第二話 国王との謁見、そして敵将との対決
主人公は動き出します。
「それで思ったのでございます。
あなたこそ、私達を救ってくださるお方。
勇者様であると」
ハイパードライブでのジャンプ中、原因不明の外的干渉によりこの星に墜とされたわけだけど…。
どうしてこうなった…。
『私の船はどうなったの?』
『大気圏突入時に五つに分裂し、そのうち二つは燃え尽き、残りの三つがこの星に落下しました』
『三つの落下位置は把握しているの?』
『一番近くに落ちた物以外は捕捉できませんでした』
『いずれにせよ、先ずは一番近い場所に行かなければならないか』
『回収を推奨いたします』
『わかった』
「勇者様?」
目の前の老人が怪訝そうな表情で私に声をかけてくる。
「あぁ、ごめんなさい。
まだ来たばかりで少し混乱気味で…」
「それはそうでしょう。
一先ず、我が国の城へとおいでいただけませんか」
老人の申し出に軽くため息。
「…それは構わないけれど、まだ会ったばかりで素性の知れない者を、信用して城に連れて行って大丈夫なの?」
老人は微妙な表情を浮かべ諦めの表情で薄く微笑む。
「我らはもはや風前の灯なのです。
魔族は我らに容赦しません。城が落ちれば人は皆殺しです。
だから、戦える者は城を枕に討ち死にするまで戦い、戦えぬ者は自害するまでです。
魔族は我らを捕えれば、必ず彼らの信奉する邪神の生贄にするのです。
邪神の生贄にされたら、邪神に魂を食われて永遠の地獄の苦しみを味わうのです。そんな目に遭う位なら自ら死んだほうがましなのです…」
ふーん、カルトか…。また厄介な。
これまでに任務でカルト教団を鎮圧したことがあるけど、彼らに常識は一切通じず交渉も不可能。
結局星ごと処理するしか無かった。
「なるほど…。
わかりました、では一緒に行きます」
この星から脱出して地球へ帰還するには、この星の人たちの協力が必要だろうし。
これから行く城は、私が落ちた場所から山を越え林を抜け麓の村で一泊し、村に預けてある馬車に乗り換え更に半日ほど揺られれば、遠くに目的地の城である城塞都市が見えてくるそうだ。
『ところで、なんで彼らと言葉が通じているのかな?
まさか、標準語をしゃべってるなんて事はないよね?』
もしそうなら、ここは何処かの植民星系の植民惑星の一つという事なので話が早いんだけど。
しかし、ファンタジーを地でやってるような植民惑星はレジャー用に開発した星くらいしか聞いたことが無い、そういうところはあくまでロールプレイとして表向きそうやってるだけで、一皮めくれば普通に暮らしてるものだ。
『彼らは標準語は話していません』
『なら、どうして私は彼らの言葉がわかるの?』
『メインシステムに干渉を受けた可能性があります』
『メインシステムに干渉ってどうやって。
それこそハイパースペース飛んでる船に干渉すようなものよね』
私をサポートするAIやデータベースのコアが収められているのは、私のハイパースペースに構築されたVR空間。
何らかの形でバックドアでも作られたりしない限りは外部からの侵入は不可能の筈。
それこそ、夢に介入するような話だからだ。
ある天才が夢の世界に関する研究でブレークスルーとなる発明と発見をする迄は、人類には夢のメカニズムは不明でコントロール不可能なものだった。
しかし、人の夢の舞台が一種のハイパースペースにある事を発見したその天才は、そこに自在にアクセス可能なOSを開発したのだ。
その結果、人類は好きな時に夢の世界やそこに構築されたVR空間にアクセスが可能になったのだ。
しかし、OSの導入初期に発生した夢の世界から帰ってこない人が続出する事態への対策で、現在はOSに厳重なアクセス制限が設けられ、殆どの一般人は市販のAIがセットになったコアを決められた手順で導入する事が許可されているだけで、それ迄とほとんど変わらない。
夢の世界へのアクセス技術が開発されても結局人は夢を見るし、夢を完全なコントロール下に置く事は出来なかった。
「夢の世界」というパーソナルなハイパースペースは広大で、その一部を利用してVR空間を構築して利用しているに過ぎない。
