エテ畜生のイカれた劇場 ~お笑いヤンキー~
俺の名は山崎利男。
この地域じゃ名の通ったワルだ。
さて、今日はカネが無いんで善良な一般人共からカンパしてもらうとしよう。
「ママー、あのおじさん何かブツブツ言ってるよ~?」
「コラ!見ちゃいけません!」
ブツブツ独り言を言いながらダボダボのシャツを着たガラの悪い青年、山崎利男はわざとらしくふてぶてしく歩く。
そして、近くにいたソフトクリームを持った中学生くらいの少年にわざとぶつかった。
シャツにベットリと白いバニラ味のアイスが付いた。
「オイコラ!テメェ!俺の10万のシャツに何してくれてんだゴルァ!」
「すっ、すいません!」
利男が怒鳴ったことで少年が怯んで平謝りする。
「オイ!クリーニング代と慰謝料込みで10万・・・のとこだが3万に負けてやるからとっとと払えやゴルァ!」
「はっ、はい・・・」
少年はおどおどしながら財布から金を払おうとする。
周りの人々は面倒臭がったり、関わるのが怖いので誰も少年を助けようとせず、ただ見て見ぬフリをして通り過ぎて行くだけだ。
「ん・・・?」
「あん!?」
少年が自身の財布から、利男の首の付け根に視線を移した。
「あの、そのシャツさっき10万って言いましたよね?」
「あぁ!そうだ文句あっかテメェ!?」
利男が怒鳴って威嚇する。
「その、首に「税抜980円」という値札が付いているんですけど・・・」
「ゲェッ!?」
利男が慌てて首筋に手を当てると、プラスチックの細い線の感触がした。
その線をプチッと引っ張って千切り、先の方に付いている値札を目を丸くして見る。
「や、やべぇっ・・・取るの忘れちまった・・・」
額から汗をダラダラ流して顔を青くする利男。
そんな彼を周りのギャラリーは指を差し、手を叩いて笑い出した。
「ッ・・・・!テメェェェェェェ!ガキの分際で俺に恥かかせてんじゃねぇ!殺っぞゴルアァァァァァァァ!」
「ひいっ!」
怒り狂った利男は大声を上げ、拳を少年に降り下ろす。
殴られる恐怖で少年が目を瞬時に瞑る。
だがしかし、少年に拳が直撃することはなかった。
コンッ!
「うぎゃあああああああああ~~~~~っっっ!!!!!いってぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!!!!」
利男が凄まじい悲鳴を上げて拳を押さえている。
彼は少年ではなく、その後ろにある電灯の柱を力一杯殴ってしまったのだ。
ギャラリーの笑い声がさらに大きく、派手なものになる。
「テメェェェェェ~~~~!!!コケにしてんじゃねぇぞォォォォ~~~~!!!」
利男がまた少年に殴りかかる。
電灯の柱で拳を痛めたことで目には涙が溜まっている。
ドンガラガッシャアアアアアアアアアアアアアアンッッッッッ!!!!!
利男は拳を降り下ろした際に勢い余って近くのゴミ箱に頭から突っ込んでしまった。
「うぅぅぅぅああああぁぁぁぁあ!!!!!!!うぅぅぅぅぅあああああああああああ~~~~~!!!!」
利男は足をばたつかせてゴミ箱から抜け出そうとするが中々抜け出せない。
ギャラリーの笑い声がさらに大きくなる。
少年はただその様子を呆然と見つめていたが、やがて笑顔になって腹を抱えて笑い出した。
「うぉあっ!ぶっはぁ!あ~っ!くせぇ!」
利男が涙目、いやもう泣きながらようやくゴミ箱から出てきた。
「おい!クソガキ!テメェ!次会う時は覚えておけよコノヤロォ!」
利男は号泣しながら少年の方を振り向いて逃げ去って行った。
クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソッ!畜生があああああああああああああっ!
利夫はボロボロと大粒の涙をこぼしながら街中を疾走していた。
クソがっ!結局いつもコレだ!
生まれた時から親父とお袋に出来のいい兄弟と比べられて育てられていつも理不尽な扱いを受けてきた!
お袋なんて相手の子供の優秀さを誉めるときにはいつも俺の出来の悪さをへりくだってネタにしやがる!
兄貴からは金や物も取られ、弟からはバカにされ、それで泣きついた俺を親父は、「努力して見返してやれ!」と言うだけで何もしねぇ!
そんな家族にムカついて、仕返しにグレて迷惑かけてやろうと中坊の頃にヤンキーの集団に入り、パシリから番長に成り上がってやろうとしたが、結局三年間パシリ止まりで卒業しちまった!
高校に入って、今度こそはと思ってワルになる努力をしたはいいが、高校の奴らは「ヤンキーやんのなんてバカらしい、今は真面目に生きる人間が価値があるんだ」なんてほざきやがって俺のことなんて誰も相手にしねぇ!
結局3年生の現在までぼっちの非リア充だ!
それで、そのウサ晴らしをする為に片っ端から悪行をしていた訳だが、結局それは面白おかしい形で失敗して最初はビビってやがった周囲の連中に笑われるのがオチだった!
この間なんて、慰謝料目当てで気の弱そうなおっさんにぶつかって、慰謝料を脅し取る際の文句で「骨が折れたから病院に連れて行け!」と言ったら本当に病院に連れていかれて大事になるわ、缶スプレーで壁に落書きしようとすりゃあ、何故か出ないんでおもむろにスプレーを出す穴を覗けばスプレーが飛び出して俺をカラフルに染めやがるし・・・・・・・。
利男はそんな回想をしながら、涙が枯れてもなお泣きながら走る。
クソッタレ!どうせ俺は出来損ないなんだ!社会のゴミなんだ!
勉強もスポーツも芸術センスも話術もみんな最悪!
取り柄なんてバカやって人に笑われることしかねぇんだよ!
俺なんて・・・人に笑われることしか・・・
ん?待てよ?
利男は何か思い付くと、また別の方向に走り出した。
数十年後。とあるバラエティ番組。
「はい、次は!超絶熱湯ドッキリです!このドッキリを仕掛けられるのはあの超大物リアクション芸人です!」
若い女性が笑顔を振りまくと、映像が切り替わった。
華やかなセットが置かれたスタジオとは打って変わって殺風景な控え室が映し出される。
飾り気のないベージュ色のドアを開け、ダサいファッションの男が入ってきた。
「え~っと確か新番組の打ち合わせはここだったよな・・・・」
男は部屋をキョロキョロ見渡すと、足を一歩踏み出した。
すると、男が踏んだ床がパカッと二つに割れて男が下に落ちた。
「ぎょっへええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~!!!!あっぢぃやぁ!!!!あぢゃあああああああっ!!!!」
今度は画面が男が落ちた先に変わった。
男が落ちた下は熱湯が張ってあり、熱湯の熱に男はけたたましい叫び声を上げる。
やっとのことで男が這い上がると、そこには「ドッキリ大成功!!!」の看板を持つ帽子を被った男が歯を見せて微笑み、その後ろには大勢の若い男女が同じく微笑んでいる。
「オイィィィィィッ!ふざけてんじゃねぇよテメエェェェェェコラァァァァァァ!!!!」
男は大袈裟に自分の前にいる団体にブチギレた。
ここでまた映像が切り替わり、華やかなスタジオに戻る。
「以上、超大物リアクション芸人の山崎利男による超絶熱湯ドッキリでしたっ!」
拍手の嵐と共に若い女性が愛想良くウィンクをしてコーナーを締めくくった。