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有象無象の青年物語シリーズ

君想う、だから私は

作者: ザ・ディル




 桜の花びらは舞っていき4月が終わりを告げようとしていた。

 その桜を遠目でボーッと見る私は少しおかしい人と笑われるのかもしれない。もっとも、今一番おかしいのはアイツの奇妙な姿勢だろう。

 

 「なんでスポーツテストのボール投げであんな体勢になるのよ」

 

 と、思わず声がでてしまう。とはいえアイツが不思議過ぎる体勢のため仕方ない。

 ボール投げは普通であれば助走をつけて投げる競技だ。でもアイツは助走がつけられないラインぎりぎりに立っている。それだけであれば《まだ》些細なことだ。

 だけど一番の異常さはアイツがボールを投げる方向とは真逆の向きに立っていることだ。しかも前屈みの体勢……。普通であれば「それは砲丸投げの投げ方じゃん!」と突っ込まれたりする……と思うんだけどアイツにそんな事を突っ込む人を見たことがない。

 それどころか女子の何人かはアイツの異常な行動に魅了されている。

 

 「ねぇねぇ優華(ゆうか)(みのる)くんはどのくらい飛ばすのかなー?」

 

 私の隣にいて話しかけてきたのは高校では珍しい茶髪、そして明るい雰囲気を醸し出す親友――千秋(ちあき)だ。今はその話題はしたくないのに……と心の中ではそう思い、なるべく話を終わらせる方向で発言をした。

 

 「知らないわよ。私だって見たことないわ」

 

 「えー、でも優華(ゆうか)(みのる)と幼馴染でしょー? 何か知らないの?」

 

 ダメだ、この隣にいる親友もアイツに興味津々のように見える。なんとかしてこの場を収めなければアイツの雰囲気に惑わされ、千秋もアイツの虜になってしまう。それを回避するためには少し怒り含めた言い方が良いと思い――

 「知らないわ――」

 よ、というはずだったがそれと同時にアイツはボールを投げた。その投げ方が驚き過ぎて唖然とした。

 アイツは一歩、二歩と逆走することで助走の働きを可能とし、遠心力をフルに使って身体全体でしっかりとボールを投げる。投げる時、アイツは人外の動きをしていたので少し気持ち悪いと私は思ったがそんなことは関係無く――、

 

 「記録、60メートル」

 

 「きゃああああああ!!」

 

 なぜか記録が出されるとクラスの女子の何人かが奇声のような声を上げてその場が盛り上がる。

 ボール投げで60メートルはアスリートレベルの記録、否、それ以上かもしれない。しかも変な投げ方で投げてこの結果だ。女子の何人かが騒ぐのも無理ないのかなと思った。

 

 

 

  * * * * *

 

 

 

 そもそも、私の幼馴染のアイツはスポーツテストで良い結果が出せないのが普通だと思う。

 その理由がアイツは《視力が無い》ことだ。アイツは産まれたときから視力が無かったと聞いている。にもかかわらず高校ではアイツが視力をもっていないことを私以外知らない。それほど普通の生活を送れている。

 

 「頭おかしくなりそう……」

 

 私は思わずそう呟き、少し頭を抱えてしまう。

 集団生活をしていれば障害というのは隠しても絶対にバレる。特にアイツの場合、視力が完全に無いのだ。

 


 だけど、現にアイツがバレていないのは『座標把握』というものができるからだ。『座標把握』はその名の通りに座標を把握することだ。それによってどこに人がいて、さらには相手の仕草などを眼以外の五感、または第六感で誰かを判別できる。こんなのを誰かに話したらアイツから友達がいなくなりそうなので止めとく。

 

 

 スポーツテストは終盤だ。アイツへの声援も減ることはなく、ただのスポーツテストだと言うのに終始賑やかという稀なことが起こっていた。

 現在は体育館に移動して、反復横跳び、握力測定、立ち幅跳びが行われていた。そしてアイツの活躍は現在も進行中。女子の何人かが自分のスポーツテストをすっぽかしにしてアイツに歓声を送り続ける。それに対して私はこう思う。


 

 ばかばかしい。

 


 歓声を送り続ける女子に、では無い。それに嫌気がする自分に、だ。

 世の中、ウザイと思う場面がこの状況だとしても私はあまりそうは考えたく無い。合理的に考えてしまえば、ウザイと考えることは時間の無駄と思い考えない人もいるらしいが、普通の女子高生の私は無理だ。それでも私はウザイとは思いたくない。

