第二十四話 インターバルタイム 後編
インターバルタイムの後編。星の全貌が見えてきました。
ここは遠い昔の再現世界。しかし私にとって止まったままの私の時間。あの楽しくも平凡だった高校時代の街並みを散策する。
過去に生きていた時間より、長いコールドスリープから目覚めた未来世界で生きている時間の方が遥かに長いのに、未だ未来世界には馴染めないでいる自分がいる。
多分、私のオーナーである企業の軍以外の世界を知らないという事も有るのかもしれない。任務に次ぐ任務の中、インターバルの休暇がある事はあるけれど、知り合いも無くいきなり放り込まれた未来の街並みに思い入れや馴染みがある訳もなく、結局はこのVR空間に再現された私の高校時代の街並みで過ごしてしまう。
何故なら、忠実に再現されたこの仮想世界は、私の知って居るもので満たされているから。
それでも自分の所有権を取り戻した後は、この未来世界を旅して回ろうと考えている。
だって、本当の家族の待つ我が家にもう戻れない以上、この世界で生きていくしかないから。
でも、今となっては無事に元の世界に帰りつけたなら、という話になっているけれど。
『コマンダー、3Dマッピング完了しました。この星の3Dマップシステムにアクセス可能です』
物思いに耽っていた私の頭の中にAIの声が聞こえて私を現実に引き戻した。
「了解」
私は早速と3Dマップを開く。
見慣れた高校時代の私の部屋が、途端にこの星の3D画像である球体が浮かぶ無機質な部屋に切り替わる。
「さてと…」
この星は、予想した通り地球型の気候を持つ青い海と幾つかの大陸から構成された星だった。
私が今いる大陸は、地球のオーストラリア大陸を縦にした様な形に似ているが、その大きさはオーストラリア大陸より一回り小さい。
この大陸が位置するのは北半球で、特徴としてはやはり大陸中央に山岳地帯を幾つも含む広大な森林地帯が広がっていて、森は考えていたよりずっと広大だけれど、これが多分〝黒の森〟なんだろうね。
王国のある東部は肥沃そうな平野部が広がり、逆に西部は丘陵地帯や山岳地帯が多く東部に比べれば明らかに平野部が少ない。
そして、大陸の北部は緯度が高いこともあって寒冷地帯となっていて、大陸の南部は険しい山脈地帯が連なり火山地帯もある。
大体は、王国の大臣やリアナから聞いた情報通りという感じ。
でも大陸の周辺の気象状態を見た限り、常に嵐が吹き荒れている様な場所は無く、国王が話してくれた王家に伝わる歴史が本当ならば、たまたま天候の恵まれない状況が続いた時期があったのか、それとも何らかの気象操作を受けていたのか。
何となく後者な気がする。
この星にはこの大陸の他にも大陸が幾つかあり、中には人が住むこの大陸よりはるかに大きな大陸があるけれど、そのどの大陸ともこの大陸はずいぶん離れた位置にあり、外洋航海技術が発達しなければお互いの交流は難しいかもしれない。
これらの大陸の中の、どの大陸から王国の人達はこの大陸に移り住んできたのかな?
それは兎も角。
私はくるくると地球儀を回すようにこの星全体を見ていた手を止めて、再びこの大陸にフォーカスを戻した。
そして、この大陸の王国をタッチするとその部分が浮き上がり拡大表示される。
この3Dマップでは、リアルタイムにその部分の上空からの映像が見える訳では無く、その場所を衛星でスキャンした時の情報しかわからないのだけど、森のこちら側を見る限り、そこにあるのは破壊の痕跡ばかり。
完全に壊され更地にされたようなところは無いから、パッと見た感じだと普通に村や都市がそこに存在しているのが見える。でも、更に拡大してみれば、一つとして無事な所は無かった。
そして、意外なことに他の国にはもはや魔族の軍を確認することは出来ず、かといって生存者の痕跡も無く、魔族の軍は全て王国に居るか、王国に向かっていた。
そう、次の決戦の地となるだろう王国の王都へと彼処から移動している魔族の集団がスキャンデータに写り込んでいた。
その軍勢の規模はこれ迄とは比較にならず、恐らくこれらが全て王都に集結したら、万どころか十万にも届きそうな勢いだった。
この大部隊と王都の周囲に広がる広大な平原で戦うとなると、もはや完全なフルスケールウォーの準備をしなければならないだろうね。
「Tier3コマンドランドシップ、Tier3ファウンドリーヘビーメックを三機、そしてTier3ドロップシップを四機。
これだけ持っていくから生産よろしく」
『了解しました、コマンダー』
コマンドランドシップは正式には「CLS-60 バシリスク級」という前進基地の様な機能を持つホバー推進のランドシップで、全長は百メートル近くあり、Tier2コマンドメックに搭載されていた様な指揮支援機能や火力支援機能は勿論の事、Tier3ビルダー君やヘビーメックも生産可能なファウンドリー機能があり、Tier2ドロップシップやTier3戦闘用ドローンを運用可能な母艦機能をも併せ持つ優れもの。
そして、ファウンドリーヘビーメックは、ファウンドリーメックと同じく箱型の移動工場で、出先で戦闘ボットを大量生産するのにぴったりの性能を持つ。
このコマンドランドシップとファウンドリーヘビーメックを前進基地として、良さそうな場所に送り込んで攻略部隊を作り出してから王都攻略に向かう、といういつものやり方で攻めるつもり。
さてと、生産完了するまで、中断した休暇の続きを満喫するとしよう。
後は待つだけ。




