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第十二話 カイエンブルク前哨戦

準備を整えカイエンブルク攻めが始まります。





前進基地が完成するまでの間、私はVR内の自宅でのんびり過ごす事にした。


VR内の自宅は気分で好きに設定できるのが現実世界の自宅と違っていいところ。

高校時代まで過ごした自宅を私の記憶の中から再現する事も出来れば、豪華なホテルの一室を再現する事も出来る。


そんな私が一番寛げるのは、やはり高校時代まで過ごした自宅。

高校生の私からすれば、遠い未来の非現実的な世界で新しい身体で目が覚めてからもう随分と長くこの世界で生きてきたけれど、でもある意味長い夢を見ているような気分。

現実の私の時間は、あの高校生の時で止まってしまっているのかもしれない。


何故なら不思議なことに、たまに見る夢は高校時代の夢が殆どだから。




『コマンダー、敵に動きがあります』


自宅でアーカイブから引っ張り出したコミックをのんびりと読んでいた私にAIから連絡が入り、たちまち現実に引き戻される。


『どうしたの?』


『先に奪還した宿屋街にカイエンブルクから出撃した敵部隊が近づいています』


『守備隊はまだ到着していないの?』


『五百名程の部隊が既に到着しています』


『五百か、この前と同じだね。

 敵の兵力は?』

 

『五千程度と思われます』


『宿屋街に到着する迄の時間を教えて』


『現在の行軍速度から後二時間で到着します』


『二時間か…。

 敵部隊の構成は?』

 

『部隊を率いている指揮官らしい人物以外、サーマルセンサーに生体反応が検出されません』


『アンデッドの類かな。

 ドロップシップにナパームを装備して航空攻撃で対処』


『了解しましたコマンダー』



Tier1のドローンではまともな航空攻撃が出来なかったけれど、ドロップシップであれば本格的な航空戦闘は兎も角ナパームで焼き払う位は出来る。



AIに指示を出した後、ドローンから送られてくるリアルタイム画像を開くと、上空からのカメラで撮影されている敵の部隊が映し出される。


千人ずつ位に別れた人型の群れが五つ、合計五千程度の部隊だ。


拡大してみるとボロボロの服や鎧を着た動く死体。つまりはゾンビの群れ。

それを使役しているのが各隊に一人居る黒ローブの人物。


ファンタジーで云うところのネクロマンサーとかいう奴だろうか。


対する守備隊は五百。ゾンビ相手なら王国の兵士達は恐らく遅れは取らないだろうけれど、それでも兵力差が十倍ともなると話が変わってくる。


それに恐らく守備隊はまだ到着したばかりで、防御態勢も整っていないのではないだろうか。



やはりナパームで焼き払うのが正解か。


それから十五分後、敵部隊の上空にドロップシップが飛来してナパーム弾を撃ち込むと、ボッと隊列が燃え上がると瞬く間にそれが燃え広がり、隊列が炎に包まれる。


少しの時間差で全ての部隊が燃え上がり黒煙を上げた。


行軍中であれば目立っていたので直ぐに視認出来た黒ローブの男達も、黒煙と炎でもはや何処に居るのかもわからない。


いずれにせよ、瞬く間に身体が燃え上がる程の炎に晒されるばかりか猛烈に燃え上がる炎は酸素をあっと言う間に消費し、周囲は完全な酸欠状態に陥る。

恐らく黒ローブ達は生きてはいないだろう。



『コマンダー、敵部隊を撃破しました』


『了解。生き残りが居ないか継続監視をお願い』


『了解しました』



数時間後炎が収まると、高温で焼き尽くされた黒焦げの炭の様な死体が多数残されていた。

黒ローブも含め全て燃え尽きた様だ。



それから敵に動きは無く、翌日Tier2の前進基地は完成した。



私は久しぶりに自宅でのんびり過ごして読みたかったコミックも全巻読めたし、すっかりリフレッシュした。



『コマンドバトルメックは到着してる?』


『到着しています、コマンダー』


『ではメックで出撃する』


『了解しました』



Tier2コマンドバトルメックは20m程あるメックで、前に壊されたTier1トランスポーターメックに比べればそれ程大型という訳では無い。でもトランスポーターメックとは言わば搭載力に特化した輸送車両で無駄の多い作りなのに対して、コマンドバトルメックは軍用の戦闘車両として無駄な部分は全くなく、兵器としての能力は比較にならない。