 

 それはそれとして今はスポーツテストをこなすのが先だ。

 千秋に「先に優華がやってー」と言われ、先に握力測定の機械を持って力いっぱいに握る。

 

 「……っ」

 

 私はなぜか頭の中がモヤっとする。さっきウザイとか思ってたから、それと私の違う感情がぶつかってるのかな――、

 

 「……優華、ギブっぽい? ずっと力入れてるけど23ぐらいで止まってるよー」

 「……! …………うん、ギブ」

 

 私は感情のぶつかりあいを握力に全て使ったらしく、顔が赤くなるほどの力を入れてたらしい。千秋は少し心配そうに見てきたので「大丈夫だよ」の意味も込め、明るい表情でそう答えた。

 

 「じゃあ次はアタシだねー。フッ!」

 

 ちょっ、女子でそんな声ださないでよ。

 

 と、私は思ったが、先ほどの握力測定で顔を赤くした一面を思い出したのでそれを言葉にするのは諦めた。

 

 「えと、24だねー」

 「やったー! 前より3も上がったー!」

 

 その場で無邪気にはしゃぎ回る姿は『犬かな?』 と思わせるほどだったけど、すぐに先生に怒られ犬のようにシュンとする。少し可愛い。

 

 でも怒るならアイツの応援をしている女子たちを怒れば……。

 

 とと、また私の悪い癖が出てしまった。このよく分からない感情は本当にウザいってだけなのかな。もしかしてこれは嫉妬――

 

 「いやいやいや! 有り得ないって!」

 「優華どうしたー?」

 

 「――あっ、いや、何でもないよ」

 

 思ったことを口に出てしまった。気をつけなければ……。

 

 「そんなことないでしょー、なんかムスーって顔してる」

 

 ――ちょっと、なんで深く掘り下げようとしてるの!?

 

 私は千秋の予想外の言及に困惑してしまった。早く返答しないと余計に怪しまれる。

 いや、そもそも私がアイツのことで嫉妬することなんて無い……けど、少なくとも千秋はそう思ってるように見える。どうにかして誤魔化さないと……。

 私は慌てながらもその場で思いついたことを言う。

 

 「……えっと……その……表情筋を……鍛えてたの……よ…………」

 ――何言ってんだあぁぁぁぁぁぁ! 私のバカァァァァァァァ!! これじゃあ嘘まるわかりじゃない!

 

 咄嗟で思いついたことは恥ずか死ぬほどの虚言だった。同時に、私はいつも嘘が十中八九でバレてることを思い出す。いつも嘘を言ってから思い出すのだけど。

 っというかこの状況はマズイ。絶対嘘だってバレちゃった……。

 

 「………………それってー、朝にテレビでやってた、アレ?」

 

 ――あれ? 意外と大丈夫そう?

 

 千秋には嘘だってバレてないようだった。私はそれなら最後まで嘘を貫こうとして話を進める。

 

 「……そうそう、アレだよ。いやー、私って表情がそこまで豊かじゃないから少し気になってて……。それで、ね」

 

 「そうなんだー。私も一緒に表情筋の練習するー!」

 

 嘘がバレなくて良かったけど表情筋の練習はそれで駄目だ。私が表情筋の鍛え方を知らない。

 

 どうしよう。でもここまで嘘ついちゃったんだ。やるなら最後まで貫かなきゃ。

 

 私は変な決心をして千秋との話を続ける。

 

 「えっとね、この……唇をね……こう、ね……動かしてね……それでね、こう……なに……この表情を10秒間キープすればいいんだよ」

 

 文面だけ見れば酷い教え方だと思うけど、身振り手振りならぬ口振り目振りとでも言うのかな? それで分かりやすく伝えた。

 

 「へぇー、こぉの ひょぉ(この表) じぉぉ ぉ(情を) じーびょぉね(10秒ね)

 

 どうやら千秋は本気で表情を変えずに10秒間やりきろうとする。私も10秒間表情を変えなければ見事にこの件を収めることができるはずだ。

 

 「(1…… 2…… 3…… 4…… 5…… こういうのってなんで時間が遅く感じるのかなぁ)」

 

