プロローグ
もっちもちです。元々書いておいた二、三作を思い切って出しちゃうことにしました。ハードスケジュールになると思いますので人作品ごとの更新頻度が遅くなるかもしれませんが、ご了承ください。
この作品は、私が同時進行で書いている『初期羽』の主人公違うバージョンの小説になっています。もし、主人公が違ったら......というものです。そのため、設定や内容が似通う箇所がありますが、ご了承ください。基本的には全く別のストーリ-にするので、どちらも読んでいただけると幸いです。
僕は今、とても困った状況にいる。そもそも、こんな状況になったのは僕のせいなんだけど。......とりあえず僕は今とても困っている。どのくらい困っているかというと......死ぬほど?冗談になって無いなぁ。これは。だって今僕は......
「コヒュ......ヒュッ......ヒュ」
本当に死にかけてるからだ。いや、まだ死んでいないことが幸運だというべきなんだろうか?いや......不幸なんだろうな。......なぜだ!まだ助かるかもしれないじゃないか!諦めるな!......なんて言われそうだけど、僕にはわかる。もう、自分が息をしているのか、心臓は動いているのか、目は空いているのかなんてこともわからなくなってきてる。体の感覚がね、もう無いんだよ。
う~ん、息絶えるまで暇だし......じゃあ、こんなことになった経緯をお話ししよう。
「はぁ......何やってんだろうなぁ、僕は。」
僕の名前は加賀修斗。青春の真っただ中を生きる、高校二年生だ。え?なんで青春を生きる高校生が、ため息つきながら夜道をとぼとぼ歩いてるのかって?......最近さ、周りからのプレッシャーがひどくってさ。母親は有名女優、父親はサッカー選手。僕の名前のしゅうとだって、サッカーのシュートからとったんだって。
「そんな名前馬鹿げてる。......って言ったら他の修斗って名前の人がかわいそうか。」
もちろんこんな名前を付けるもんだから父は僕にサッカーをやらせる気満々だったらしい。母は僕に早いうちから芸能界デビューさせるつもりだったっていうし。......で、お互い頑固だから当然どっちもやる羽目になった。......訳が分からん。その時はまだ七歳のころかな。
「あのころは......まだ無垢な子供だったからなぁ。何がおかしいのかさっぱりわからなかった。」
周りと違うのが普通って思ってたこともあって、今までずーっとそうしてきた。それが当然だと思ってた。いや、こう言うと語弊があるかもしれないけど、僕の芸能界デビューは成功したといってもいいし、サッカーもIHに出場するまでには上達した。サッカーは僕個人じゃないけどね。で、こんなに恵まれてるお前がどうしてため息ついてやがるんだと。
......僕はね、幼いころはたくさん友達がいたんだ。小っちゃいころは明るくて活発だったらしくて、女の子からも男の子からも引っ張りだこになってたって。でも、頭と体が成長するにつれて、友達は離れていった。芸能人の息子なんかに近づいたら何か問題が起きた時にって考えるようになったのかもね。
......大体、最近の漫画とかテレビとか小説とかは本当にひどい。お金持ちが権力を振りかざして偉そうにふんぞり返る描写があったり、特定の人をハブにしたり......あんな表現するから実際何とも無い人も避けられるようになっちゃうんだよ。
っていう理由があって、僕には今まで彼女がいたことも無いし、友達とカラオケ行こうぜ~なんてなったことも無い。カラオケってどんな場所なんだろう?歌を歌うんだよね?収録部屋みたいな感じなのかなぁ......
「......で、一人寂しく夜中に買い物してると」
友達が居たら、一緒に買いに来てるのかな。なんてね。......なんか、友達の家に泊まって勉強とかあこがれるな。僕、成績も普通だけどね。
......!......!!
「......ん?何の音......?」
くだらないことを考えながら一人でブツブツ言ってると、路地裏から何かの音が聞こえてくる。......声?その音は、高く断続的になっていて、人の......しかも、女性の声のようにも感じた。っていうか近づいてみたらまんま女性の声だった。
「......嫌な予感!」
いやな予感は残念ながら的中してしまった。声のもとにたどり着くと、そこには男女が取っ組み合っている現場に出くわした。
「は......?」
あまりに非現実的な高家が目の前で繰り広げられていて、一瞬硬直しておまけに間抜けな声まで漏らしてしまった。
「あ!そこの男の人!助けてください!この人、さっきから脅してくるんです!!」
「コラこのアマァ!......おい!そこの男。解るだろぉ?」
「......いう通りにしますから、その手の物を下に置いてください」
男の手に握られて、街灯の光をギラギラと反射させている物体は、どこからどう見てもナイフだった。小ぶりな果物ナイフだったけど、刺さりどころが悪ければ死ぬ可能性もある。......第一、取っ組み合いはひと段落ついていた。......女性が男性に後ろから首にナイフを突きつけられるという形で。
「カネだ。今持ってるだけのカネをよこせ。ポッケに入ってんだろ?カネがパンパンに詰まった財布がよ......」
「......解りました。」
コイツ、金目当てで女性に乱暴を!許せない。......でもなんで僕がそれなりに持ってるって知ってるんだ?今日はたまたま一度に引き出す日なのに。とにかく、今コイツに逆らうわけには行かない。......逆らえないから精いっぱい睨んでやる!ふんぬ!ふんぬ!こぬ!こぬやろう!......情けない。
ピリッ。
腹部に感じる小さな痛み。やば......またゲリ〇豪雨か。目の前にいる男がポカーンとした顔で僕の財布を見つめている。何をそんなに驚いてるんだ?
「早くこれ持って行ってくださいもう限界なんです。」
このままだと土砂降りは確定です。局地的な大雨です。そういっても、僕の腰辺りを見つめたままじっとしてる強盗犯。......?何をそんなに見つめてるんだ?もしかして。
やっちったか!?
バッ!
なんだ、何もないじゃん。目に入るものといたら、趣味の悪い赤シャツに、ジーパン、アスファルト。いや、ファッションセンス皆無かよとか言わないでね?確かに僕はファッションは良く解んないし、いつもなるべく雑誌を参考にしてるけど、これを着るように言ったのは母だ。
『派手な服装をしないと、修斗が目立たないでしょ』
なんだって。でも、さすがに派手過ぎて、今まで一度も来たことがない......あれ?なんで僕、今日は赤シャツ着てんだ?少しクラクラしてきた。
ドサッ......ビチャッ。
あ~あ。本当は気が付いてたよ。でも、今回もまた運悪かったなぁって思ったら、何とか夢だと思い込もうとしちゃった。意外と人の血って冷めるの早いんだね。漫画とかだと、暖かいとかいうけどあれ嘘だ。......最悪なのは寒いのはほんとだってことだ。
あー意識がもうろうとするよ。すごいな、大量出血って、こんな気分になるんだ。意識がもうろうとして、ボーっとして......まるで夢の中にいるみたいだ。なんか、少し心地いいかも。冗談きついな。
『ちょっとどーするのよ、コイツ。死んじゃうんじゃない?』
『す、すみません。睨んでくるもんだから、ナイフでも取り出すのかと......』
『ボケっとしてないで逃げるわよ!』
『で、でも......』
あー、なんかよく聞こえないけど、女の人は無事みたい。良かったぁ。これで無事じゃなかったら僕がこんなになった意味がないからね。
......くそっ。
僕の頭にあったのは現実の酷さに対しての、怒りと悲しさだった。やがて、その感覚すらも良く解らなくなって。......僕の意識は果てしない暗闇に落ちた。