第十話 一時帰還
一度報告に王都に戻ります。
高機動ビークルを飛ばせば、歩けば二日はかかるような距離も数時間で到着。
現在国王が居る城塞都市へと戻って来た。
一緒に乗せて来た使者役の騎士が私が戻って来た事を城の上役に伝えてくれると、直ぐに国王に会うことが出来た。
今回は謁見の間では無く会議室の様な所に通され、国王と宰相、それに軍を率いる将軍、そして神官のおじいさんなど、この国の首脳陣がテーブルの席に着いた。
「勇者殿、めざましい活躍ぶり。
感服いたしましたぞ」
国王が満面の笑みで私の事を讃えてくれる。
「魔族が使ってくる魔法に悩まされて居ますが、何とか進んでいます」
それを聞くと、国王が深刻そうな表情になる。
「魔族の使う魔法は、我らより遙かに強力。
我が国に仕えてくれていた高位の魔術師は、戦場で多くがその魔法に…」
そう話すと、国王は項垂れてしまった。それを見て神官のおじいさんが、この城塞都市がまだ落城していない理由を話す。
「幸いこの城には、恐らくこの城塞が建てられた時に設置されたと思われるのですが、古代のアーティファクトが結界を張っており、魔族の魔法攻撃を防いでいるのです。
その結界が無ければ、この城はもたなかったでしょう…」
『バリアーの一種かな?』
『各種センサーに、探知できる特筆すべき反応は何もありません。
でも、恐らくバリアーに類するものが魔法攻撃を防いでいるのは間違いないでしょう』
『そうだね。
そうでもなければ、ここを攻めていた敵将も強力な魔法を使っていたのに、わざわざ攻城兵器なんて使う意味が分からない』
『同意します』
「それで敵は攻城兵器を使っていたのですね」
それについて将軍がこたえる。
「そうです。
もしもこの城に結界がなければ、敵は魔法で簡単に城壁を破壊したでしょう。
実際、勇者様が最初に開放した城は魔法攻撃で城壁を壊され、そこに敵軍勢が雪崩れ込んだのです」
「なるほど…。
ところで、開放した宿場町に〝生贄の祭壇〟がありました」
生贄の祭壇、と私が話すとその場の空気が一気に沈み込んた。
「生贄の祭壇…。
それを見て生きて戻った者は極僅かですが、あらましは聞いています」
「実は生贄が投入されるところを目撃しました。
あれは一体どういう儀式なのでしょう」
「投入された生贄が持つ魂を邪神に捧げてその恩恵を得るための儀式、と言われていますが、実際のところは何も解っていません。
我らが崇拝する神はそのような物を求められたことはないので…」
「しかし、まだあちら側に生存者が居たとは。
もはや誰も生き残ってはおらぬと思っておりましたが」
「いえ、生贄の祭壇の血の色をした池に突き落とされていたのは、魔族の軍勢にいた小柄な兵士でした」
「ゴブリンですな…。
しかし、なぜ敵側の兵士が生贄にされていたのか」
この世界でもゴブリンというのか。或いは自動翻訳されているのかな。
それは兎も角、敵側の兵士が生贄にされるのは異例なのか?
「私もそこまではわかりませんが、おおよそ千人程のゴブリンの兵士が数珠繋ぎに連れてこられて池に次々と突き落とされていました」
「せ、千ですか…。
その…、血の池というのはそれほど大きな池だったのですか?」
普通そう考えるよね。
容量的に考えても、いくら小型ヒューマノイドでも広場の大きめの噴水の池程の大きさでは、すぐに一杯になる筈。なにより、深さがそこ迄ないのに。
もしかして別の次元へのゲートなのか、あるいはその場で別の物質に変換されていたのか。
まるで魔法のような代物なのだ。
「元からそこにあったのかはわかりませんが、町の中央にある広場にあった円形のものです。深さはそこ迄ないと感じました」
宰相が青い顔をして話してくれた。
「…街の中央広場には町を訪れる来訪者の為の泉が設置されておりました。
ですが、千ものゴブリンを投入出来る程の大きさはありません。
一体…」
やはりか…。
「私にもどういう仕組みなのか、わかりませんでした。
しかし、千人のゴブリンは確かに目の前で全て突き落とされたのです。
ただ一つ気になったのは、ゴブリンが突き落とされている間、その血の池の水面がこの世のものとも思えない色で淡く輝き、おどろおどろしく渦巻いていました」
「まるで、伝説に聞く冥府が口を開けているような…」
やはり、異次元への入り口なのか…。でもはっきりとしたところはわからない。
「そして邪神の司祭たちを全て片付けて最後にリーダーらしい司祭と戦った時、不利を悟った司祭が自分自身を生贄にして、人の倍以上も大きい魔人を召喚したのです」
「なんと恐ろしい。しかし勇者様がここに居られるという事は、魔人を退けたのですね。
流石勇者様」
「いえ、時間切れで痛み分けというところです。
魔人はあまり長い事出現していられないようで、途中で消えました」
「はい、魔人は別の世界の住人で、この世界で実体化するためには膨大な力が必要だと言われています。
しかも本体は別の世界に居るため、退けることは出来ても滅することは困難とも言われています」
本体を元の世界に置いたまま別の世界で実体化させるなんて、VRMMOみたいな話だけど現実世界でそれを実現するのは簡単ではないはず。
実際のところ、今の人類は別の世界と交信する技術すら無い。
それってどんな魔法だよ、と。正にそんな話なのだ。
「なるほど…。
依頼を受けた以上全力を尽くしますが、この先あんなのばかりが出てくる状況にならないことを祈るのみです」
「流石にいかな魔族でも魔人を召喚できる程の高位司祭はそれほど多くはおらぬはず」
「だと良いですが…。
それは兎も角。
私は、次は本来の王都の手前にある城塞都市を落とす予定です」
「その城塞都市の名はカイエンブルク。
あそこは我が国でも有数の城塞都市の一つで、本来は王都を守るための砦だったのです」
「しかし現在の兵力では、もし勇者様にカイエンブルクを奪還して頂いても、我等は守備の兵を送れないかも知れませぬ」
「ええ、その辺りは私の方で何か考えましょう」
取りあえず、ボット兵士でも作って入れておくか…。
魔人はかなり厄介な存在です。