 それだけ早くこの状況から脱したいと思ってるんだろうな。まぁいいや、あと時間的には半分だ。

 

 「(6…… 7…… 8……!!)」

 

 そのとき私は知ってしまった。アイツがこっちを見てることを。しかもアイツは気がついて笑顔を振ってきやがる。アイツを応援してる女子はまるで自分たちがその笑顔をもらったかのように「キャー!!」と声を上げる。

 私はアイツのことはただの幼馴染としか思ってたないけど……。それでも純真無垢な目を見てしまうと――

 

 「(~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!)」

 

 思わず顔が真っ赤になってしまう。なぜ顔が真っ赤になったのかよく分からないけど。

 さらに体温が上昇してしまうのが自分でもよく分かる。それはアイツが私を魅了する作戦なのか!?

 だけど――、

 

 「(耐えるんだ。あと2秒でこの状況が終わるんだ。意地でもこの顔で後2秒、耐えぬくんだ。私ならできる!)」

 

 あと2秒表情を変えずに耐えぬけば、全て終わるんだ。そしたら私は……報われるんだ。

 

 「(9…… 10……!)」

 ――終わった! やった!

 

 「これで表情筋柔らかくなったかな、優華!?」

 

 私は表情筋の練習が終わり喜びを感じた。これほどの喜びは久しぶりかもしれない。ともかく後は千秋と適当に話せば――って私は何を隠そうとしたんだっけ。

 

 「優華、もしかして嫉妬してるでしょ」

 

 嫉妬? そうそう思いだした。私はアイツを応援してる女子たちに嫉妬したことを隠そうと……って――、

 「(えぇぇぇ! なんで知ってるの!?)」

 

 私は意味が分からなかった。

 アイツを応援する女子の嫉妬は隠せてはず…………いや、嫉妬してないけど。でも、もしかしたら嫉妬って声に出してたかも。どうすれば……どうすれば……誤魔化せるんだ。

 

 「……やっぱ嫉妬してるー! ……私が綺麗な笑顔作れるからってー、嫉妬しないでよー」

 

 「……へっ?」

 

 もしかして……千秋の表情筋が豊かなことに嫉妬してると思ってるの……。

 私はそれを知って安堵する。別にアイツのことについての質問ではないことに気が付いたから。

 だから私は自分が感じていた嫉妬も忘れるように――

 「――えー気のせいだよー」

 

 そう笑顔を振り撒いて私自身を誤魔化そうとした。


 

 * * * * *


 

 スポーツテストは普通ではあり得ないほど賑やかだったが、それが終わるとその後の授業はまるで先ほどの光景が嘘だったかのように静かに受ける生徒ばかりだった。

 

 だが、今は高校生たちの多くが楽しみにする放課後の時間。ある人は部活や同好会に参加、ある人は家に帰ってゲームや本を読み、中には家に帰り勉学に励むという生真面目な人もいるだろうけど、それは少ないと思う。それらを考えると放課後に何かに熱中する高校生は多いはず。

 

 私は写真部で週1活動の緩い部活だ。千秋とは同じ写真部ということもあり、いつも一緒に帰る。

 

 

 だけど……今日は少し違うかもしれない。


 

 「私も今日は貴女たちとご一緒に帰りたいと思い、声をおかけしました。一緒に帰りを共にしても構いませんか?」

 

 教室から出ようとしたらコイツに話しかけられた。なんでコイツのことをいつも以上に考えてしまってる今日に限って、コイツから声をかけてくるのか。もしかして私の心情を分かってるのかもってぐらいのタイミングだ。

 分からない、分からない……が、断りづらい。

 その原因は千秋がいるからだ。断ると仲が悪い間柄と思ってしまうだろう。つまり私はコイツと一緒に帰らなければいけない――

 「――っ!」

 

 一緒に帰る。それを考えただけで顔が真っ赤になりそうだ。……コイツと一緒に帰るなんて彼氏と勘違いされるかもしれない。

  

 「……幼馴染からのお誘いだよー! これは引き受けなきゃ女が廃るよー!」

 

 「それは男が廃るだよ!」と今すぐにでも訂正したいが言えない。それほどまで私は何故か気分が変に高揚して、何も言えなくなってる。こんな感情をコイツに見られたら何を言われるか。……でも、それもありかも――

