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第二十話 異種族 後編

覇王の顛末が語られます。





「実は、今の覇王はこれ迄と異なり、異質なのです…」



「異質?」


「はい…」


異質って言われてもねぇ…。

そもそも〝普通〟がどんなものかも知らないし。


「どんな風に?」


私の表情から何を読み取ったのかわからないけれど、リアナは視線を落とすと語り出した。


「王国の人達から、私達が一括りに〝魔族〟と呼ばれている事は話したと思います」


「そうね」


「森のこちら側、王国の住人は全員が人族で王家を中心に国が形作られて居ます。

 今迄にも複数の王国がありましたが、その全ては人がこの大陸に移り住んで来て最初に作った街から成立した王国が発祥です。

 ですから、彼らは同じ一つの神を信奉する同じ文化を持つのです。

 

 しかしながら、森や森の向こう側には様々な種族が昔から住んでいました。

 それぞれの種族が、種族特有の様々な文化を持ち、様々な神を信奉しています。


 例えば私達黒の森のエルフは生命の樹に宿る精霊を信奉し、生命の樹の下で部族社会を作り暮らしていますし、あなたが見かけたゴブリン達は彼らの神である豊穣の神を信奉し、森の外縁部で国を形成する事なく氏族毎に村落を作り、田畑を耕し家畜を飼って暮らしています」


『我々の言う所の〝ゴブリン〟は彼らの言葉には無いのか、リアナは別の呼び方をして居ます』


『多分、イメージ的にはゴブリンなんだろうね。

 面倒だからもうゴブリンで良いんだけど』



「ゴブリンって、他の種族を襲って生きてるんじゃないの?」


「王国ではそういうイメージがあるかもしれません。


 何故なら彼らの寿命は人族の半分程度と短いのですが多産で数が多く、また強い者には従う倣いがあるので、より力のある者から戦士を求められたときは多くの戦士を送り出します。

 その為、森のあちら側の遠征軍を構成する種族の中では一番数が多く、しかも最前線で戦うので…。

  

 ですが、普段の彼らは好戦的に自分達から他者を攻撃するような事もなく、他種族の商隊と交易をしながら農耕牧畜をする普通の農民として、村落で一生を終える場合が殆どだと思います」


『我々のファンタジー作品のイメージとは全く違うね』


『そうですね、データベースの文献からだと小人族に近いでしょうか』


「なるほど…」


「同じ様に、森のあちら側の人族はこちら側の王国とは異なる部分もありますが、古くからの血筋を継ぐ王家に連なる家を中心に大小幾つかの王国を建国して暮らしていますし、その人族の王国に人族以外の種族が暮らす事は普通にあります」


『こちらの方がファンタジーの王国っぽいわね』


『そうですね。データベースの文献からも似た国を幾つも見つけることが出来ます』


私が頷き続きを促すと、リアナは話を続ける。


「森のこちら側の王国では〝魔族〟と聞けば恐ろしい邪悪な存在であると思われて居ますが、実際はこちら側の王国の人々と何ら変わる事はありません。


 中には他種族を食用とする様な種族が存在する事は存在しますが、その様な危険な種族は当たり前ですが狩られ追い立てられ、今ではごく少数の生き残りが辺境で細々と原始的な暮らしをしているに過ぎません。


 こちら側と同じ様に、勢力争いとしての小競り合いやそれが小規模な戦争に発展する事はありますが、殆どは痛み分けで最後は話し合いで終わります。

 野心的な王が立ち領土拡張の為の戦争を始めない限り、村や街が幾つも焼かれ大勢が死ぬ様な大規模な戦争が起きる事はありません。

 それに、その場合でも住人や特定の種族を根絶やしにする様な事はしません。

 征服すればその人たちは新たな国民になるのですから当たり前ですが…」


「それはそうでしょうね」


『善悪は立場や見る方向で入れ替わるからね』


『我々の世界でも、過去には自分たちの宗教と異なるという理由で他の宗教を邪悪な宗教だと排斥した事例は多数あります』


『うんざりするほどね…。カルトは勘弁だけど』


『同意します』



「それで、今の覇王はどんな風に異質なの?」


「これ迄の覇王は、力と交渉で全てを従えていました。

 その過程で滅ぼされた国は勿論ありましたが、そこの民に至るまで根絶やしになった例はありません。

 街や村が戦乱の中で見せしめに皆殺しにされた事はあったと聞きますが、国レベルでは私が知る限りでは聞いた事がありません。

 

 ですが、今代の覇王は〝力と恐怖〟で全てを飲み込み、森のあちら側の平定を果したのです」


「力と…恐怖?」


「今代の覇王は人族の王国の王家に長男として生まれましたが、身分が低い母親から生まれた為、継承権の無い庶長子だったと聞きます。


 王家の血筋の者は、高い魔力を持ち優れた魔術の素養を持つ事が多く、国王になれなくとも魔術師として活躍する者が少なくないのです。

 

 今代の覇王は幼い頃より頭が良く武勇にも優れ、そればかりか生まれながらに高い魔力を持ち、魔術にも高い素養を示し、将来は軍人や魔術師としての活躍を期待されて居たそうです」

「元々は国王ではなかったの?」


「いえ…。


 ここから話す事は私が伝え聞いた話しで、真実と異なる部分もあるかもしれませんが…。

 