後部のハッチから六本脚のメックのコックピットを開くと早速乗り込む。

今回用意したTier2コマンドバトルメックは一人乗りで搭乗員を必要としない。

操縦系や火器管制システムはそれぞれに独自の高度AIが搭載されて居て、更にはセントラルAIであるLMにもリンクされている。


それはつまり私にも繋がっているという事で、メックを動かすのに直接操作する必要は無く、私が考えた通りに自動的に動いてくれる。


それぞれのAIに指示を与えて任せる事も出来るので、メックの操縦で手一杯になるなんてことは無い。



シートに身体を沈めて目を閉じるとメックに接続する。

途端に全方向に視界が広がり、必要な情報が表示されたウインドウが視界内に並ぶ。


その様子はさながらゲーム画面の様だが、実際の所兵器管制用の画面レイアウトもゲーム画面も現実の事か仮想現実かの違いでやる事は同じだからこれはしかたない。


私はマップを開くと目的地を設定する。するとメックが動き出し、風景が進みだした。


昔は歩行タイプのメックは乗り心地があまり良くなかったそうだけど、今は高度に発達したバランサーが搭載されて居る為、歩行程度では揺れる事も無い。



カイエンブルクからおよそ二十キロの地点にある高地まで移動すると、予想通りそこから城塞都市カイエンブルクが見渡せた。


中世の情緒を漂わせた高い城壁を備えた城塞都市で、往時には一万人程の住民が居り二千人程の守備兵が常駐していたと聞いた。



「さてと。


 カイエンブルクの映像を頂戴」


『了解しました、コマンダー』


新たに画面が表示されるとカイエンブルクの映像が表示される。


先に攻略した宿屋街も異様だったけど、カイエンブルクの映像はもっと異様だった。


何故なら、そこは死の街だったから。


城壁を守備する兵士は骸骨兵士だし、かつては活気があっただろう街の大通りには見るからに生体反応の無い人間、つまりはゾンビが何人もフラフラと彷徨っていた。


骸骨兵士はその装備から元を想像するしかないけれど、ゾンビは生前の面影を残している訳で、その姿は老若男女様々。

中には明らかに小さな子供まで居るのは、魔族の軍勢の残忍さを物語るというか…。

ホラー映画顔負けのその光景に私は暗澹たる気分になった。



もしかすると、これまで何度か遭遇したアンデッドの兵団はここから出撃していたのかもしれない。

何故ならアンデッドに交じって、黒ローブが何食わぬ顔で歩いているのが見られたからだ。


恐らく、ネクロマンサーの親玉的なのがこの街の主将なのかもしれない。


一万の住民と二千の兵士が居た街。単純計算は禁物だけど、潜在的には未だ一万近いアンデッドがここに居る可能性がある…。


ナパームなどで街ごと焼き尽くせば、ネクロマンサー共々殲滅は可能だとは思う。


でも、カイエンブルクは出来れば破壊せず確保したい街。

出来ればそういう手荒なことはしたくない。


それに、以前骸骨兵士を率いていた黒ローブを遠距離から狙撃した時、率いていた骸骨兵士も一緒に砕け散ったところを見れば、ネクロマンサーを倒せばアンデッドは消滅するのかもしれない。


とはいえ、アンデッドにはそこまでの脅威は感じないけれど、ネクロマンサーという得体の知れない連中を相手に予備知識も無しに戦うのはちょっとありえない。



そんな訳で、一当てしてみる事にした。


「汎用ボットを千体生産、武器はブラスター、ビームソードの標準装備で良い」


『了解しましたコマンダー』


コマンドバトルメックをこの場所に固定すると、前線司令部としての機能を始め、色々機能が使えるようになる。


その機能の一つが簡易版ではあるのだけど生産設備。


でも簡易版とはいえ、その生産設備はボットを生産するという意味では、特化した独自の設備を持っていて、その生産能力はボット工場を遥かに上回り、工場数個分の生産能力を誇る。


千という数はかなりの数だけど、このコマンドバトルメックであれば一時間も掛からず千機の汎用ボットを生産可能。

但し、あくまで簡易生産設備なのでエネルギー兵器しか生産出来ず、ロケットランチャー等の実体兵器を生産して装備させることは出来ない。


勿論、前線運用を想定して開発されて居るので、ボットのメンテナンス機能も持っていて、ボロボロでも回収すれば元に戻すことが出来る。更には、修復不能なレベルであっても回収しリソースに戻す事も出来る。


つまり、リソースが続く限りは前線基地としてボット軍団を前線で生産し送り込むことが出来るという訳。



ボットを生産している間、私はドローンを操作してカイエンブルクの偵察を進めた。


その結果、この城塞都市は中央の城を中心に街が広がっており、ゾンビが徘徊しているのは都市の外縁部の方なのが判った。外縁部の辺りは荒れており、死体や凄惨な殺戮があったであろう血の跡がそのままに残されて居るのが見えた。

中央の辺りは比較的往時の状態を残しており、人通りはほとんどないけれど黒ローブが行き来するのが見られるので、黒ローブ達はこの辺りを居住エリアにしているのかもしれない。

という事は、この都市の守将は中央の城にいるのかも。



小一時間後、ボット部隊が完成しコマンドバトルメックの前に整列、準備が整った。


「中尉、威力偵察任務を与える。

 ボット部隊、敵と交戦まで前進。

 交戦状態になったらその地点で敵と戦闘し、別命を待て」


「了解しました、出撃します」


中尉というのは指揮官ボットにインストールした指揮官AIのニックネーム。

中尉は、ボットなら二千機迄指揮する事ができる。



中尉と汎用ボットは全てリンクされて居て特に言葉で命令する必要は無いので、中尉がポジションに就くと一斉にブラスターを構え、ボット部隊は隊列を組んで前進を始めた。


このシーンだけ見れば中々に勇壮だね。



私はボット部隊が前進していくのを正面に見ながら、偵察ドローンの映像も注視し敵の動きを待った。



ボット部隊が前進を始めると敵がこちらに気が付いたのか途端慌ただしく動き始め、中央の居住エリアから飛び出した黒ローブが城壁などあちこちに駆けていく。

やはり彼らが死体を動かしているのか、それまで彷徨うだけだったゾンビが規則的な動きを始め、微動だにしなかった骸骨戦士が動き出す。


つまり、黒ローブを排除すれば動く死体はただの死体に戻ると。

そういう訳なのかな?