 「――じゃあいいよ…………」

 

 ……何故かオーケーしてしまった。

 

 

 * * * * *


 

 今は私の家の帰り道。いつも通りであれば千秋とガールズトークをワイワイ話してるのだけど……コイツがいると話しづらい。

 

 「ねーねー、稔くんは普段何してるのー?」

 

 「そうですね。普段家では勉学に励み、休憩時に町を散歩、後はゲームでしょうか」

 

 「へー、稔くんもゲームするんだー。意外な一面はっけーん!」

 

 現在、コイツを真ん中にしてその隣に私と千秋がいる状態で会話していた。

 私はよく分からない気持ちの高ぶりを抑えることに集中してたので会話に入ることができないままでいた。

 

 「そう見えますか? ゲームは割と好きですが……」

 

 「そうなんだー。確か、優華もゲーム好きだったよねー。二人でやったことあったりするの?」

 

 「最近は無いですね」

 「はぁ!? あるわけ無いじゃない!」

 

 私は気持ちの高ぶりを抑えるのを忘れて会話に加わってしまった。このままだと何かボロ出しそう。いや、もう出してた。

 

 「あれー? 稔くんと意見が違うよー、優華。どーいうことかなー?」

 

 

 「私はそのままを述べたままですが」

 

 「いや! 私が稔と遊ぶワケ無いじゃん! バッ――……」

 ――カじゃないの!

 と喋ろうとしたが諦めた。ツンデレの烙印を押される。しかもまた私は嘘をついてる。コイツの前だとどうも私が私じゃなくなるような、変なことをしてしまいそうだ。

 

 「ばっ? その後はなんなのかなー、優華」

 

 それは素なのか、それともわざと聞いてるのか……分からない。

 でも、とりあえず答えないと変なことになると思って『ばっ』から始まる言葉を急いで考え、そのまま口に出してしまう。

 

 「ばっ……バッファローと遊んでた……ほうが……マシよ……」

 

 「フッ」

 「ブッハァーー!! ッハハ、おもしろーい! ツンデレ隠そうとして墓穴掘らないでよー」

 

 千秋は最初から分かってたぽい。それに気づいて私はまた顔が赤くなる。

 やっぱり嘘は下手だ。っというかコイツも笑ってやがる。コンチキショウめ。

 

 「あ、じゃあアタシこっちだから。バイバーイ!」

 

 「さようなら」

 「バイバーイ」

 

 ツンデレの烙印を押され、弁解する時間も無く千秋は走って帰ってしまった。

 

 

 ここで私は気づいてしまう。

 

 

 コイツと二人っきりだ。

 小学生のとき以来だった気がするが、あのときとは違う。今は高校生。もしも同級生に見られたら彼氏認定にされるかも――

 

 「――こうして帰るのは久しぶりだね」

 

 ひゃう!

 私はビクッとしてしまう。コイツなんかとは喋りたく……喋りたくなんか……

 「……そうね」

 

 喋っちゃった。まあ、別に喋ったとしても彼氏って見られなければ問題なんかないし。というかただの幼馴染だし――

 「そう言えば今日だけど……さ。お前ん家行ってもいいか? ……久しぶりにゲームでもしたい」

 

 コ……コイツ……、何を言ってやがる……。

 

 「……なんで……私の家に? 別に他のところ行けば――」

 「――お前ん家で無くてもいい。どこか……どこでもいい。どこかで遊ぼう!」

 

 今日のコイツ……お、おかしい、おかしいって。どこでもいいから一緒に遊びたいって……。

 どこかで遊んで同級生に見られたらそれこそ彼氏扱いにされる。

 それだったら家の方がマシだと思った私は――、


 「私の家でいいわよ」

 

 「ありがとう」

 

 幼馴染を家に上げるのを許可した。



 * * * * *


 

 ひとまず状況を整理したい。今日、偶然たまたまコイツに変な感情を抱いてしまい、偶然たまたまコイツに一緒に帰りたいと言われ、偶然たまたま私の家でゲームして遊びたい、そう言われた。そもそもコイツと一緒に帰ることや私の家で遊んだことは三年前が最後だ。これが偶然と呼ばずなんと呼べばいいんだろう。

 

 それはそれとして、今は私が家の鍵を開けた、そんな感じ。

 

