第十三話 カイエンブルク攻城戦 準備
主人公は威力偵察のデータを元に準備を始めます。
威力偵察の結果、従来のブラスターを持たせた銃列での正面攻撃では多数のゾンビに勝てないというデータが取れた。
勿論、更に威力があり面破壊が可能なブラスターカノンによる砲撃が有効というのはこれ迄のデータ通りだけれど、ブラスターカノンだと威力がありすぎて敵を殲滅する為に撃ち込んでいけば街が廃墟になってしまうだろう。
その場合、もし捕虜などが居た場合の生存の確率はかなり低くなってしまう。
そこで、ボットによる攻撃は基本として武器の構成を変える事にした。
敵の出方は分からないけれど、城の外に出て来てくれるならブラスターカノンで焼き払えば良いしね。
「ファウンドリーメックを此処に運んできて」
「了解しました、コマンダー。
到着予定時刻は八時間後」
「わかった」
Tier2ファウンドリーメックは言ってしまえば移動工場。
全長40m、高さ20m、全幅15メートルのシンプルな立方体で構成された巨体に大型のジェネレーターを内蔵。
有り余るパワーを利用してその巨体をホバーで浮上させ自力移動することも出来る。
しかし大型の車両なので余り速度は出ず、長距離の移動には向かない為、ドロップシップで吊り下げて運ぶ場合が多いの。
ちなみに、見た目は巨大な鉄の塊で強そうに見えるけれど、非武装であくまで支援車両の域を出ない。
生産能力はTier2迄の兵器とボット、ドローンをそのままの状態で。固定してセットアップすれば大型のメックも製造する事が可能。
今回は一先ず武器が生産できればいい。
ファウンドリーメックの生産と輸送を指示した後、敵の動きを監視していると、どうやら敵は本腰を入れて攻めてくるようだ。
これ迄の黒ローブではなく、豪華な宝石などがあしらわれた黒ローブを身に纏った髭を短く刈り込んだ男性がカイエンブルクの楼閣の一つに現れると、人骨で作られたと思しき杖を振りながら何かの呪文を唱えだした。
私はコマンドメックにボット二千機の生産指示を出して自動モードにすると、メックから外に出た。
勿論、外に出てもリンクが切れているという訳では無くて、いつでも自在にメックを動かすことが出来る。
『20mmバレットスナイパーライフル、高速徹甲弾のカートリッジを装填状態で』
程なく手に私の身長よりも大きい、実体弾を使う大型狙撃銃が銃弾装填済みで現れる。
私の個人装備程度であればすぐに3Dマッピングで作り出すことが出来るのだ。
コマンドメックの上に寝そべり、銃を構えて上位者らしい呪文詠唱中の豪華黒ローブ男をスコープに収めると、静かに引き金を引いた。
バム!と重低音が響くと、20mmのイリジウム合金製の弾頭が2000m/sを超える初速で撃ち出され、目標に向かって飛んでいく。
シールドが無ければアサルトメックの前面装甲に突き刺さる程の威力を誇り、人に当たれば人体はバラバラになる。
ところが…。
「ちっ…」
豪華な黒ローブを来た男はシールドを張っている様で、直前で弾頭は見えない壁に阻まれた。
この前の司祭もそうだったけど、魔族の上位者は魔法によるシールドを張っているとみて間違いないね。
私は役に立たなかったライフルを片付けると、再びハッチからコマンドメックに乗り込んだ。
呪文詠唱中の男をズームして大写しで見てみると、実際のところは分からないけれど見た目は人間とあまり変わらない。
程なく呪文は完成した様で、城の前に異変が発生した。
なんというか、地面が盛り上がると巨大な死体、いや巨大なゾンビが五体も地面から出てきたのだ。
あれは…、いわゆるファンタジーで云うところのジャイアント?
大きさは10m位か…。
この前は威圧の意味も含めて大型のトランスポーターメックを出してみたけれど、アレに迫る隠し玉を持っているとはね…。
実はまだこれより大きいのもそのうち出てくるの?
呆気に取られて巨人のゾンビを眺めていたら、当たり前だけどこちらに向いて動き出した。
どの程度の強さなのかはわからないけど、王国の兵士達はこんな化け物の相手をしてきたのか…。
「ブラスターカノン発射準備、目標前面に現れた人型の大型個体」
『了解しました、コマンダー』
程なく、コマンドメックの砲塔から火の玉が吐き出され、巨人に着弾した。
今回もある程度の距離までくれば信じられない速度で走り出すのかも知れないけれど、今は緩慢に前に進んでいるだけだから簡単に火の玉は命中した。
火の玉が命中した部分は消し炭になったけど、それでも巨人は歩くのを止めない。
「ブラスターカノン連続射撃。
併せてグレネードランチャー射撃、弾種はスキャッター弾を選択」
スキャッター弾は目標地点で炸裂すると、刃物をまき散らす散弾的な炸裂弾。
通常戦闘ではあまり使わないけれど、異常発生した原生生物を処理する時なんかに使われる特殊弾。
ブラスターカノンで身体に大穴が空こうと、部位を失おうと歩くのを止めない巨人のゾンビに向かってグレネードが撃ち込まれる。
巨人たちの近くでスキャッター弾が炸裂すると巨人の身体を刃物がバラバラに切り裂き、肉片と化す。流石にここ迄来ると動くことは無く、後はブラスターカノンで消し炭に変えた。
五体の巨人のゾンビがバラバラになり消し炭に変えられたのを見て、使役していた男は顔面蒼白となり、部下の黒ローブに指示を出すと楼閣から姿を消した。
一番偉い人に報告に行くのかな?
或いは豪華な黒ローブ男が一番偉い人?
以降はカイエンブルクの方から動きは無く、夜半に予定通りファウンドリーメックが到着した。
先ほどの10mの巨人より更に高くそびえる巨体。
「…いつ見てもデカいねコレ…」
『メックの中でも大型の部類になります』
『そうだね』
これより大きいのも存在はするけど、いわゆる決戦兵器の類だ。
陸上戦艦的な物とか、まあ色々とあるのだけれど。
あの手の超兵器は使わずに済ませたいね。
『汎用ボットにブラスター、ビームソードの他、ナパームスロワー。
後、ナパームグレネードを装備』
『了解しました、コマンダー。
全数、同様の装備でしょうか?』
『それでお願い』
ナパームスロワーというのは粘性の対象に纏わりつく燃焼物質を投射する兵器。
通常のフレームスロワーが炎だけに対し、この兵器は遅延燃焼する薬液を全て燃焼してしまうまで火が消えることは無い。
つまり、ゾンビを動かなくなるまで焼き尽くすのに最適な兵器という訳。
黒ローブ相手にはブラスターとビームソードで良いと思う。
生産指示を出すと、ファウンドリーメックがフル稼働を始める。
私は警戒指示を与えると、ファウンドリーメックの最上部にある操縦室の裏側に設置されている仮眠室で生産が終わるまで仮眠をとる事にした。
所謂汚物は的な話です。