だが、軍の関係者でも上位の者にはアクセス制限の無い特別なOSがインストールされており、更に広大なVR空間を利用することが出来る。そこには特別な軍用AIや戦争遂行に必要な様々な設備や情報が収められたデータベースが置かれているという訳。
『タイミング的にハイパースペースで干渉を受けた時に同時に干渉を受けた可能性があります』
『つまり、ハイパースペースで干渉してきた何者かがここに私を連れてきた可能性が高いと…』
『その可能性は排除されません』
『このファンタジーな星のこの国の人たちを助けるためにわざわざハイパースペースを跳んでいる異星人に干渉して拉致するかね…。
まるで、昔風に言えば神。今風に言えば高次元知性体に干渉を受けたみたい』
高次元知性体の存在の可能性は、学術的に指摘はされているものの確認はされておらず、しかしその存在を否定はされていない。
『その可能性も排除されません』
『ま、いい。
私をここに拉致してきた目的が彼らの救助なら、それを果たせば何か見えるでしょう。
どちらにせよ、この星での資源の勝手な利用はプロトコルによって禁止されている。
彼らの責任者から許可を得れば、彼らの領域での資源利用ができる』
山を越え、林を抜け集落で一泊することになった。
ささやかな歓待があったが、本当に質素だった。
しかし、これがこの集落の精一杯なんだろう。
村人の表情は皆暗く、若い男たちは村にはいなかった。
聞けば、国を守るために城へ行ったまま、まだ帰ってきていないそうな。
魔族の恐ろしさはこの地域に住む者共通の恐怖であり、若者達を兵として送らないという選択肢は無いそうだ。
城に行けば最低限武器を持たせてもらって訓練も受けられる。
しかし、村に残ったところで村には大した武器もなく抵抗する術もない。
城が落ちれば村が悲惨な目に遭うのは時間の問題なのだ。
村長の嘆きは歓待の場を暗くしてしまう。
だが、嘆かずには居られないのだろう。
迎えに来た老人や鎧を着たおじさん達も皆項垂れてしまった。
翌日早朝、馬車に乗り込むと村を後にする。
道中、老人から色々な話を聞くことができた。
この老人は城の神官の偉い人らしい。
神を讃え、神の教えを伝え民を導く。
それが仕事だそうだ。
この国で祀られている神の教えというのも少し聞いたけど、隣人と平和に生きていくための教訓みたいな感じの教えだった。
しかし、本当にこの国に危機が訪れた時、過去にも神が召喚した勇者に救われたという伝説が残っているそうだ。
だからこそ、神に救いを求めるのは魔族に攻められた今とばかりに、懸命に神に祈り救済を願ったのだ、と。
そう話していた。
そして、拉致されてきたのが私というわけだな。
なんともはた迷惑な神だ。
この国の王は既に高齢で、英君ではないが慈悲深い良き王で民にも慕われているらしい。
後継者に王子が居たが、騎士団を率いて出撃し魔族と戦ったが、善戦空しく戦死したそうだ。
王子は聡明で武勇にも優れ将来を嘱望されていたらしく、討ち死にの報が届いたとき、あまりの衝撃に王は暫く口が聞けず、国民は悲嘆にくれた。
今王族に残されているのは姫が一人だけだそうな。
古い時代に主要街道が走る峡谷に城塞都市として建てられた城は堅牢で、この城を抜かないと地形の関係でこの国の侵攻は困難らしい。
それで、今現在は城に籠り辛うじて敵の侵攻を凌いでいる状態だけど、力尽きるのも時間の問題だ、と老人は悲しそうに話してくれた。
やがて街道の向こうに大きな城壁を持つ城塞都市が見えて来た。
確かに、城壁は高くいかにも堅牢そうで、その城壁を抜くのは容易ではないだろう。
城へ到着すると、事前に早馬で到着を知らせてあったのか、早速と謁見の間へと案内された。
謁見の間に入ると既に国王が待っていた。
国王は私の姿を見るなり玉座を下りて近づてきて、私の両手を手に取る。
「勇者よ、よくぞ参られた」
聞いていた話通り、国王は高齢で豊かな髭も髪も真っ白で、まるでサンタクロースの様な風貌でいかにも慈悲深い国王、という感じの好々爺といった風。
「私が勇者かどうかはわかりませんが、神官殿から窮状は聞きました」
「勇者様に既に事情は説明いたしました、陛下」
「うむ、聞いての通りこの国はもはや風前の灯火。
堅牢な城壁も連日の城攻めで破損した個所も多く、修復もままならない。