 「お邪魔しまーす」

 

 「別に誰もいないわよ。私とアンタの二人だけ」

 

 私は軽くツッコミを入れる。私の家にコイツを入れるのは懐かしく感じた。

 

 「とりあえずアンタは私の部屋行っといてー」

 

 「りょーかい」

 

 他の男子を入れるなら流石に私の部屋で一人待たせることはしないが、幼馴染だったら別に問題無いだろう。

 

 私はリビングに行き、冷蔵庫からジュースを取りだしコップに注いでく。

 そして私の部屋に持っていきコイツに渡す。

 

 「とりあえずジュースね」

 

 「おう、ありがと」

 

 ホントに懐かしい。このやりとりも何回もした。

 というかコイツとこうして話すことも三年ぶりぐらいだ。

 私はこの三年間ぐらい気になったことを喋りたくなり、喋り始める。

 

 「……アンタさ、変な外面やめたら。普通の高校生は同級生に敬語なんて使わないよ。千秋を練習相手にして敬語喋らないようにするのはどう?」

 

 「いや、なんか学校とかだと敬語しか喋れなくて。まぁ……頑張ってみるよ」

 

 コイツは外では敬語しか喋らないらしいが、私の前ではこの砕けた喋り方になる。

 

 「とりあえず、今回するゲームはこれでいい?」

 

 「いいわよ。けど……」

 

 「けど……?」

 

 コイツが自然にゲームを取り出すことに違和感を拭うことができない。コイツのことをよく知ってるからこその疑問だ。

 

 「……本当に目が見えて無いのかってくらい物をつかめたりできるよね。それでよく授業でノートとれるよね」

 

 「まぁ『座標把握』があれば先生の書いた字は分かるからな。というか……優華は知ってるだろ」

 

 「そうだけど……」

 

 分かってる。それでも現実味が無さすぎる。だから私は真実を確かめる。そのために――

 「――本当に……見えて……ないの?」

 

 「だから眼は見えないって言ってるし、何より知ってるだろ。今日なんかおかしいぞ、お前」

 

 おかしいと言われた。でも――

 「――おかしいのはアンタじゃない。今日に限って一緒に帰ろうって言うし、しかも私とゲームしたいって言うし」

 

 

 「それは……!」

 

 

 私は今まで隠してたモヤモヤする感情をぶちまける。

 

 「やっぱり。何か裏でもあるんだね。小学生まであんなに遊んでたのに、それ後はなんで……なんで……遊ぶことが一度も無かったのよ……!」

 

 「――? いや、それは訂正させてくれ。それはお前が誘うことが無くなったから――」

 

 「――嘘! 嘘だよ……! アンタは……幼馴染の稔は! 私が中学生になったときに……どっか、行っちゃった……の……」

 

 私は多くの感情がぐちゃぐちゃになり涙が溢れる。『もはや会話が成り立っていない』のが自分でも分かる。

 だけど、それでも何かを訴えようとした。私の心と稔の心に。

 

 「私は……こんなにも待ってたの! 稔が離れても大丈夫だ。私は私でいられる、そう思ってた。でも……《稔がいなきゃ……私はダメになるの》。今……そうなっちゃってるの! 私、どうすれば――」

 

 私の肩に稔の手が乗る。その手は温かく、何かの覚悟を決めた感覚が伝わってくる。

 

 「――じゃあ! 俺が必要なんだろ! ……俺と付き合ってくれ!」

 

 「………………え!?」

 

 あまりの突拍子な稔の発言に私は呆然する。

 

 「俺は中学で知ったんだ。障害者がどれほど嫌われてるのか、疎まれてるのか。それでお前にも嫌われてると、そして小学生のとき我慢してくれて、幼馴染だから愛想笑いもしてくれたと思って――」

 

 「えっ? そんなこと無い……」

 

 私は稔のことが必要だった。障害者とかは関係無い。

 

 「……多分、俺もお前も勘違いしてたんだ。俺はお前が好きだった。けど、お前は……優華は俺のこと嫌いだと、そう思ってた」

 

 「――違う! 私は稔のことが…………」

 ――好き。

 

 

 最後の言葉が出ない。

 

 

 伝えたい言葉が分かった稔は私を鼓舞するように、

 

