1話 目覚めた場所は......
しばらく体調不良で投稿できなくてすみませんでした。体調が回復したので、休みの分を取り戻すべく頑張ります!( ,,・ω・,,)و
ああ、心地よい。このままずっとこうしていたい。例えるなら、夢が自然に冷める直前っていうか......日の光を体全体で受けてる感覚っていうか。
「ああ、このままずっとこうして居たい。」
『いいのか?それでも別に構わないのだが......』
何か声が聞こえる。何の声だろうか?低いけど、耳に心地いいような声。この存在は無害だと本能が告げてくる。
「でも、動かないとダメなんだ。じゃないと何かがダメになってしまう気がする......」
『そうか。お前はそう選択するのか。......強いんだな。』
「え?」
なにか、不思議な声が聞こえた気がする。なにか、心地良い夢を見たような......?まぁいいか。所詮は夢だし、大した意味もないないだろう。ってあれ?
なんか、僕変な夢見てなかったっけ?なんか刺されて血だらけになって死にかけるっていう感じの変な夢。......ただの夢だ。だけど、ただの夢にしてはあまりにリアルな感覚と痛みだった気がする。
「待て待て。ただの夢じゃないって言ったら、何だっていうんだ?だって、あれが現実だとしたら僕は今ここに............あれ」
ここ......どこだ?
言い知れぬ違和感を感じて辺りを見渡す。......なんだ?昨日僕は何処にいた?昨日僕は......たしか、夜買い物から帰ってくる道で男に刃物で刺されて......。いや、違う。それは夢のはずだ。
「ちがう。あれは......夢じゃない?じゃあこれが現実だって言うのか?」
目の前に広がる光景。それは、無限に続く草原。本当に無限に続いているわけではない。無限に続いていると錯覚させられるように広く、何もない草原。
「昨日の僕は眠っていない。あの悪夢を見る前、ベッドに入っていないんだ。じゃあこれが......現実?仮にあれが現実としたら、僕は今なぜ生きている?ここは......天国なのか?」
訳が分からない。このままここにいたら、やがて僕は餓死してしまうかもしれない。もう死んでいるなら死なないのかもしれないが。......あるこう。じっとしていても仕方がない。歩くしかない。
「はぁ......はぁ......ああ!いつまで続くんだ、この草原は!天国じゃなくてここは地獄なのか!?」
永遠に続く草原を歩き続ける。そんなものがギリシャ神話にあった気がする。天国にも地獄にもいかない者が平原を歩き続けるってそんな感じのやつ。
「でも、なんでギリシャ?僕?日本で死んだんだぞ。......勘弁してくれよ。」
冗談きついよ。だって、ここがギリシャ神話通りにその平原だったんだとしたら、僕はこのまま永遠に歩き続けなきゃならないんだよ?
ガサガサ......
「なんだ?......もしかして。」
もしかしたら、天国の使い的な生物的な何か!?もしかして、ようやく迎えが来たってことかな?良かったぁ。信じてたら救われるんだなぁ。最後まであきらめないで歩き続けてよかったよ本当に。
「ブギーッ」
「............」
............。ハァっ!?あまりにも突然のことでしばらく固まってしまった!?これが天国の使い?......いや、あり得ないだろ。っていう事は......こいつ。
「ブギィーッ!」
「ですよねー!うわぁぁぁあああああ!」
野生のイノシシ!?何でこんなとこにいるんだよ!?絶対おかしい!絶対おかしい!ちょっと待って!速い!イノシシ速い!こいつこんな足速かったんだね!?
なんで僕がこんな目に合わなきゃならないんだよ!?っていうか、ここ何処だよぉぉぁぁあああああああああああああああああ!?
「はぁっ......はぁっ......くそっ!なんなんだよあのイノシシはさあ!」
あのイノシシ、めちゃくちゃ足速かった。何とかやり過ごしたけど、背の高い草むらが無かったら追いつかれて角でドーンされてただろう。ドーンって。
「にしても、どれくらい走っただろう?なんか不気味なところだな......」
辺りは若干明るい紫色の草になっている。いつの間にか草の種類が変わっていたみたいだ。そういえば、辺りは変わった色や形をした木とか、植物におおわれている。......明らかに雰囲気が変わったなぁ。
「ここほんとにどこだよぉ......こんな不気味な場所、知らないんだけど」
少なくとも日本ではないことがほぼ確定してしまった。......野生のイノシシとか広すぎる平原からして解ってたことではあるけどね。
「でも、ここら辺......」
明らかに意図的に整えられた道。そして、少し道から外れた場所にある畑、果樹園。......近くに少なくない人の集落があるはず。......畑や果樹園の規模から中~大規模の街?っていうか、こういう平原とかに畑って......どこかの国で見たことある気がする。ウクライナのひまわり畑だっけ?テレビでやってたんだよなぁ。綺麗だった。......くそっ。家に帰りたいよ。
「と、とにかく日も暮れてきた。夜を過ごすためにも、村だか街だかに早く行こう!」
幸い畑の横に看板がおいてあり、何か言葉が書いてある。もちろん読めないけど、文が一つで矢印が書いてあることから、道しるべになっていて〝この先に街がある”というようなことが書いてあるのだろうということが推測できる。......ただの推測だから、全然違って逆方向なんてこともあるかもしれないけど。......でも。
「このままここでボーと立ってたって仕方がない。......足が根っこになったみたいに動きたがらないけど、もうひと踏ん張り、頑張ろう」
そう、つっ立てたって何も変わらない。なら帰るために動くしかないと。考える前に動けってやつだ。時とばあによるけど、今は動く時。......多分。......大丈夫だよね?
「魔王様。」
「ああ。感知してる。」
闇の中響く二つの声。......少女のような幼い声と、その声を敬う初老の男性の声。周囲に雨音が響く中、しばらく静寂が周りを包む。
「一体、何が起こるんでしょうか......私は不安です。またこの国に悲劇が起こるのではないか、と。」
「そうだな。一瞬とはいえ、大きな魔力反応が表れた。それが、私たちに福をもたらすのか、それとも......」
ゴロゴロゴロ......ピシャァァァァン!
その先は言わなかったが、言わんとすることは解ったらしい。不安そうな、焦るような空気が場を支配する。......過去、この国に起こったらしい悲劇。それを思い出してなのか。
「なぁ。」
「なんでしょう、魔王様。」
「私はどうすればいいだろうか。」
「魔王様はいつも通りになさっていればよいのです。魔王様は役目をしっかりとなされていますよ。」
「そうだろうか......」
ゴロゴロゴロ......
またしても雨音と雷鳴だけが室内に響く。落雷の光に照らされた顔は俯いており、毅然とした態度からは考えられない感情がこもっているように感じる。
「魔王様......」
ゴロゴロゴロゴロ...........ピッシャァァァン!
「なぁ」
「なんでしょうか」
落ち込んだように話しかける少女。
「停灯......まだ治らないのかな」
「そうですなぁ......」
先ほどから静かな間が開いていたのは別に雰囲気を大事にしていたわけでも何でもない。落雷のせいで魔力灯が消えて真っ暗だったから何となく喋りづらかっただけだったのである。