どうぞ、こちらへ」
国王に案内され、謁見の間から城の一角へと移動した。
そこは城の反対側が一望できる楼閣で、随分向こうまでが一望できた。
確かに、城の正面には敵の陣地が連なっており、城壁の前には破壊された攻城兵器の残骸が遺棄されていた。
城壁には既に崩れた部分が幾つもあり、城壁を突破されるのは時間の問題に見えた。
「あれなるは魔族の陣地。
あそこに、城攻めを任された敵将のガルノフがおります」
望遠モードで敵の陣地を見ると確かにひときわ大きなテントがあり、如何にもといった風の旗印が見えた。
私は頷いて見せると、国王が話を続ける。
「明日にもまた攻めてきましょう。
攻勢は日に日に強まり、もう明日はこの城壁は持ちこたえる事が出来ないかもしれませぬ。
勇者様、何卒我が国をお救いください」
「わかりました。
貴国の依頼を請けましょう。
但し、報酬としてこの国で自由に資源を採掘する許可を頂きたい。
それが依頼を請ける条件です」
「資源…、でございますか。
どのような資源が必要でしょうか。
我が国は、鉄や銅といった一般的な資源は発見されておりますが…」
「必要な資源は、グラビタイトα、グラビタイトγ、ゼラニウム等ですが…。
恐らく貴国では使われて居ないでしょう。
採掘する許可と言っても長くではありません、採掘期間は依頼を達成するまでの間だけです。
しかし、必要資源が無ければ私は能力を一部しか発揮できないでしょう」
国王は少し考え、神官や大臣らしい老人たちと顔を見合わせる。
そして、頷くと答えた。
「いずれにせよ、勇者様が存分に戦えなければ我が国は滅びるのです。
そうなれば資源などどれだけあっても無意味…。
どうぞ、存分に戦えるように資源をお使いください。
もし、人手が必要なら仰ってください。
可能な限り手配しましょう」
「ありがとうございます。
資源使用の許可を頂きましたので私の能力を発揮する事が出来るでしょう。
人手に関しては大丈夫です、必要ありません。
私一人で大丈夫です」
「本当に一人で大丈夫なのですか?」
老人たちが顔を見合わせ、心配そうな表情で再度問いかけてくる。
「はい、大丈夫ですからお任せください」
翌日、国王たちと共に、昨日の楼閣へと詰め敵情を観察した。
見ると敵陣は慌ただしく出撃準備をして居り、大型の攻城兵器が幾つも並べられているのが見えた。
国王は悲壮な表情を浮かべる。
「やはり…。
あの武器でこのままこの城を攻められれば、今日は持ちますまい…。
勇者様、何とかお願いします」
私は大きく頷いた。
「お任せください」
やがて、重低音で角笛が幾つも鳴り響くと、敵の攻城兵器がゆっくりと動き出す。
その周辺には、魔族の兵士達が陣形を組んで護衛しながら前進してくるのが見えた。
魔族らしく、前列は粗末な武器と鎧を来た背の低い兵士達、そして後ろの方には三メートル近い大きな棍棒を持った巨兵が続く。
そして、その中央から黒い全身鎧を身に纏い、大きな馬に乗った敵将が進み出て来た。
「ランベルク、貴様の国も今日で終わりだ!
そうだ、チャンスをやろう。
一騎打ちで俺に勝てば今日は軍を引いてやる。
腕に覚えのある者なら誰でも構わぬぞ?
城攻めは退屈でいかん。
俺を楽しませてくれよ」
それを見て国王は力なく話す。
「もはや、我が国に敵将ガルノフと戦える強者はおりませぬ…。
一騎当千と言われた我が王子も、騎士団長も、皆奴にやられました…」
「それ程に強いのですか」
「はい、あの者は卓越した剣の腕を持つばかりか、魔法も堪能なのです…」
魔法戦士というやつか。
「わかりました。
では、早速行ってきます」
老人たちは驚いた表情を浮かべる。
「え?今行かれるのですか?」
「ええ、では」
そういうと、私は楼閣から身を躍らせると地面へと降り立った。
軍用の特別なナノマシーンにより極限にまで最適化された私の身体は、百メートル位から飛び降りたところでたいした影響は無い。
「なんだ小娘、おまえが相手だというのか?
王国はとんだ人材難だな」
「ごたくはいい」
驚いた表情を浮かべる敵将を鼻で笑うとわざとらしく挑発ポーズを決めて見せた。
「掛かって来い」
敵将は顔を真っ赤にして怒り狂う。
「この小娘!