 「俺の目を見て話してくれ、優華! 俺は……優華が好きだ! 大好きだ! 愛してる! お前はどう思ってるんだ、優華!」

 

 そして私は稔に後押しされながら――

 「…………好き! 大好き! 小さい頃から……私は稔のことが……大好き!!」

 

 泣きながらも私は「稔のことが好き」と言葉にできた。

 

 

 * * * * *

 

 

 現在、私と稔は格闘ゲームをプレイ中。

 「好き」の告白の後、会話もなく私は涙を溢し続けた。

 

 しばらくして冷静さを多少取り戻したけど今度は「好き」と言ったことを思い出し、恥ずかしくて会話できなかった。

 

 そのあと、稔が少し気まずくしながら「ゲームやるか?」と言われ、私はコクりと頷いて格闘ゲームを無言でしてる状態だ。

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 会話できない。

 さっきの話で分かったのは私たちは勘違いを三年間もしてたってこと。

 そして、稔が私に「付き合ってくれ」と言ったこと、そのチャンスを私が答えてないことだ。

 

 「なぁ、優華」

 

 「な、なによ」

 

 私は少し恥ずかしくなりながらも返答する。

 

 「俺は……正真正銘障害者だ。そんな俺でも好きなのか?」

 

 「……えっ?」

 

 私は《付き合う》ことについて何も言及されなくなったのに少し怒ってしまい――

 「――うん、さっきも言ったじゃない」

 

 「やっぱり……怒ってるよ……ね。優華は優しいよ」

 

 「――? ――!」

 

 私は一瞬、はてなを頭の上に出したが、すぐに稔が言いたいことが分かった。

 

 

 私が愛想笑いをしてると思われてる

 

 

 稔は視力が無い代わりに『座標把握』ができる。そしてそれ以外にも長けてる部分がある。

 それは相手の感情を普通の人よりもあり得ないほど敏感に感じることだ。だから稔は怒りを感じて私が仕方無くこの状況に付き合ってると思われてる。

 それほど稔は障害者について心配している。この三年間で障害者について相当悩んでるのだろう。だから私は、

 「――稔。稔は自分が障害者だから私が仕方無く遊んでると思ってるの?」

 

 「だって、そうだろ。お前はそれで怒って――」

 

 「――違う! 私言ったじゃない! 稔のことが……好きって。それでもう障害者がどうとか……関係無いって稔は……本当は……分かってるでしょ……!」

 

 「――!」

 

 私は声を奮う。心から稔を好きだと知らせたいから。

 

 「今、私が怒ってるのはそんなことじゃない」

 

 稔が三年間悩んでることを『そんなこと』と言っていいか分からない。怒られるかもしれない。でも私は伝えないと、私が怒ってる理由を、

 

 「私が今言いたいのは…………!」

 

 「付き合う」という言葉が出せない。

 だから私は少し卑怯に思われるかもしれないが稔に「付き合う」ことをもう一度言ってほしくて、

 

 「私が好きな稔だったら分かるでしょ……! 私の好きな稔だったら分かるでしょ……! ……言って!」

 

 他人から見られたらどう思われるだろう。

 「付き合う」ことを自分から言葉にできず、それでも言って欲しいから相手に言わせる。それがどれだけ酷いことなのか……分かってる。分かってる……けど。

 私を好きな稔はそれも分かってる、そう思う私がいる。それを稔から言葉にして言って欲しい。

 

 「――! ありがとう……!」

 

 私はそのありがとうがどんな意味合いか分からなかったが、私が言われたい言葉を稔は解ってくれた。

 

 「――優華! 俺と付き合ってくれ!」

 

 この言葉を言われただけで私は顔が火照るのが分かる。でも、それに答えてなきゃいけない。稔はずっと手を差し伸べている。だから私は――

 「――いいに決まってるじゃない!」

 

 笑みと涙を溢れ出しながらそう答えた。


 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 


 

 俺は「付き合う」ことを優華に承諾してもらい、優華と付き合うことになった。

 とりあえず、ゴールデンウィークにデートすると決めた。

 優華の家から出てオレの家に向かう、とはいえ隣だが――

 「――ふぅ」

 

 自然と深いため息が出る。相当緊張してたらしい。そこに――、


 「おつかれー。どうだったー?」

 

 優華の友人――千秋が話しかける。

 千秋はある結果を知るために待っていた。

 