 継承権の無い庶子であった覇王が王位に就いたその日から、覇王の覇道の歩みが始まったと言われて居ます。

 

 継承権を持つ嫡流の弟達は、庶子である兄を超える程の才を示すものは居なかったそうです。

 

 継承権の無い優れた庶流の長兄と、継承権はあるが優れた所の無い嫡流の弟達。


 ですが、同じ国王の子でも継承権のある王子と、継承権の無い庶子では明らかに処遇が異なりますし、正妻たる王妃の持つ権力に対し側室ですらない妾の権力など無いに等しく、その待遇は奥向きを采配する王妃の気分次第。


 庶長子ですが幼少より優れた資質を示していた覇王は、継承権こそないものの次代の王国を担う一人として父たる国王にも将来を期待されて居たのです。


 ところが、それが良くなかったのでしょう。

 王妃は覇王に王位をとられるのではないかと不安になり、妬むようになりました。

 そして、覇王を産んだ母親への処遇が次第に劣悪になっていき、最後は後宮から追い出されて離宮とは名ばかりの粗末な屋敷に押し込められたとか。

 

 国王は、愛妾でもあった覇王の母親の処遇に心を痛めていたそうですが、有力貴族出身の王妃に対して強く出る事も出来ず、結局はそれが元で気を病んでしまい、病の床に臥してしまいました。

 

 その頃には覇王も遠ざけられ、母親と共に暮らす離宮の一室で魔術の研究に没頭していたとも言われて居ます。

 

 それから数年後、病に臥せていた国王が崩御しました。

 

 その国王崩御の日、奇しくも覇王の母が暮らす離宮が火事になり、全焼。焼け跡からは使用人の遺体の他、その頃には健康を害していたとも言われている覇王の母の遺体が発見されたそうです。

 

 偶々覇王はその日出かけていて無事だったのですが、母の遺体を前に狂ったともいわれて居ます。

 

 その後、覇王は新たな王位に就く王子を選ぶ為の権力争いをしている真っ最中の王宮へと乗り込みましたが、そこでどんなやり取りがあったのかははっきりしません。

 

 わかっている事は、覇王は血縁者たる弟達を全員その手に掛けると彼らを生贄にして異なる世界から神を降ろしたそうです。更にはその神に、その日王宮に居た王妃や貴族など全員を生贄として捧げ、それにより人ならざる力を神から与えられ、自ら王位に就いたのです」

 


カルト臭の漂うそのうんざりする様な話をリアナから聞かされ、思わず深いため息をついてしまった。


『何となく予感はしてたけど…、カルトの相手はうんざりだよ、もう…。

 しかも、覇王って相当厄介そうだよね』


『お察しします』


「確かに異質だね…」


リアナは頷くと話を続ける。


「覇王はこの世界の神々では無く、異世界の神とつながっています。

 その神は、生贄を捧げる者には見返りとして人ならざる力を与えるのです。

 

 つまり覇王は、征服した国の国民や捕虜を生贄として異世界の神に捧げ、覇王の腹心らに力を…」

 

「ガルノフもそうだったの?」


「いいえ。私が知る限りガルノフは違うはずです。

 ですが、あなたが倒したグロルクは生贄によって力を与えられ、闇司祭となった者です。

 他に誰が力を与えられたのかまでは知りません…」


「そうだったの…。

 だけど、それだけ人を殺してしまうと、国が維持できなくなってしまうのでは?」


「ええ、ですから覇王の軍勢と戦った国もありましたが、その力とやり方に恐怖して戦わずに降伏した国が多いのです。

 覇王に逆らった国の国民は、運よく逃げ延びた者以外はすべて生贄にされました。

 ですが、戦わずに降伏した者達に関しては覇王は降伏を受け入れ、生贄にはしませんでした。

 結局、有力な国が消滅するとすべての国や種族が覇王に降伏し、覇王は森のあちら側の平定を果したのです」


「だから、〝力と恐怖〟で平定したと」



「はい。

 森のあちら側の平定に成功した覇王が、失地回復の為の軍を起こすのは半ば使命の様なもの。

 今代の覇王も同じく、こちら側を奪還する為の軍を起こすと、失地回復の為の戦争を始めました。

 しかしこれ迄の覇王と異なり、その目的は失地回復だけでなく、新たな生贄の確保の為の戦争でもあったのです。

 

 もっとも、私がそれに気が付いたのは、覇王の軍勢に捕えられた後ですが…」


「という事はやっぱり、城塞の向こうまで逃げ延びた、今生き残って居る王国の民以外はもう誰も残っていないと…」


「はい。恐らくは、捕らえられた民の殆どは生贄にされたのでしょう。

 或いは死人使いの忌まわしい実験材料にされたり、傀儡とされた者も居ると聞いたことがあります」


「それは見て来たよ…」


「そうでしたか…」


「ありがとう。

 一先ず、聞きたかったことは大体聞けたと思う」


「はい…」


「あなたの身柄は王国に預けることになると思う」


「…わかりました」


『王国からすれば憎悪の対象だろうけど、連れて行くわけにもいかないからね』


『そうですね。基地内に収容施設を設置して保護するのは、現実的ではありません』


『彼女の護送もあるから、ドロップシップで一度国王の所に戻って報告してくる』


『了解しました、コマンダー』




 

 

 

 

 

これで敵側の事情もある程度把握し、一度国王の下へと戻ります。

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