして以来まともな思い出もない私にとっては、あの高校生の頃の記憶は輝いていて、だから見る夢があの頃の事が殆どというのも、致し方ないのかもしれない。
軍務での出来事は、思い出というよりは記録でしかないような気がする。
そもそも、この身体になってから忘れるという事が基本的には無い。
意図的に、例えば軍務であった特定の出来事などを意識の外に追いやる事は可能だが、必要があればいつだってそれを鮮明に思い出すことが出来る。何なら、映像として表示する事だってできる。
ただ、それらはあくまでデータベースに記録されている五感を伴った情報に過ぎず、生身の身体であったときの記憶、いや思い出とは全く異なるものの様な気がする。
しかしある意味、それは既に長期間この身体で軍務活動してきた私の精神を護っているのかもしれないけれど。
なにしろ、どれだけ過酷で吐き気を催す様な凄惨な任務の現場に居合わせたとしても、それをトラウマとすることも無ければPTSDを発症したりすることも無いのだから。
全ての出来事は適切に処理され、適切に記録される。ただそれだけだ。
もしかすれば、軍務から離れて一般人として普通に暮らし出せば、以前の様に普通に思い出を積み重ねていけるのかもしれないけれど。
『準備が整いました、コマンダー』
「ん、わかった」
AIから声を掛けられて、ふっと現実に意識を戻した。
「さてと」
私はコマンドセンターを後にすると、基地内に設置した駐機場へと足を運んだ。
拡張を続けるこの基地は流石に大掛かりになってきていて、基地の外れの方にある駐機場まで基地内の道路を暫く歩いていくのだが、施設が立ち並ぶこの道路は、未来世界の街の通りにも見える。
最も、この街で忙しく動いてるのは、資源回収ドローンであるギャザリングマシンであったり、基地建設に従事するビルダーボットだったり、あるいは人型の汎用ボットだったりと、人は誰も居ないのだけれど。
そんな施設群を通り抜け、広い駐機スペースへとやってきた。
既に生産が終了した大型のドロップシップが四機羽を休めており、更にその向こうにはビルのように聳えるファウンダリーヘビーメック、そして中央には全長百メートルにも達するランドシップがその存在感を示している。
こう並ぶとなかなか壮観だね。
私は早速とドロップシップの一機に乗り込む。
このクラスのドロップシップになると、飛行機の様な操縦席があってその周りに計器が並んでいるといったコックピットではなく、さながら船のブリッジルームの様な、かなりの広さがある。
人が搭乗して操縦することはもちろんできるけれど、全てAIに任せて飛ばすこともできるから、この広さのブリッジルームは無駄といえば無駄なのだけれど、このブリッジルームは既製品をそのまま作って使ってるから、この広さは標準的なドロップシップの仕様になっていると言うわけ。
もし、既製品をそのまま使わずにカスタム仕様にした場合、何かあった場合は当然自分の責任になるし、何よりカスタマイズをするには知識とセンス、そしてかなりの時間が必要。
知識とは、データベースに存在するだけでは何にも活用することは出来ないからね。
私はコマンドシートに身を沈めると、VR空間にあるコマンドセンターへと意識を移す。
そして、今回生産したすべてのユニットをリンクさせると、衛星がスキャンした地形情報を元に選定しておいた前進基地に最適な場所への移動指示を出した。
後はAIが適切にメックやランドシップを吊り下げて目的地へと運んでくれる。
移動には半日ほど掛かるので、私はそのままVR空間に意識を移したまま、仮眠を取ることにした。
到着したら忙しくなるからね。
ランドシップは大型ですがドロップシップも大型なので一機で運べます。