 「ありがとう。君のお陰で本当のことが知れた」

 

 「そんな堅苦しくなくてもいいのにー。もっとフレンドリーに、ね」

 

 「それは優華にも言われ……たな」

 

 千秋のアドバイスを受け取ろうとして話し方がぎこちなくなるのを自分でも感じ取れた。

 

 「そうなんだー。まぁ、障害者のことも関係無く優華は稔のことが好きだった、でしょ?」


 「あぁ、本当に礼をしなければならない」

 

 俺は障害者がどれだけ見下されてるか知ってる。中学生で初めて知ったことだ。だから優華も障害者を嫌ってるものだと思ってた。

 今日はそれが違うと分かるだけでも十分な結果だった。本来はそれまでだったが。

 

 「いいよーお礼なんてー。でもー、もしするなら優華としっかり付き合う、なんてのはどうかなー?」

 

 「それは……もう言った」

 

 「……マジ?」

 

 「本当だ。そして付き合うことにもなった」

 

 「――いやー、アタシはまだしないと思ってたんだけどねー」

 

 千秋は少し驚いていたが、俺はそれよりも疑問な部分について話す。

 

 「……あのとき……スポーツテストのあと、何故俺に両想いだと思うと証言したんだ?」

 

 それは俺と優華が両思いだと、千秋が俺に伝えたことだ。

 もちろん優華はこんなことは知らない。

 

 「まぁ、優華は顔にすぐ出やすいからねー。で、稔はコッチを見てること多くて優華に笑顔を見せてた……だからかな」

 

 「オレは……まぁ分かるかも知れないが、優華も俺が好きだって分かってたのか? オレが優華を見てもそのときは体温が上昇してたぐらいだったが」

 

 「……体温が上がったことを確認できるのね……。学校の人、ましてや優華には言わない方がいいねー。少なくとも気持ち悪いと思われるから」

 

 「そうか……気をつける」

 

 「――体温上がるってのが分かってて感情も人より感じやすいのに、優華の気持ちは分からなかったのね」

 

 「それは……少し違う。俺は……恋という感情を確かめる算段が恐らく無い」

 

 「それは眼が見えないから、とでも……?」

 

 「多分な。俺自身が恋をしているのは感じていた。だが、相手が恋をしてるかは分からない。体温が上がるのは運動したとき、緊張してるとき、冷や汗をかいたとき、そして恋をしたとき……だと思う」

 

 「……稔は少し現実を甘く見すぎだよ。眼の障害だからってのは的外れだよー。どんな人でも恋という感情は分かりづらいよ」

 

 「――なるほど、それは考えてなかった」

 

 俺は恋の感情を常人と同等、もしくはそれ以下と心に留めておく。

 だけどそれよりも――、

 

 「……聞きたいんだが、千秋はどうして俺にこんなプランを立ててくれたんだ?」

 

 俺が今日、優華を誘って帰ることなどのプランは全て千秋の考えたプランだ。何故、俺にここまで親切にしてくれるのか、未だに分からない。

 

 「……アタシはね、優華に助けられたの。中学一年生のときに……いじめを受けたんだよね。ほら、アタシって地毛が茶色じゃん。(はた)から見れば羨ましかったんだろうね。それでいじめられた」

 

 俺はその特徴(千秋の地毛)を自身の障害と照らし合わせてしまう。俺も中学では障害のせいでいじめられた。

 

 「多分かなり酷いいじめ。休み時間に10人くらいの女子たちからたらい回し状態で殴らたり蹴られたりカッター使った人もいたね。そしてその何倍もの人からアタシの耳に聞こえる陰口。他にも色々あっけど最悪だったね。けど……優華が手を差し伸べてくれてねー。アタシを助けてくれた。だからアタシなりの恩返しをしたかった。それで今回、このプラン立てた感じかなー」

 

 それは俺と同じいじめ、いやそれ以上のいじめだろう。それを優華は助けてくれたのか。

 

 「優華ったらねー、そのときの行動力は凄かったね。学校大騒ぎになってね。稔は知らなかった感じ?」

 

 「そうだね。中学校時代は少ししか学校行かなかったし」

 

 「――! それは嫌なことを質問をしてしまった……すまん……!」

 

 「もう過去の話だからな。気にしないでくれ」

 

