2話 諦めなければ、いつかきっと。
この小説は、「初期装備は羽ぺンでした!」の主人公違うバージョンの小説です。根本の世界設定や、主人公以外の登場人物は同じですが、主人公の違いでストーリーも全くと言っていいほど違うので、その違いを楽しんでいただけると幸いです。どちらが偽物とかどちらが本物とかではなく、ifストーリーでもないです。どちらも本物なのです。はい。
「おおい、そこの人。」
「は、はい?」
「そう、君。君だよ。そっから先は、魔国だぜ?一体魔大国に何しに行こうってんだい?」
「魔大国?」
魔大国......聞いたことがない国だな。もしかして、ここがどこかわかる手掛かりになるかもしれない。それに、あれだ。世界地図とかもあるかもしれない。どうやら、ここは僕の知らないところらしいし、そこに行くのが一番いいっぽい。
「今は魔族と人間の戦争中だぜ?それでも行くって言うのか?」
「知らないよ。僕には関係ない。行くしかないんだ。」
「そうか。それなら、俺もそっちに用事があるんだ。一緒に行くかい?」
「本当か!助かるよ!」
でも、なんで今まで戦争中だし行くなっていってたやつが、一緒に行くって言いだすんだ?しかも、さらっと言ってたけど、魔族って......?
「お前さん、魔族について知らないのか?」
「はい。いつの間にか、気が付いたらこの場所にいて......魔族なんて、今まで聞いたこともありません!......全部、創作物の中でのことです。実際居るわけない。」
「はっはっは!だがお前さん。今食ってる肉は、魔物の肉だぜ?魔物も一応は魔族だ。」
「え!?」
魔族の肉!?......体に悪そうだな。
「心配するな。毒なんか入ってねぇからよ。だがなぁ。お前さん、この年で魔大国に行きてぇとは、随分な人生送ってきたみたいだな。そこまで思い悩むなんて、お前さんも辛かっただろう。」
......何のことだ?まぁ、いいか。此処は話に乗っておこう。
「......そうですね。でも、今は生きてる。それだけで十分です。」
「そうだな。生きているだけマシな方なのかもしれないな。生きているなら、な。」
そうだよ。生きていれば、何でもできる。何でも。......だから、生きているかぎり諦めちゃダメなんだ!どんな酷い状況に立っても、諦めちゃ......ダメなんだ!
「ああ、あき......らめちゃ......ダメだ。」
「囚人。もう諦めたらどうだ?認めろ。そうすれば楽に殺してやろう。」
「ぼくは......やってない。やって......いないんだ......」
「そうか。そうして餓死まで真実を通すのもいいいが、偽りを認めて楽なうちに死ぬのも一つだと思うがな」
僕は......何をしているんだ?なんで牢獄なんかに幽閉されている?どうしようか。もう、諦めてしまおうか?......なんで牢獄なんかに居るんだ?
よく周りを見渡すと、肌の色が青かったりみどりだったり、耳がとがってたり鼻が豚だったり......本当に魔族なんだなって、変な実感がわいてくる。......ここは僕が元居た世界じゃないんだなって実感もわいてくる。
「......いいか。フードを深くかぶれ。見つかったら処刑されるぞ。」
「......え?処刑?」
何を言っているんだ?そんな悪いことをしているわけでもなしに。まさか、僕とんでもないことをしているんじゃないか?
「いちにのさんで行くぞ。」
「......え?はい。」
いちにのさん?......なんの話だ?
「いち......にの......さん!」
「......!」
「動くなぁぁぁっぁぁぁあああああ!俺は人間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!貴様ら魔族に家族を虐殺された、人間だぁぁぁぁぁ!」
「なっ!?いったい何をしているんだよ!」
「動けばこの爆弾を起爆させる!この爆弾は、半径一キロを跡形もなく消し飛ばァす!」
「一体......何をしているんだよ。」
キャァァァァァァァァァ! 人間よ!人間だわ! おい、騎士団を呼べ! バカを言うな!下手に刺激して爆弾を破裂させられたらどうする!俺たちまで木っ端みじんだぞ!
飛び交う悲鳴、怒号、絶望。僕が、今まで見たことがない光景。なんでだろうか。とても、胸が痛い。とっても、とっても、胸が痛い。
「やめろアンタ!自分が一体何をしているかわかっているのか!?」
「......!?うるさい!愛する妻と幼い娘を目の前で奪われたんだ!なぜ私を止める!君も悲しみを抱いているのではないのか!?」
「いくら悲しみを抱いていようとも、そんなことは許されない!アンタ、アンタの娘さんたちの命を奪った連中と同類になっちまっても良いのかよ!?」
僕にはこの人みたいな悲しみがない。だけど、言いきれる。僕は、どんなに苦しい状況になっても、諦めちゃダメだって。自分が幸せになることを、他人を幸せにすることをあきらめちゃダメだって。そう、諦めちゃダメなんだ!
「あきらめちゃ............だめ......?」
もう、諦めてもいいんじゃないかな?疲れた。もう、苦しいのは嫌だ。諦めなければ幸せになれるなんて、嘘だ。たわごとだ。
「うるせーぞ人間のガキ!死ぬなら静かに死にやがれ!」
「あき、あきらめ......ちゃ、だめ......だから。」
諦めちゃダメだから。諦めなかったら、きっと状況は良くなるから。絶対に最後まであきらめちゃダメだから。
「なんで......あきらめちゃ......だめ.....なの?」
「すまん......そうだよなぁ。諦めちゃしまいだ。......でもなぁボウズ。俺ぁもう、後戻りできねーんだよ。」
「止め_____!」
その表情は、悲しみで歪んでいた。もうどうしようもないという諦めと、高ぶってしまった復讐と、やり場のない怒り。もう、この感情は消えないという、諦め。
ドォォォォォォォォォォォォォ........................
結局、半径一キロっていうのは嘘っぱちだった。だけど、結構爆薬の量は多くて、十数人の死傷者を出した。十二人が死亡で、五人が重症。......近くにいた僕は奇跡的に助かったのだが、当然、重症患者の中で一番死が近かった。そして、意識が回復すると、すぐさま投獄された。
そりゃそうだ。だって、テロリストの仲間で、犯人の傍にいたヤツで、不法入国者の人間なんだから。何処をどうしたら無罪になるのってくらい、揃ってしまった。
僕は、意識が戻っただけの瀕死の状態で牢屋に入れられた。
「ああ......死に......だい......」
何日経っただろうか。あの日から、一体何日経過しただろうか。もう、覚えていない。もう、何もかも忘れてしまいたい。自殺することも許されず、ただ最低限生きられるだけの食事と飲み物を無理やり流し込まされる。......地獄だ。なんで僕を生かしておく?なんで僕に死ぬことを赦さない?ひと思いに殺してくれよ。頼むよ。
「頼む......殺して......ぐれ......」
誰にともなく言ったセリフだった。実のところ、誰にも向けて言っていなかった。誰にも......向けてはいなかったんだ。ただ、自分に対して、死にたい。そういってただけなんだ。
「ああ、良いだろう。それなら私が殺してやろう。」
「......え?」
「ただし、私が直接殺すわけではない。私の為に仕え、私の為に戦って死ね!」
「殺して......くれるのか?」
「......死に場所は、貴様が戦場で探せ」
「感謝......します」
独り言を拾って、さらに殺してくれると言ってくれたその言葉で......僕の潰えていた希望が再び輝きだすのを感じた。
こっちの主人公は脳筋派、羽ペンの主人公は頭脳派っていう感じですかね。今のところは、ね。