ただ、言うまでも無いけれど慢心は禁物。



ボット部隊がカイエンブルクまで残り半分の距離まで進んだ時、城門が開いて中から敵が出撃してきた。


敵は二千程で骸骨戦士とゾンビからなり、前面はゾンビの群れで数が多く千五百程の群れで、その後から五百程の骸骨戦士が隊列を組んで進んでくる。


ゾンビは武器も持たず素手でぞろぞろと進んでいるが、骸骨戦士は鎧を着て剣と盾で武装していてさながら軍隊の様に隊列を組んで進んでくる。

もしかすると、元はカイエンブルクの兵士だったのだろうか。


とはいえ、生前がどうであれ撃破以外の選択肢はないのだけれど。



ボット部隊は更に前進を続け、ブラスターの射程距離に入ったところで敵部隊への射撃を始めた。


ブラスターの放つ赤い光線がゾンビに着弾すると何の防御も無い剥き出しの身体をたちまち貫く。しかし、ゾンビは倒れる事無く更に前進を続ける。


つまり魔法で動かされているその身体は、身体が動く限り動き続けるという、昔のホラー映画のゾンビその物。なんておぞましい。


でも、これ迄は有無を言わさず焼き払っていたから気づかなかったけれど、ゾンビはなんてタフなんだろう。欠損すれば壊れてしまうボットよりはるかにタフだ。


とはいえ、ボット部隊は敵が倒れなくても意にも介さず、ひたすら射撃を続ける。

するとさしものタフなゾンビも脚を失うなど、致命的な欠損を受けて倒れるやつが出てきだす。

しかし倒れても這ってでもゾンビは前進を続け、動きを止めないのだ。


全体から見れば脱落しているのは前列の方のゾンビだけで、後列のゾンビは倒れたゾンビをそのまま踏み潰して前進を続ける。さながら千五百体の肉壁…。


ゾンビ部隊は損害を出しながらも前進を続け、唐突にそれ迄の少々緩慢な動きが嘘の様に全速力で駆けだした。両手を振り上げ、ものすごい勢いで駆けてくるのだ。


ボット部隊だから冷静に射撃を続けているけれど、普通の兵士ならパニックを起こしそう。


程なく猛突進してきたゾンビ達に乱入され、ボット達はビームソードを出して白兵戦モードに移行する。


一対一ならどう考えてもボットの力の方が上。しかし数に勝り完全に動けなくなるまで戦意を失わないゾンビ達に組み付かれたボットは信じられない力で破壊されていく。


後方から骸骨戦士が追いつく頃にはすっかりボット部隊は壊滅していた。


『中尉、ご苦労様。

 良いデータが取れた』


やはり焼かないと駄目みたいね。



黒ローブは勝利したのが嬉しかったのか、杖を振り上げて喜んでいるのが見えた。


その後、更にこちらに前進してくるのかと思ったけれど、破壊したボットを黒ローブが調べ出したので、こちらも動くことにした。


『ブラスターカノン発射準備』


『ブラスターカノンいつでも発射できます』


私は偵察ドローンからの上空映像を開くと、射撃地点を指定する。

攻撃目標は後方の骸骨戦士の隊列。


『発射』


号令と同時に真っ赤な火球が隊列に着弾し、半径五メートル内の超高温に晒された骸骨戦士達がたちまち消し炭に変わる。


攻撃を受けた黒ローブ達は凍り付いた表情を浮かべると、算を乱して城へと逃げ出す。


骸骨戦士やゾンビも後に続こうとするが、脱兎の如く駆けていく彼らに追いつく事は無く、早々と黒ローブは城門の向こうへと消えた。


私はと言えば、城門へと無秩序に向かうゾンビや骸骨戦士に宛ら腹いせの様にブラスターカノンを撃ち込み続け、すべてを灰にしてやった。


「中尉、仇は取ったよ」


『ありがとうございます、コマンダー』


「さて、仕切り直しだね」


私は面倒だからカイエンブルクを更地にしても良いかと一瞬思ったけれど、万が一前の宿屋街の様に捕虜が居ると困るから、結局は今回の戦闘データを参考に作戦を考える事にした。










一先ず、相手の出方を見てみました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゾンビに物量戦闘を仕掛ける所、ゾンビ映画はゾンビに物量は有っても人間にはないから‼️ [一言] ゾンビを相手に生き延びるには主人公みたいなナノマシン集合体か何でも広範囲で敵を一撃で即死させ…
[気になる点] ゾンビや骸骨にサーモバリックはあまり意味が無いのかな?
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