 「……言葉そのまんま受け取っとくよ、とりあえずね。まぁ、そんなこんなでアタシは優華に返しきれない恩をもらった、って感じだねー」

 

 想像以上の話を聞かされた。俺も似たようなことはあったが、暴力はなかった。

 

 「……なんかこっちも野暮な質問した気がするな、いじめについて聞いてしまったし。すまない……」

 

 「これはお互いさまーってことで忘れよう。そーした方が楽だし」

 

 「あぁ、今日は本当ありがとう。感謝しきれない。貸しはしっかり返す。じゃあな」

 

 「うん! またねー!」

 

 千秋はこんな俺にも笑顔を見せて帰って行った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 私はゴールデンウィークの約束をしてウキウキしていた。

 だけど幼馴染と付き合ったというのはなんか……というかめっちゃ恥ずかしい。

 その恥ずかしさから自分のベッドにダイブして足をバタバタして悶える。

 

 そこでふと思う。

 

 「あれ? ゴールデンウィークに遊ぶとは言ったけどどこで遊ぶか聞いてなかった」

 

 

 私は携帯を取り出して稔に電話する。どこで遊ぶ以外にも言いたいことがあるしね。

 

 「もしもし」

 

 「もしもしー、稔?」

 

 「そうだよ」

 

 私は電話した要件を話す。

 

 「……あのさ、ゴールデンウィークでその……遊ぶ約束はしたじゃん」

 

 「うん」

 

 「でもどこで遊ぶか聞いてないよね?」

 

 「あっ、確かに」

 

 「どこがいいかな?」

 

 「んー、近くにあるあの遊園地とかでいいんじゃないかな。意外と大きい遊園地だし」

 

 「分かった。そう言えば日時もしっかり決めてなかったわね。……5月3日の午前9時ぐらいでどうかしら」

 

 「りょーかい。じゃあまたその日に。じゃあね――」

 

 「――ちょっ! ……ちょっと待って!」

 

 私は一瞬躊躇うがこれは話さないといけない。中学で無意識ながらも稔と距離を取ってしまったことについてだ。

 

 「あの……ね。私……実は小学生のときから稔をその……好きみたいでね。稔に特別な感情があったんだ。そのときはモヤモヤした、少し変な感情だと思った。それが恋だって分からなくて……その感情から逃げようとした。それて中学生のときぐらいから稔を遠ざけた。…………遠ざけようとしたことは知ってるよね」

 

 「あぁ……」

 

 稔は相手の感情を常人より圧倒的に強く感じる。私はそれを知ってて遠ざける道を選んだ。たとえ無意識だとしても。

 

 「でもね、稔が恋しくなった……と思う。それでも私は稔をただの幼馴染だと心の中でそう思い続けた。それが稔をさらに遠ざけることになっちゃったんだ」

 

 「…………」

 

 稔は何も言わない。恐らく私のためにそうするのが一番だと理解している。

 だから私は一方的な会話を続ける。

 

 「だけどね、今日色々あってようやく分かった。私は稔のことを……好き……恋をしてたってね。その…………稔から言わなかったら勇気出なくて何も言えなかったよ。ありがとう……!」

 

 私は稔をずっと想ってた。それこそ毎日のように。

 

 「…………なんか素直にそう言われると照れるな」

 

 「な、何よ。素直に受け取りなさいよ」

 

 じゃないとこっちも照れるじゃない。

 

 「そうだな。ありがとう、素直に受け取っとくよ。じゃあ、またな」

 

 「……! うん、またね!」

 

 プツっと音が聞こえ電話は切れた。

 私は今度、稔と遊ぶ……いや、デートする。少しは緊張すると思うけど私は稔と一緒にいたい。出来れば中学校三年間の溝も埋めていきたい。

 

 

 

 「よし! 頑張りますか!」

 

 私は稔のことを想ってる。これからも変わらない、そう想う。

 

 だから私は稔のことを想い続けると決めた。

初めて恋愛小説を執筆しましたが如何だったでしょうか?

もし良ければ感想等もらえると嬉しいです!

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[良い点] 障害を持つゆえに好きな女の子に向かって一歩を踏み出せない少年と、彼を気にしつつ本音でぶつかれない少女。そして彼らを見守る友人。 少し変わった設定でありながら、爽やかな青春恋愛小説でありま…
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