絶対に殺す!」
そういうと、馬から降りて身長ほどもあるデカい両手剣を構える。
「剣か、ならこちらも」
『ビームソード』
掌から取り出すようにビームソードが実体化する。
このビームソードは重歩兵の装甲服に使われているゼラニウム合金すら切り裂く切れ味を持つが、ファンタジー世界の鎧はさて切れるかな。
「な、なんだそれは…。
く、くそっ、魔王様より拝領したこの剣が負けるわけがない。
おりゃあ!」
敵将が体に見合わぬフットワークであっという間に間合いを詰めると横薙ぎに剣を振るう。
「ほいっと」
私は軽くジャンプして剣を避けるとビームソードを突き込む。
すると敵将も、体勢を崩しつつも半身で躱す。
「すばしっこい小娘が、おとなしく斬られろ」
「痛いから嫌だ」
斬られても恐らく死ぬことは無いと思うけど、痛覚はあるから痛いのだ。
「ぬっ。
この野郎、なめた口ばかり。
これでも喰らえ!」
そういうと、大げさに手ぶりをする。
「"漆黒の焔"よ来たれ!」
真っ黒な煙みたいな炎みたいなものが私に向かって飛んでくる。
『警告情報。高熱量エネルギー体です』
『エネルギーシールド』
私の前に戦車のビームカノンすら止める事が出来るシールドが展開される。
なんで私がこんな装備してるんだというと、コマンダーユニットだから。
見た目通りじゃないのだ。
敵の炎はシールドの表面で数秒燃えると消えた。
あれを直で食らうとかなり熱そうだ。
「むむむむ、何だそれは。
"漆黒の焔"を食らって燃え尽きもせぬとは…。
お前は高位の魔術師だったのか!
小娘の姿に見せてその実はとんでもないババぁだったんだな!?」
ババぁとは失礼な。確かに随分と長くは生きてるけど…。
ファンタジー世界の魔族も長生きなんじゃないのか。
「うっさい。
今度はこっちから行く」
『ブラスターモード』
ビームソードをブラスターモードにすると、熱線を幾つも発射した。
光弾は狙いたがわず敵将に吸い込まれていく
「なっ、熱い!熱いぞ!
この火に絶対的な耐性のある"烈火の鎧"の防御力を超える熱を撃ってきやがるとは…。
本当にお前は何者なんだよ」
「私は流れの傭兵だよ。
さあ、そろそろ決着を付けようか」
『ビームソード』
再びビームソードに戻すと、敵将に切りかかっていく。
敵将は私の斬撃を剣で受けようとするが、剣ごと敵将の腕が切り落とされる。
「ぐはっ、ば、馬鹿な!
魔法剣を斬るだと!」
「その剣も鎧も大したことない。
楽に殺してあげるからおとなしくしてて」
そういうと、ビームソードの出力を上げて再度斬りかかる。
『警告情報。後ろから高速接近する物が来ます』
『え?』
斜め後ろからドシンと強い衝撃を食らって体勢が崩れる。
「こっの!」
邪魔されてイラっときて、直ぐに体勢を戻して前を見ると、敵将が乗っていた馬が敵将を乗せて逃げ去るところだった。
後ろから撃とうと思ったけど、敵将を殺した場合のこの軍団の行動が読めなかったので、そのまま行かせる事にした。
その後、敵軍も波が引くように引き上げていき、その日の戦いは終わり。
それどころか夜のうちに陣まで引き払って翌日には敵軍は居なくなっていたのだ。
「勇者様!
敵将に重傷を負わせて追い払うとは流石です」
「敵はどこへ逃げたんでしょうか」
大臣らしい老人が答える。
「敵は恐らくこの先のウェルブルク城へと引き揚げたのだと思われます。
元々は我が王国の城の一つだったのですが、落とされてからは敵の拠点として使われています」
「なるほど、なら次はそこへ行きます」
「ならば、兵士達に準備を命じます」
「いえ、一人で大丈夫です。
資源を使わせてもらって準備をしてから行きます」
「一人で…。
わかりました…。
御武運をお祈りいたします」
私は城の人たちに見送られると、大臣に貰った地図に載っていたウェルブルク城へと向かう街道の途中にある山の奥の盆地へと移動した。
『敵将は何故引き上げたんだろうね』
『恐らくイレギュラーな要素が出て来たので一度引き上げて本国に対応を問い合わせているのでは無いでしょうか』
『なるほど、それはあり得るね。
…じゃあ、ここに前進基地作るから』
『了解しました。コマンダー』
さて、お仕事の時間だ。
一先ず、体一つで敵将と一騎打ちしました。
次回から本領発揮です。